健康豆知識

健康の温故知新

掲載146 「発酵食品って何に良いの?」自然免疫制御組合シンポ、講演リポート①

ヨーグルト、納豆、味噌、漬物――。私達の身の回りは、発酵食品が溢れています。発酵食品と聞くと、なんとなく旨味が増す、健康に良い、免疫が高まる、と考える方も多いかと思いますが、なぜ体に良いのか、美味しくなるのか、ちゃんと説明できる人は殆どいないのではないでしょうか?今回は、自然免疫制御技術研究組合主催『第10回シンポジウム 環境・常在細菌と自然免疫』(2022年3月4日開催、後援:経済産業省、香川県など)から、発酵食品や菌の有用性、最新の機能性研究をテーマとした北海道科学大学、若命浩二准教授の講演を全2回にわたり、ご紹介します。

①  「キノコ類」 ― グルカンを多く含み、免疫維持に期待

自然界には、様々な菌が存在しています。私達自身も菌を持っていて、人間にとって都合の良い菌と、そうでない菌に分けることができます。都合の良い菌としては、キノコ類、ヨーグルトなどの発酵食品が良く知られています。
あとは、生体常在菌と呼ばれる菌。これは皮膚や口の中の粘膜にいる菌で、いわゆる善玉菌と呼ばれる菌です。これらは私たちが健康でいるために、都合の良い菌というわけです。

(発酵食品)

キノコは、八百屋さんで売っているので野菜と勘違いされる方もお見受けしますが、キノコは、真菌の一種に分類されます。少し汚い話ですが、水虫などもここに含まれています。真菌は、菌糸と呼ばれる白い糸のようなものを土の中や皮膚に伸ばして成長するという、少し変わった種類の生き物なのです。
私は、20年以上、ある企業でシイタケ菌糸体が出す成分、培養物の研究に取り組んできました。シイタケを液体の中で培養すると、シイタケの菌の液が、さまざまな代謝物を出して体にとって良い働きをすることが分かっています。
キノコの種類は様々ですが、共通点として私たちの自己免疫を活性化させるということ、が言われています。単純に体に良い食品としてもポピュラーだと思います。
例えば、霊芝、サルノコシカケと呼ばれるキノコは、漢方薬にもよく使われていて、クレスチンという免疫賦活剤にもなっています。最近は、人工栽培ができるようになったので、品質の良い健康食品が数多く発売されていると聞きます。
あとは、白雪茸(シラユキタケ)。あまり聞き馴染みのないキノコかもしれませんが、今から10数年前に、新潟県の山奥で発見された、いわゆる新出のキノコで、アガリクスなんかと比べて、非常にβグルカンの量が多いということで大変、話題になりました。最近は、肝機能を改善するという研究論文が発表され、健康食品にも応用されているようです。
これらのキノコに共通するのは、基本的に多糖類、グルカンという成分がメインの成分になっている点です。グルカンを飲んだり食べたりすると、身体の免疫が刺激されて、免疫が活性化するということが分かっています。

(霊芝)

(白雪茸)

② 「ヨーグルト」 ― 死んでしまった菌にも効果ある?

菌を使った健康食品としてよく知られるのは、ヨーグルト。近年は、腸活、腸内フローラへの理解、関心が高まった事もあり、乳酸菌やビフィズス菌を使ったヨーグルトを、スーパーやコンビニ、ドラッグストアなどいたるところで目にするようになり、機能性表示食品(※)も数多く登場しています。
ヨーグルトで言うと、生きている菌が体に良いと考える方が多いかと思います。生きた乳酸菌やビフィズス菌を食べることで、腸内環境によい影響をもたらすわけです。
では死んでしまった菌は、体に良いのか、悪いのか?これには、さまざまな意見があり、世界中の学会で議論が続いています。
海外では、死んでしまった菌は、あまり使えないのでは?という考え方がやや広まりつつあります。
ただ、死んだ菌を粉末化して、サプリメントや健康食品として使っている国も非常に多く、臨床レベルでのエビデンスも数多く存在しています。ですので、その国の学者、企業によって考え方が違うというのが現状なのです。
私の研究では、どうやら菌を殺して粉末化した物でも、その代謝物が残っていれば、腸内環境を整えること、そして免疫を賦活させることが確認されています。

(※) 消費者庁に研究資料等の届出を行うことで、企業責任で特定の効果・効能を商品パッケージに記載することができる。健康食品業界の専門紙、健康産業新聞の調査では、「腸内環境改善」や「便通改善」、「体脂肪の低減」といった効果・効能をうたうヨーグルトは、約400品。全体の、約1割を占めている。

③ 「酵素・酵母」 ― ほとんど糖質だけど、菌代謝物には有効性あり

発酵食品の中には、色々な野菜や果物を山から集めてきて、樽の中に付け込み、3年~5年熟成した物があります。いわゆる、何とか酵素と呼ばれるサプリメントです。これらは、発酵させるタイミングにおいて、自然界にある酵母菌等の菌を用いて、野菜や果物をグズグズに分解させて、健康食品としています。
体の常在菌は、前述のように皮膚とか口腔内とか腸管にあるわけですが、この役割は、免疫の学問で言うとかなり最初の段階、外からいろんな外敵が来た時の、バリア機能を果たすことだと言われています。例えば、鼻毛とか痰が出る、咳をするなどの症状も、常在菌の働きと同じ、免疫反応の1つだと考えられます。お腹の中に存在する色々な酵素の中には、菌を殺すペプチドが存在している事から、外敵からの身体を守るバリア機能を果たすことが分かっています。
このような健康食品の研究をして分かった事として、その成分のほとんどが糖質だということです。もちろん、脂質やタンパク質も出てくるわけですが、メインは糖質。しかも、本来、野菜類に多く含まれているハズの、ポリフェノールは分解されてしまって、ほとんど残っていませんでした。ですから、これを体に良いとして、サプリとして飲むという意味については、栄養学的にはあんまり意味がないのではないか、とも考えられるわけです。勿論、糖質が入っているので、エネルギー源とはなると思いますし、ある程度、身体が元気になることはあるでしょうが、それ以外はあまり意味を見出しづらい成分構成になっているとも言えます。
ただ、有機酸類やアミノ酸、LPS等については、まあまあ残っていました。これは、野菜や果物に元々、含まれている成分というよりも、菌由来の産物、つまり菌の代謝物なのだと考えられます。これが菌その物の発酵物であれば、たとえ菌が死んでしまったとしても、菌の代謝物が体に残ることで何か良い影響を及ぼしているのでは、という可能性が出てきました。ここは非常に興味深いポイントなので、今も研究を続けています。

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