インドで発祥し、体質改善や叡智に至るための行法として知られるヨガ。日本では一時期、宗教色の濃いエクササイズとして偏見視されていたこともあります。そのヨガが近年、女性たちの間でブームになっています。特徴的なのは、現代人の癒しに欠かせないエクササイズとして現代風にアレンジされていることです。今回は、日本でブーム再燃のヨガを取り上げます。
ヨガ=おしゃれなエクササイズに
今回日本では第3次、あるいは第4次ともいわれるヨガブーム。きっかけは米国よりもたらされたといわれています。2001年9月11日に起きた米国同時多発テロ。人々はその悲惨な記憶から逃れるために、ヨガで心身のバランスを図り、ストレスを癒したといいます。
折りしも米国では、2000年に入り、オルタナティブ・メディスン(代替医療)を求める機運が高まり、カイロプラクティクスや気功とともに、ヨガによる体質改善や病気予防に国民の関心が集まっていました。心身両面からのアプローチでもたらされる体質強化、さらにスピリチュアルブームも相まって、ヨガを実践する人々が増えていきました。
ここ数年、日本でも、多くのフィットネススタジオでヨガのクラスが設けられ、ヨガマットを持って街を歩く女性が見受けられるようになりました。
インドをルーツとするヨガは、世界中に多くの愛好家がいますが、それぞれの国の風土・文化に合わせて変容していくことも少なくありません。
今回のヨガブームで特徴的なのは、さまざまにアレンジされた現代版ヨガが派生していることです。
インド独特の湿度や蒸し暑さを模倣したようなホットヨガ、また笑うヨガともいわれるラフターヨガは、呼吸法を重視したヨガといえますが、それぞれの国民性により、自在に変貌を遂げるのも、ヨガの醍醐味といえるかも知れません。
日本の女性たちにとって、ヨガはエアロビクスやランニングのようにハードではないため、親しみやすいのかも知れません。また外見だけでなく精神面も整えることから、トータルな美容をもたらすエクササイズとして好まれているのかも知れません。
近年はおしゃれなヨガウエアなども多く、多くの女性芸能人やモデルがヨガを日常に取り入れていることを公言しており、今や、ヨガはおしゃれなエクササイズとして認識されつつあります。
マドンナやハリウッドスターもヨガに傾倒
米国では、2000年に入り、一気に浸透していったヨガですが、普及に一役買った有名人としては歌手のマドンナがよく知られます。
彼女がヨガに出会ったのは1995年の出産の頃といわれています。それまでジョギングなどフィジカルなエクササイズを中心に行っていましたが、出産を機に、メンタルフィットネスとしてのヨガに興味を覚え、毎日自宅でプライベートレッスンを受けるなど、のめり込んでいったといいます。
彼女の爆発的セールスを記録したアルバムに「レイオブライト」がありますが、この中にもヨガの曲が入っているといいます。彼女のヨガへの心酔ぶりがうかがえます。
そうした彼女のヨガへの傾倒ぶりを、メディアも取り上げました。マドンナほどの世界的な有名人となるとその影響力も計り知れません。俳優や著名人、また、ハリウッドでもニコール・キッドマンやメグ・ライアン、ジュリア・ロバーツなどがヨガの愛好家として名を連ねるようになります。
健康法・代替療法としてのヨガ
ヨガの健康効果や代替療法としての有益性については今さら述べるまでもありませんが、心身両面に働きかけるエクササイズであることから、西洋医療が不得手とする精神領域の疾患へ有効に作用する補完代替医療として、その役割が期待されています。
ヨガというとアクロバット的なポーズ、アーサナ(体位法)を思い浮かべる人も多いと思いますが、ベースには呼吸法や瞑想といったメンタル面の改善を図る行法があり、日頃の悩みやストレスといった心の負担を解消しようと考える人々がヨガの門を叩くケースが増えています。
近年、日本では、「スピリチュアル」や「癒し」といった言葉が市民権を得るようになりましたが、スピリチュアル系の書籍を読んだらそれがヨガの教えであった、運気を上げるためにマントラを学んだらヨガに行き着いた、ヒーリングサロンで受けたアーユルヴェーダのトリートメントがきっかけでヨガを実践してみたなど、心の調整法を求め、ヨガに行き着いたという人たちが少なくありません。
いずれにせよ、さまざまなストレスを抱え、心のバランスを崩しがちな現代人。ヨガに関心を向けるようになるのも、自然な流れといえそうです。
ヨガとは一体なにか
ところで、エクササイズであれ、心のバランス調整であれ、ヨガを始めた人の中で、それらはヨガの一面にすぎないことに気づき、もっとヨガを体系的に深く学びたいと希望する人々が徐々に増えているようです。インドまで行き、ヨガを学ぶ若い女性も少なくありません。ヨガ留学も人気を集めていると聞きます。
ここで少し、ヨガとは何かということについても触れておきましょう。
ヨガとは一体何か。ヨガは宗教でも、エクササイズでも、呼吸法でもありません。そもそも定義すら難しいといえます。ヨガの流派は複雑に枝分かれしており、総合的・体系的に理解しようといくら学んでも学び足りないほど奥行きのある「哲学」であることに気づかされます。
ヨガを総合的に学びたいと考える人が、最終的に行き着く書物が、「ヨガ・スートラ」です。2000年以上前に賢人パタンジャリによって編纂されたもので、最も古いヨガの教典といわれています。
同書は、ヨガの最終目標である宇宙や神といった大いなる存在と融合し、究極の平穏(いわゆる悟りの状態)を達成するための学びの書とされています。
その中に、八段階の行法、いわゆる八支則がまとめられています。八支則では、ヤマ(外向きの練習)とニヤマ(内向きの練習)の実践という2つの行法のあとに、アーサナ(体位法)がきます。
ヤマは非暴力、正直、不盗、禁欲、不貧、ニヤマは清浄、知足、自制、勉強、献身から成り立っていますが、これらはヨガのポーズとは全く関係のない、日々の生活の心がけを説いたものです。
宇宙や自然といった、自己を超越した大きな存在と結びつき、究極の平穏を手に入れるためには、八支則のうちの最初の2つ、ヤマ(外向きの練習)とニヤマ(内向きの練習)を実践しなければいけないとされています。
体位法では、いわゆるヨガのエクササイズを行なうことで体と呼吸のバランスを取り戻し、次にプラーナヤーマ(呼吸法)、そしてプラティハーラ(制感)、ダーラナー(集中)、ディアーナ(瞑想)、サマディ(至福=悟り)へと進んでいきます。
つまり、いくらヨガのエクササイズで、アクロバティックなポーズが取れたとしても、日頃から暴力をふるわない、嘘をつかない、学び続ける、などといった生活を実践しなければ、本来のヨガの目的が達せられないということです。ヨガではエクササイズの前に、まずそのことを説いています。
ヨガの最終的な目的は、「自身の心のなかに究極の平穏を見いだす」ということです。近年のヨガブームは、現代人の心の声が反映されたもの、ともいえるかも知れません。・