健康豆知識

健康の温故知新

掲載27 現代病に手軽なツボ(経穴)刺激

現代病の代表格といえば、今やうつ病といわれるほど気分障害を訴える人々が増えています。仕事や対人関係でのストレスが高じてうつ病へと繋がるケースが少なくありません。今回は現代人が手軽にできるストレス解消やうつ病対策に効果的なツボ(経穴)刺激をご紹介いたします。

増えるうつ病、自殺の最大要因に

近年、日本でうつ病を患う人々が増えています。厚生労働省の調査では、うつ病等の気分障害の総患者数は平成8年は43.3万人でしたが、平成20年では104.1万人と2.4倍に増えています。

うつ病は自殺の要因の筆頭に挙げられています。平成10年以降、日本では自殺者が3万人を超えるようになりました。警察庁の発表によると、自殺は国内の死因別順位で第7位、世界主要7か国では、男女とも日本がトップになっています。

現在、うつ病には薬物療法や精神療法が施されています。日頃多くのストレスを抱える現代人。何か手軽に行えるうつ病対策はないものでしょうか。

気血が巡る経脈と経穴に作用

2012年2月22日(水)、東京ビッグサイトで統合医療展2012が開催され、この中で全国鍼灸マッサージ師協会による「ツボ療法~今日からあなたもツボマスター」と題したセミナーがおこなわれました。

人体には肺経、腎経、脾経など14の経絡があるとされています。これは東洋医学の独特な捉え方で血管系でも神経系でもありませんが、この経絡上にあるツボ(経穴:全身に670ほど存在)を刺激することにより病気の予防、美容、精神安定などに効果があるとされています。

指圧や鍼灸によるツボ刺激は気血が巡る経脈と経穴に作用し、自律神経や内分泌ホルモンの働きを整え、新陳代謝を活発にし、人が持つ本来の自然治癒力を高めていきます。

こうしたツボ刺激による人体機能の賦活化は古くから行われていますが、とくに手技によるものは現代人に手軽にでき、副作用のない療法といえます。数あるツボの中から、とくにストレス解消やうつ病予防に役立つツボを幾つかご紹介いたします。

1970年代に世界的な鍼灸ブーム

1971年、ニクソン大統領が訪中した際、同行していた新聞記者が現地で突然盲腸になりました。手術は麻酔薬を使いませんでしたが、無事に成功したといいます。実はこの時に併用したのが鍼治療でした。後に、この新聞記者が鍼治療の絶大な効果をニューヨークタイムズに掲載したことから、世界的な鍼灸ブームが起こりました。この手術の際に、刺激したツボが「合谷」です。

「合谷」は、手の甲側、親指と人差し指の骨が交わるところにあります。盲腸の手術中に「合谷」のツボを刺激したことで、脳内から天然のモルヒネに類似したホルモンが分泌され、痛みが軽減されたと考えられています。

「合谷」は、首から上の不快感や肩凝り、疲れやストレス解消などに役立つ万能のツボで、ここを30回ほど連続して押すと効果が得られるといいます。また、風邪のひきはじめや子どもの夜泣き、目・鼻・歯の不調や痛みにも効果的といわれています。

他にも、手のツボでは、小指側の手首内側、くぼんだところにある「神門」が、イライラなどの感情を鎮めるのに効果的です。

頭部のツボでは、頭頂の中心にある「百会」が、頭の疲れをとるのに効果的で、うつ病の改善にも使われています。また、後頭と首のあたり、頸椎の両側にある「天柱」は、目、耳、鼻など頭部に関わるツボで、慢性的な頭痛や首の凝りの解消に効果があります。この「天柱」もうつ病の治療に使われていますので、ここを「もむ」「さする」「たたく」などの刺激を与えるといいでしょう。パニック症状の改善にも良いといわれています。

胸部では、左右の乳頭を結んだ線の中心にある「h27(だんちゅう)」が気分の落ち込みや活力不足の解消に役立ちます。そしてさらに、やる気を高め、身体に活力を与えるには臍(ヘソ)から指1本半ほど下のところにある「気海」と足裏の土踏まずのくぼみの中心にある「湧泉」を刺激するといいでしょう。

「気海」は「丹田」とも呼ばれますが、緊張を解き、平静を保つには常にここに意識をかけるとよいといわれています。また、青竹踏みによる足裏全体の刺激は「湧泉」以外のツボも刺激しますので気力や全身の活力アップに効果的です。

平安時代、皇族や貴族にツボ療法が人気

ここで少し、ツボ療法の歴史についてお話しましょう。
中国では石器時代から石のかけらなどを用い、体(経絡や経穴)を押したりさすったり、温めて患部に当てるなどの療法を行っていたことが文献に記されています。ツボ押しの道具には、石だけでなく、動物の骨や角で作ったものなど多数発見されています。

日本には600年代に遣隋使によりツボ療法が持ち込まれ、平安時代には皇族や貴族の間で人気を博しました。984年に丹波康頼が書いた日本最古の医学書「医心方」にも鍼治療が紹介されています。

丹波自身も京都の亀岡辺りで鍼灸師として活躍し、現在もその功績が語り継がれています。安土桃山時代には「打鍼法」という鍼灸技術が生み出され、多くの人々が治療されました。当時は第一次鍼灸ブームともいえるほど盛んで、鍼灸は国内で人気の高い治療法・健康法であったといいます。

江戸時代に現在の鍼治療が確立

江戸時代になると、杉山和一が「管鍼法」という痛みのない鍼技術を生み出しました。これは現在も用いられており、鍼治療の主流になっています。鍼を刺す前に、竹や金属の筒を用いて周りに先に刺激を与え、その中心に鍼を刺すというやり方です。筒を先に当てることで、鍼を刺す痛みが殆ど感じられないという非常に画期的なもので、これにより鍼治療がより一般的になったといわれています。現在、筒はプラスチック製に置き換わっていますが、方法は全く同じです。

こうして人気を博した鍼灸治療でしたが、1945年(昭和20年)に、日本で鍼灸治療を偶然目撃したマッカーサーが「野蛮な行為」として一切禁じてしまいました。しかし、その後も、一部の鍼灸師が密かに鍼灸医学を守り続け、1947年(昭和22年)には、医業の一部として鍼灸治療行為を許可する法律が成立しました。

いくつかのツボを覚えておくだけでもセルフケアに役立ちます。ツボ刺激はおおよその気持ちの良い場所がわかれば十分で、ミリ単位でツボの場所を気にする必要もないといいます。気持ちの良さを大切に、いつでもどこでも手軽にできるツボ刺激で、気力を高め、ストレス社会を乗り切りたいものです。

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