健康豆知識

健康の温故知新

掲載143 「食べて、祈って、耕して」~「食」と「寺院」と「農園」が作る認知症共生社会①

人生100年時代と言われる今、認知症と共に生きることや介護をすることは、誰もが経験しうる身近なことになりました。今回は、人間にとっての原始的な営みである「食べること」「祈ること」「耕すこと」をキーワードとした認知症共生社会を作るための最新の研究を紹介した代159回老年学・老年医学公開講座 「食べて、祈って、耕して~食と寺院と農園が作る認知症共生社会」を3回にわたってご紹介します。

第1回は、「食べて Eat:食べて育む生きるチカラ」(東京都健康長寿医療センター研究員 枝広 あや子氏)をご紹介します。

健康的な食は心理的安定に貢献

「美味しいものが食べたいな」というささやかな願いは、高齢者だけではなく、子供でも若者でも、あらゆる世代にとって共通する願いです。私達生物は生きるために食べ、食べるために進化してきました。美味しいものを食べると幸せで元気になるのは今も昔も一緒です。

「朝ご飯を抜いたら集中できないよ」と言われた経験はないでしょうか?青年を対象にした調査でも、朝食の欠食は憂鬱感、幸福感の低下、孤独感、睡眠障害、注意力低下を起こしストレスにさらされるリスクを高めるという報告があります。特に高齢期では、健康的な食が心理的な安定につながると言われています。
低血糖になると、私達の体はグルカゴンやアドレナリン・ノルアドレナリン・コルチゾールなど血糖を上げるホルモンを出します。このアドレナリンやノルアドレナリンといったホルモンは、過剰に分泌されるとイライラや怒りっぽくなったり、不安感が増大すると言われています。ストレスがたまると抗ストレスホルモンであるコルチゾールが浪費され、また疲弊して慢性的に疲労感やだるさなどの様子が生じます。低血糖と感情の変化はホルモンを介して大きく関わっているのです。

心の安定に関係する栄養素

栄養素の中でも、特に心の安定に関係していると言われるものがあります。朝食の欠食、低コレステロール・低食物繊維・低ナトリウムが高齢者の抑うつ状態に関連すると言われています。オメガ3系脂肪酸の摂取が不足すると、うつや不安障害に関連します。オメガ3は特に青魚に含まれています。また、ビタミンB6が不足すると不安、抑うつが生じやすいと報告されています。ビタミンB6はレバーや魚の赤身の他、ナッツ類や大豆製品、胡麻、焼きのり、ニンニクなど付け合わせ食材にも多く含まれていることから、主菜に副菜を追加したり、ご飯にごまをかけたり焼きのりをふりかけるなどの「ちょい足し」が効果的であると枝広氏は指摘します。

 

食の充実は心と体の充実

これまでのネズミを対象とした研究で、栄養摂取量や食事頻度、栄養素だけでなく食事の形態が、学習・記憶の中枢に影響を及ぼすと報告されています。食事の形態とは、「歯ごたえのある食べ物をしっかり咀嚼して食べる」ということです。柔らかいものよりも、歯ごたえのある食べ物のほうが、栄養素の密度も高く、咀嚼することで脳血流に良い効果があるなど、複合的な効果も期待されています。健康的な食を支えているのが、咀嚼できる健康な口腔、と言えるでしょう。
また、すぐに消化できる柔らかい食べ物は、急激な血糖上昇を起こしやすいことが指摘されており、歯ごたえのあるものをしっかりよく噛んでゆっくり食べることは、適正な血糖コントロールにも役立ちます。

注目を集める口腔の健康

しっかり噛んで食べるためにも、口腔衛生は非常に大切であると言えるでしょう。国際歯科連盟FDIは「歯科治療には費用が掛かるが、口腔の健康には費用が掛からない」、つまり悪くなってから治療をするよりも、歯科疾患の予防行為の方が安価で済むので、毎日の口腔管理が大切であると呼びかけています。

毎日自分で磨いて汚れを落とすこと、さらにかかりつけの歯科医院に通って、定期的にプロの目でメンテナンスをしてもらいましょう。定期的に通うことで、治療が必要そうな部分を早く見つけて、十分に説明をしてもらうことができます。口腔の健康を維持することは、人生を豊かに過ごす基盤になることを知っていただきたい、と枝広氏は述べています。

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