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「食べて、祈って、耕して」~「食」と「寺院」と「農園」が作る認知症共生社会③

耕してFarm:農園で働く人のキズナ

人生100年時代と言われる今、認知症と共に生きることや介護をすることは、誰もが経験しうる身近なことになりました。今回は、人間にとっての原始的な営みである「食べること」「祈ること」「耕すこと」をキーワードとした、認知症共生社会を作るための最新の研究を紹介した第159回老年学・老年医学公開講座 「食べて、祈って、耕して~食と寺院と農園が作る認知症共生社会」を3回にわたってご紹介します。第3回は、「耕してFarm:農園で働く人のキズナ」(東京都健康長寿医療センター研究員 宇良 千秋氏)をご紹介します。

認知症に関する考え方の転換

平成26年度の厚生労働省の将来推計によると、2025年には65歳以上の5人に1人が認知症であると予測されています。以前は、認知症にならないための予防方法に高い関心が集まっていましたが、近年では、認知症の人を個性を持った「人」として尊重し、ライフスタイルや価値観に沿ってケアする「パーソン・センタード・ケア」の考え方が重視されるようになってきています。

稲作ケアプログラムが認知症の人のもたらした効果

宇良氏の研究グループでは、2016年度から認知症の人の社会参加を促進するために、新潟県上越市を拠点とする稲作ケアプログラムの効果を検証してきました。認知症をもつ8名の方(男性7名、女性1名)が、田植えから稲刈りまでの半年間稲作に参加しました。その結果、平均出席率は93%に達しただけでなく、参加前にはうつ傾向が見られた参加者の改善傾向が見られ、精神的健康度が有意に改善したり(図1)、また、慢性期統合失調症を持つ方の社会参加のきっかけになることもわかりました。

健康豆知識 2022年3月 1

図1 講習会資料より

認知症になると外出や活動の機会が減って、身体機能が低下しやすくなることが心配されます。農作業は適度な身体的負荷がかかり、フレイル予防の効果が期待できます。それに加えて、地域の仲間ができたり、人に教えたりすることで社会参加の機会を得ることができるのです(図2)。

図2 講習会資料より

オランダが発祥のケアファーム

このような農園を活用したケアは、農業国オランダが発祥です。オランダには知的障がい者や精神障がい者、認知症高齢者、長期失業者を対象としたケアファーム(治療やリハビリテーション、交流のための農場)が1,500か所以上あると言われます。オランダでは、野菜を育てたり家畜を育てたりすることが生活の中にあり、施設に入ってもそのようなライフスタイルを続けられる環境やケアの理念があるのです。ここでは農業だけでなく、買い物、料理、読書など、入居者それぞれのライフスタイルが継続されています。

農園は認知症ケアの社会資源

農園は、認知症の人の残存能力や強みを生かせ、そして地域の人と共に取り組める、認知症ケアの重要な社会資源であると考えられます。認知症の人やその家族が、田園風景に囲まれて、顔なじみの仲間と農作業をしながら、共に時間が過ごせる農園が日本にも増えることが望まれます。