2011年3月11日に発生した東日本大震災は日本に未曽有の被害をもたらしました。その後も余震が頻発していることから、連日マスコミは大災害に備えるよう注意を促しています。災害時は食糧不足から栄養不良を招きがちです。今回は災害時の栄養管理についてご紹介いたします。
避難所生活、ストレスと栄養不良
2011年3月11日、東北沖での地震に津波、さらに放射性物質の飛散で、多くの人々が緊急避難を強いられました。慣れない避難所生活でのストレス、加えて栄養不良で人々は体調を崩したといわれています。
この地震により地殻が大きく動いたことで、今後も余震やさらなる大災害が予測されると、連日マスコミが報道しています。
地震にかかわらず、人はいつさまざまな天災に襲われるかわかりません。そのためにふだんから災害時の備えに注意を払っておくことが大切です。
では、何をどう備えておけばいいのでしょうか。まず、食糧の備蓄ですが、とくに栄養面についても十分考慮する必要があります。
2012年4月7日(土)、ヤクルトホールで、日本栄養士会主催の「第33回健康づくり提唱のつどい~非常災害時の栄養と食事、食べることは生きること」が開催され、栄養士会常任理事の下浦佳之氏が東日本大震災の被災者が直面した食事・栄養の問題について講演しました。
1ヶ月以上1日1~2食、ほとんどがおにぎりや菓子パン
16年前、私たちは阪神・淡路大震災という大災害を経験しました。日本栄養士会ではその時の教訓が今回の大震災で活かされたといいます。
日本栄養士会では被災地支援のため、すぐに災害対策本部を立ち上げ、被害を「フェイズ0~3」に分類、被災者への支援活動を行いました。このフェイズ(こちら参照 >)に準じた対応こそ、16年前から取り入れた手法でした。
震災発生直後は救援物資の提供が中心でしたが、3日後には、避難所等で栄養相談や調査を行い、被災者の栄養状態の改善などの対策を講じました。
実際に被災者の方々の栄養状態はどのようなものだったでしょうか。
慣れない避難所生活はかつてないほど長期に渡り、1ヶ月以上も1日1~2食で、ほとんどがおにぎりや菓子パン、カップラーメン、菓子類といった炭水化物中心の食事でした。
温かいみそ汁も出ましたが、数日ならともかく1ヶ月もおにぎりとみそ汁だけとなると、やはり栄養学的には問題であったと下浦氏はいいます。
塩分過多で、多くの被災者が高血圧症に
避難所でのおにぎりはラップにくるまれていました。これは阪神大震災の教訓が活かされていました。ラップ包装だと茶碗と違い、洗わなくて済み、手が汚れていても、冷たくても食べられます。ただその分、少しでも保存がきくようにたっぷりと塩がまぶされていました。そのため、ともすると塩分過多になりがちでした。
今回は水道がなかなか復旧せず、復旧しても水が非常に貴重であったため、できるだけ排水しないよう、カップラーメンなどの汁も飲み干すことが原則とされました。こうしたことも塩分過多に拍車をかけ、1ヶ月もすると被災者の多くに高血圧の症状が現れたといいます。
また、肉や魚、大豆のタンパク質や野菜・果物類のビタミン・ミネラルが圧倒的に不足していたため、便秘や肌荒れ、免疫力の低下、さらにイライラやストレスの増大といった精神面での不調を招いたといいます。
配分は「平等性」を重視、「栄養面」での配慮に欠ける
被災地での食料不足が連日報道され、国内はもとより世界各国からたくさんの支援物資、とくに食糧が届けられました。
ただ、保存のきく炭水化物ばかりで、しかもあまりに膨大な量であったため適切な管理ができず、配分も「平等性」が重視され、「栄養面」での配慮に欠けていたといいます。
避難所生活での栄養管理を振り返ると、前期は塩分過多で高血圧症、中期はビタミン・ミネラルが圧倒的に不足した低栄養、後期は揚げ物中心のお弁当が配られたことから過栄養が生じたのではないかと下浦氏は指摘します。
避難所生活では、光熱費をかけたくない、できれば食費を削りたい。そうした人々の思いがこうした食事スタイルと症状を招いた一因といいます。
健康な身体こそ、災害時の何よりの備え
避難所では、ストレスで母乳が出ない母親も多くいたそうです。また、アレルギーの子どもが増加していましたが、避難物資ではそうした子供たちに対処できないという声もあったといいます。
いつ発生するかわからない災害に対し、私たち一人ひとりが最低限必要な栄養の知識を普段から身につけておく必要があります。水や缶詰といった非常食の備蓄はもちろんですが、加えて自身の体調管理に必要な栄養補助食品も備えておくことが大切です。
そして、なによりも大切なことは日頃から健康管理に努め、災害という困難にも耐えられるような丈夫な身体を培っておくことであるといえます。