健康豆知識

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掲載136 運動実践による認知症予防への期待

今回は、2019年12月に実施された第155回老年学老年医学公開講座「認知症、こうすれば予防できる!?」から、講演「運動実践による認知症予防への期待」(東京都健康長寿医療センター研究所 自立促進と精神保健研究チーム 研究員 大須賀 洋祐氏)をご紹介します。

心臓の健康に役立つことは脳の健康にも役立つ

2019年に「WHOが推奨する12の認知症予防対策」が発表されました。この中では、生活習慣の改善、心身の管理、そして知的活動や社会的活動などが挙げられています。認知症の予防のためには、一つだけではなく、いろいろなことに気を配る必要があると言えるでしょう。その中でも、①禁煙、②高血圧の管理、③高血糖の管理、④定期的な運動習慣の4つが特に強く推奨されるといわれます。これらは、生活習慣病の予防にもそのままつながりますが、つまり心臓の健康に役立つことは脳の健康にも役立つといえるでしょう。

運動と認知症発症リスク

それでは、運動によって認知症の発症を予防できるのでしょうか?下のグラフにあるように、運動を実践することによって全認知症、アルツハイマー型、脳血管性認知症のいずれにおいても発症リスクが22%~41%低下しています。このことからも、運動の実践は認知症の発症リスクを下げるためにも役立つと考えられるでしょう。

それでは、どの程度の運動をすればよいのでしょうか?現時点では、明確なガイドラインがあるわけではありませんが、ある研究では、1日30分程度のウォーキングを毎日実践することによって、全認知症の発症リスクが10%程度下がると指摘されています。ただし、無理のない程度で、適度な運動を続けることが大切です。

次に、認知症に効果が期待できると考えられる運動をご紹介します。下の図に示すように、有酸素運動、筋力運動、認知+運動、エクサゲームなどが進められますが、一番大切なことは楽しく長く続けられることで、運動をすると楽しい、気分がよくなる、と感じられるものを見つけて、続けてゆくことが大切であると大須賀氏は指摘します。

運動実践と認知症の発症リスク

(講習会資料より)

認知症に効果的な運動

(講習会資料より)

運動で改善する認知機能

認知機能にも、様々なものがあります。それでは、どのような認知機能が改善するのでしょうか。アメリカスポーツ医学会が報告した研究では、以下の機能が改善すると報告されています。
・実行機能: 自分で計画して実践してゆく機能
・エピソード機能: 昨日何を食べたのか、何をしたのか等を記憶しておいて思い出す機能
・視覚空間機能: 車の車庫入れのような、視覚でとらえた空間を認識する機能
・注意機能: 物事に対して集中する機能
・処理速度: 与えられた業務を早く確実に処理する機能。計算機能など
・単語の流暢さ: 会話の中で単語をきちんと引き出して運用する能力

なぜ運動で認知機能が改善するのか

まず、一過性の効果として、脳血流量が増えて、神経伝達物の分泌が促進されることが挙げられます。また、慢性的な効果として、神経が新しく作られる(神経新生)の促進、血管の動脈硬化を抑制して血管性認知症を予防し、アルツハイマー性認知症の原因となるアミロイドβの分解を促進すること、が挙げられます。

運動の認知症に対する効果については、推奨はされているものの、まだ科学的には研究が少なく、不確実性があります。ただ、特に発症する前や初期の場合に効果が期待できると考えられています。無理のない範囲で、長期的に楽しく続けられる運動方法を見つけられるといいですね。

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