昔から、よく噛んで食べることは健康に良いといわれています。しかしながら、なにかと忙しい現代人。ゆっくりと食事に時間をかける余裕もなく、いつしか咀嚼の効用も忘れ去られてしまったかのようです。前回、玄米菜食の効用について取り上げましたが、今回は咀嚼の重要性についてご紹介します。
今、あらためて「咀嚼」の重要性をアピール
「嚥下するまでに30回程度は噛み砕くのに必要な固さの食品や料理を選び、さらにそれを1口30回以上噛んで味わう」。それこそが「食」と「栄養摂取」と「健康」のあるべき姿—。
2010年4月7日(水)、ヤクルトホール(東京都)で、「2010年世界保健デー記念 第31回健康づくり提唱のつどい」が開催されました。今回は日本歯科医師会と日本栄養士会が連携し、食育の必要性を訴えました。
シンポジウムのメインテーマとなったのが、「咀嚼」の重要性。よく嚼んで食べることの効用を国民に再認識してもらうための啓蒙運動、「噛ミング30(カミングサンマル)運動」の推進を宣言しました。
日本歯科医師会と日本栄養士会が掲げたのが以下のことです。
1.生涯にわたって安全で快適な食生活を営むためには、栄養のバランスをとりながら、しっかり噛むことであり、それを通して、味わい深く、心豊かな人生を営むことを目的とした食育を推進する。
2.嚥下するまでに30回程度は噛み砕くのに必要な固さの食品や料理を選び、さらにそれを一口に30回以上噛んで味わう食べ方である「噛ミング30(カミングサンマル)運動」を推進することで、「食」と「栄養摂取」と「健康」のあるべき形を推進する。
3.食に関わる団体等と連携・協働し、食育の重要性を広く国民に訴え、社会的な活動として、これを推進する。
肥満防止にも、「咀嚼」が貢献
パスタやハンバーガーなど欧米型の食事やインスタント食品の普及により、柔らかく口当たりの良い食品が日本人に好まれるようになりました。
また、日本人の主食、精白米も口当たりがよく、美味しくもありますが、近年、そうした食により、次第に咀嚼回数が減りつつあるようです。
一方で、玄米や雑穀は食物繊維や微量ミネラルが豊富で、健康に有益であるとの評価が年々高まっています。ただ、歯ごたえがあるため十分な咀嚼を要します。
しかし、咀嚼により、満腹中枢、記憶・学習能力や睡眠/覚醒などの恒常性機能、ホルモンバランスなどを刺激・調整する脳内の神経系、ヒスタミン神経系が賦活することが明らかになっています。
シンポジウムでは、大分医科大学名誉教授の坂田利家氏が「脳機能からみた咀嚼法のすすめ」と題してヒスタミン神経の作用について解説しました。
坂田氏によると、ヒスタミン神経の賦活で内臓脂肪が特異的に分解されたり、食欲が抑えられるといいます。咀嚼により、ヒスタミン神経系が活性化し、脂肪合成酵素がより働きにくくなるため、余計な脂肪が合成されなくなるといいます。
つまり、咀嚼が肥満防止に役立つというわけです。例えば、10分間程度デンタルガムを噛んだ後に食事をするだけでも、食べる量が減るというデータも集まりつつあるといいます。
さらに、咀嚼によって得られる満腹感は、満足感をもたらし、リバウンド防止につながるといいます。
歯周病の予防にも「咀嚼」が一役
現在、日本歯科医師会では「8020運動」を提唱しています。これは、80歳になっても28本の歯のうち20本、自分の歯をキープしておけば健康長寿につながるという運動です。
近年、歯周病が全身の健康と深い関わりがあることが知られるようになっています。歯周病の予防には、口内を清浄に保つことが大切ですが、唾液が重要な役割を果たします。
咀嚼をしっかり行なうと、唾液の分泌が促されます。80歳で20本の歯を保持するためにも、咀嚼が重要であることは言うまでもありません。
穀類に大豆、野菜といった伝統的な日本食は、咀嚼回数が自然と増える「食」ともいえます。「咀嚼」「低カロリー」という要素を併せ持つ日本食が、健康に大きく貢献していることは間違いないようです。・