昔から、日本人は穀類や大豆をたくさん摂ってきました。そうした穀菜食中心の和食は、長寿食として、海外でも高く評価されています。マクロビオティックは、日本発祥の玄米菜食を中心とした養生食ですが、辛気くさい、地味な食というイメージから、雑穀ブームと相まって、今やおしゃれなトレンディ食として若い女性たちからも注目されつつあります。
ホールフード(未精製食物)の有用性に目覚めたアメリカ
丸ビルに出店している明治創業の老舗レストラン「升本」のマクロビオティック弁当がトレンドに敏感な丸の内OLに大人気といいます。
昨年ベストセラーとなった「世界一の美女になるダイエット」(エリカ・アンギャル著、2009年幻冬舎刊)の中でも、ミス・ユニバースになるための食事としてマクロビオティックが紹介され、話題になりました。
スマートでおしゃれなライフスタイル。そうしたシーンにマクロビ食が欠かせないものになりつつあります。
2005年1月、米国では5年毎に改訂される「栄養ガイドライン」で全穀類の摂取を推奨しました。ホールフード(未精製食物)を摂ることの重要性をガイドラインで初めて明示しました。
今、日本でも、玄米菜食のマクロビ食が病気の予防・改善の養生食といったイメージから、スマートなライフスタイルに適った食として見直されつつあります。
日本で、玄米菜食をおしゃれなトレンディ食としてイメージ付けした仕掛け人の一人に、発行部数50万部を誇る「オレンジページ」編集者の山本洋子氏がいます。
今回の「温故知新」では、一見地味なマクロビ食が現代のライフスタイルに適ったトレンディ食へとどのように変貌していったのか、これまでの流れをご紹介します。
10年前、海外では人気も、日本では一部の愛好家の養生食
2010年3月17日(水)、東京ビックサイトで開催された「健康博覧会2010」セミナーで、山本洋子氏が、「なぜいまマクロビオティックなのか」について解説しました。
山本氏は株式会社オレンジページに入社後、18年以上「オレンジページ」や「心地いい暮らしがしたい」シリーズの編集に携わっています。マクロビオティックもいちはやく取り上げ、その効用を読者に訴求しましたが、当初は中々思うように進展しなかったといいます。
マクロビオティックは、故・桜沢如一氏が「陰陽論」をベースに構築した食養療法で、海外にもたくさんの信奉者がいます。山本氏がマクロビオティックに出会ったのは今から10年前。
その頃、マクロビ食は日本ではまだ多くの人には知られず、知っている人がいても「昔ながらの食養法」「辛気くさい」「地味」「不味い」といったイメージで捉えられていたといいます。
それまで健康オタクで、数々の健康法を試していた山本氏でしたが、中々体調がすぐれませんでした。ところが、マクロビオティックを実践するようになってから、食べ物の好みが変わり、肌や精神の状態が良くなるなど、徐々に体質が変わっていったといいます。
玄米の良さだけをアピール
身を以て玄米菜食の効用を感じた山本氏は、読者にそれを伝えたいと切望しました。しかし、マクロビオティックを知らない上司にその効用を伝えることは難しく、企画を実現できなかったといいます。
そこで山本氏は発想を転換し、マクロビオティックという言葉は一切使わず、玄米の良さだけをアピールしようと試みます。そうして出来上がった一冊の書籍が「玄米がおいしい」(オレンジページムック2001年刊)でした。
爆発的には売れなかったものの、ジワジワと売れている手応えが感じられ、「粗食がおいしい」「野菜でおうちゃくダイエット」「長寿食がおいしい」など、シリーズ本を次々と世に出していきました。
病気治療の「食」から、最高の美容のための「食」に
そうした経験から、山本氏はマクロビオティックの普及には、「病気を治す」という切り口ではなく、「オシャレ」「わかりやすい」「簡単」「身体に良さそう」という単純なことを繰り返す必要があると確信するようになります。
おいしく玄米を炊くためには圧力鍋が不可欠、高い食材を購入しなければならない、決まり事が多いなど、敷居の高さが消費者をマクロビオティックから遠ざけていたと山本氏は感じていました。
そこで、「マクロビオティックスタートブック」を手がけた際には、ともかく簡単にできることを数多く挙げ、読者や消費者のライフスタイルを否定せず、自然な形で取り入れられやすいように紹介したといいます。
現在、東京・汐留にある有名レストランではマクロビオティックの懐石が出され、ベジタリアンの外国人だけでなく、健康を気遣うセレブリティを中心に人気を集めているといいます。
「病気の予防や治療」のための「食」といった地味なイメージから、「最高の美容のために」「ライフスタイルをスマートに」といった華やかな「食」にイメージ付けしたことが、マクロビ食の普及に大きく貢献したようです。