健康豆知識

健康の温故知新

掲載147 「発酵食品って何に良いの?」自然免疫制御組合シンポ、講演リポート②

前回に引き続き自然免疫制御技術研究組合主催『第10回シンポジウム 環境・常在細菌と自然免疫』(2022年3月4日開催、経済産業省)より、北海道科学大学 若命浩二准教授の講演内容をお伝えします。眼には見えないですが、私たちの周りに確かに存在する菌。ハンドソープで菌を殺してしまうと免疫力が下がる?腸内細菌、腸内フローラを整えると肝臓の代謝酵素が活性化する?菌が私たちに及ぼす影響について、最新の研究データを紹介します。

ハンドソープは有益な菌も殺してしまう?

私達の身の回りや身体の中に存在している菌は、人間の生理活動にとって都合の良い善玉菌、都合の悪い悪玉菌がありますが、そのどちらにも属さない菌もいます。いわゆる日和見菌という菌です。これらは、日和見的に私たちにプラスに働いたり、マイナスに働いたりするわけです。
代表的な日和見菌としては、表皮ブドウ球菌や黄色ブドウ球菌など、いわゆるブドウ球菌と言われているものがあります。手のひらや体表面についているブドウ球菌は、外敵から身体を守るバリア機能を果たしており、通常、悪さをするわけではありません。
しかし、ストレスや疲労で生体の免疫力が弱ってくると、ブドウ球菌のマイナスの特性が現れて、日和見感染を引き起こす可能性があるのです。また、コロナウイルスと同じく、菌はどんどん変異していくので、日和見菌だったものが悪玉菌に変異して、悪さをするという事もあります。
ところで、市販されている薬用石けんや、ハンドソープには大抵、「イソプロピルメチルフェノール」という殺菌成分が使われています。これは菌にとっては毒物であり、肌表面の表皮ブドウ球菌や黄色ブドウ球菌を、菌を根こそぎ殺してしまいます。コロナ禍ですので除菌が流行っておりますが、学者の間では「日和見菌を殺し過ぎるのは、却ってよくないのでは?」という意見もあります。確かに薬用石けんを使って、手をごしごし洗っていると、常在菌も綺麗さっぱりなくなってしまうわけですから、私たちの免疫防御機能が衰えてしまうのでは、というのはもっともな話です。とはいってもウイルスの感染を防ぐには、手洗いは欠かせません。ですので、失われてしまった常在菌のバリア機能を補うために、乳酸菌サプリや発酵食品を摂取して、腸内細菌のバランスを正常に整えることは重要だと言えるでしょう。

(黄色ブドウ球菌)

発酵食品は肝臓の代謝を助ける ― マウスで有効性明らかに

乳酸菌、発酵食品、キノコ、LPSといった菌由来の物質を身体に取り込むことで、身体はどういう反応を示すのかというのは、非常に難しい研究テーマです。私たちは、肝臓の代謝酵素が関係しているのではないかと仮説を立て、ビタミンCの合成能を欠損させた遺伝子を持つ特殊なマウスへ数日間、酵素を飲ませる試験を行いました。人間は身体の中でビタミンCを作ることはできないので、野菜や果物を食べることで補給する必要があります。一方、マウスは身体の中でビタミンCを作ることができるので、野菜を食べなくても平気です。ヒトでもマウスでもビタミンCが不足すると、様々な身体の変調をきたし、疾患を引き起こすリスクが高まります。疫学調査では、年を取るにつれてビタミンCの血中濃度が低くなることが分かっています。若い方は、普通に生活していれば充分なビタミンCを補給できると考えがちですが、過度なストレスや偏食、加齢などによって、必要量を補えなくなることは少なくありません。
マウスの肝臓の色々な酵素をメタボローム解析したところ、酵素を摂取したマウスはビタミンCが欠乏したマウスに比べて、肝臓に存在する複数の代謝酵素が、通常に近い状態に戻っていました。もちろん、ビタミンCは与えていませんので、これは酵素が肝臓の代謝酵素に良い影響をもたらしたものと推察できます。ただし、菌由来の物が生体内に入った段階で作用しているのか、それとも腸内細菌叢の改善がトリガーとなっているかは、まだ分かりません。ここは、さらに突き詰めて研究していく必要があります。

菌代謝物が白血球を活性化 ― カギは、Toll様受容体にあった

菌自体が作用しているのか、それとも菌の代謝物が作用しているのか、という点は学者の間でも非常に意見の分かれるところです。健康食品や医薬品には、死んだ菌の細胞壁や細胞膜を由来とする物質が数多く利用されています。例えば、ペプチドグルカン、RNAやDNA、グラミー生菌由来のLPSなどがこれにあたります。
こういった菌代謝物が身体によい影響を及ぼすことができるとすると、身体の中や細胞に、それをキャッチする仕組みが備わっているものと考えられます。薬理学の世界では、これをレセプター(受容体)と呼びます。その1つとして近年、非常に注目を集めているのが「Toll様受容体(TLR)」です。このレセプターは、マクロファージという白血球の表面に多く存在しています。白血球には、身体の外敵を食べる貪食作用があることが分かっています。最新の研究において、キノコ類のエキス、LPS、植物発酵エキスなどを食べると、Toll様受容体が刺激されることが明らかとなりました。これは、菌代謝物が白血球の貪食能を活性化させ、身体の免疫力を高めるという可能性を示しています。

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