超高齢化社会から超高齢社会へと移行した現代日本。2022年の平均年齢は48.6歳、モナコに次いで世界2番目に高い数字となっています。そんな中、エイジング (老化) ケアに対する研究、サプリメント開発は日々進化・深化しており、日本のみならず世界各国で膨大な臨床データの解析が進んでいます。今回から、7月22日に開催されたウェビナー「エイジングケアとサプリメントの現状」(主催:健康産業新聞)より、医療法人財団百葉の会銀座医院院長補佐・抗加齢センター長の久保明氏の講演を全2回に分けて紹介します。
超高齢社会において自身の老化を遅らせるには――老化指標を有効活用
年を重ねると、どうしても糖尿病や脂質異常などの生活習慣病の発症リスクが高くなります。ですので、臨床的な視点から、自身のエイジング (老化) をマネジメントすることが非常に重要です。「エイジングマネジメント」と言うからには当然、エイジングの指標が必要となります。簡単な所でいうと、握力。今年、米国で発表された論文では、握力の変化と認知症の兆しというのは相関関係にあるのではないか、という指摘がありました。つまり握力には、単なる身体活動という枠を超えた意味があると考えられます。
老化のメカニズムを紐解くと、身体の糖化・酸化・炎症が非常に深くかかわっています。さらに、そこに生活習慣や遺伝、環境などの外的要因も影響を与えています。酸化ストレスが老化につながるという事は、昔から良く言われてきました。最近は「抗酸化」という言葉も良く耳にします。血管の壁や細胞に対して、酸化ストレスが傷害を引き起こし、私たちの身体を痛めつけていることは、様々な臨床研究からも明らかとなっています。また、近年は「抗糖化」というアプローチも良く見受けられます。身体の中でタンパク質が糖化すると、AGEs (最終糖化産物) という物質になります。AGEsは受容体を介して、細胞内でNADPHオキシダーゼと呼ばれる酵素と結びつき、活性酸素種を発生させることが分かっています。
要するに、糖化・酸化・炎症をそれぞれ独立して考えるのではなく、結びつけて考えることが、エイジングマネジメントを考える上で、非常に重要になるのです。
老化指標としての糖化・酸化・炎症――サルコペニアや糖尿病とも関連
糖化・酸化・炎症状態を臨床的に評価する際には、それぞれ別の指標を用います。糖化はAGEsやHbA1c、酸化は8-OHdGやイソプロスタン、炎症はhsCRPなどが活用されています。ただ実際の臨床の中では、これらの指標が綺麗な相関関係を示すことばかりではありません。
例えば、酸化指標である8-OHdGの生成速度は、年齢とともに少しずつ上昇する傾向はあるのですが、非常に個人差が大きいことが知られています。私達は、この8-OHdGと皮膚のAGEs量の相関関係を探ったのですが、良い結果が得られませんでした。なぜうまくいかなかったかというと、おそらく8-OHdGは半減期が非常に短い為、半減期の長いAGEsとは、綺麗な相関関係にはならないのではないかと予想しています。
一方で、筋肉量とAGEsには、綺麗な相関関係があります。私たちはAGEsの増加と反比例して、筋肉量と筋力が低下することを確認し、2017年に論文化しました。また、高齢の方においては、AGEsと呼吸機能の働きが深く関係していることも分かっています。最新研究では、筋肉量や筋力の低下、すなわちサルコペニアと呼ばれる症状は、糖尿病の要因になることが示唆されています。海外のデータとなりますが、糖尿病患者の約2割がサルコペニア症状に陥っているという報告があります。私は、サルコペニアをどのようにコントロールするかという事は、エイジングマネジメントにおいて、非常に重要な問題になるだろうと考えています。
抗糖化作用のある成分としては、ローマカミツレ (ローマンカモミール)、セイヨウサンザシ、クルクミン、ケルセチン、アセロラポリフェノール、レスベラトロールなどがあります。糖化と酸化が結び付いていることを理解した上で、これらをサプリメントとして摂取することは有効であると考えられます。様々な調査を見ると、サプリメントを購入する方は50歳以上の方が多いようですが、私は抗糖化については、40代からサプリメントの摂取を始めるとより効果的ではないかと考えています。
ローマカミツレ
さらに、炎症の指標としては、IL-6、TNFα-R1,2、hsCRP、アディポネクチンなど様々な成分があります。中でもIL-6は、新型コロナ感染症のサイトカインストームの中心的なものであると見られ、ここ最近注目を集めています。しかしIL-6は非常に変動しやすい為、注意して調べていかないと、正確に計測することが非常に難しい因子でもあります。今年に入って、米国医学誌「サーキュレーションリサーチ」に、IL-6が一定割合を超えると、将来的な頸動脈の動脈硬化リスクを高めるという論文が掲載され注目を集めました。
(次回に続く)