最近、「メタボ」、「隠れ肥満」という言葉が流行っています。肥満の定義に使われているのはボディーマスインデックスBMIです。これは体重(kg)/身長(m)2で計算されますが、22が正常値で25以上の人が肥満と定義されます。
さて、平成22年の国民健康・栄養調査によると、わが国における肥満者の割合は男性で30.4%、女性で21.1%です。どの年代においても肥満者の割合が10年前より増加していますが、特に50歳台の男性では37.3%が肥満です。
わが国をはじめ、先進諸国では過栄養や運動不足を背景に肥満の人が増加してきました。世界中には栄養不足で亡くなる人がいるなかで、皮肉な現象です。
最近は飽食の時代といわれ、安く美味しい食材が容易に手に入るようになりました。まずは食生活を考えてみます。国民栄養調査の結果をみると、近年と50年前では国民1人あたりの1日摂取カロリー量は2000kcal前後で大差ありません。
しかし、脂質の摂取割合が約3倍に増加しているのです。食生活の欧米化が原因の一つです。一方、自動車や公共交通機関の発達、コンピューター化によるデスクワークの増加によって、運動不足の社会になりました。
前記の国民健康・栄養調査によると、20歳以上で30分以上の運動を週に2回以上行い、これを1年間継続している人の割合は、男性成人の34.8%、女性成人の28.5%だそうです。やはり運動不足でカロリーを消費しないことも原因です。
肥満者のうち、内臓脂肪の面積が100cm2以上ある人を、内臓脂肪型肥満と判定するのです。内臓脂肪の面積は、正確にはCTスキャンで測りますが、ウェスト周囲径男性85cm以上、女性90cm以上がその指標になると提唱されています。
内臓に脂肪が蓄積すると、血液中の糖や脂質の代謝異常をきたして、動脈硬化が進行するのです。この内臓肥満に加えて、高トリグリセリド(低HDLコレステロール)血症、高血糖、高血圧のうち2項目以上があれば、心臓や血管の病気発症に結びつく危険な状態となることがわかり、これをメタボリック症候群とよびます。
メタボリック症候群を放置すると、脂肪代謝の障害によって肝臓に脂肪が蓄積されます。そして、脂肪肝や糖尿病にも至ります。また、脂肪からさまざまなホルモンが分泌されて、血管の内壁(内皮細胞)が障害されます。
そして、血の塊(血栓)ができやすい状態になるのです。ひとたび血栓が形成されると、血管のなかで血液の流れを阻害します。そして、必要な組織や臓器に十分な血液が供給されなくなり、脳梗塞や心筋梗塞が生じます。メタボリック症候群も放置するだけでも、恐ろしい結末を向かえることがあるのです。
肥満の状態を放置すると良いことはありません。バランスのとれた食材を摂取することを心掛けて下さい。また、肥満者では情動的ストレスによる食行動異常が目立つといわれています。「ながら食い」、「いらいら食い」、「むちゃ食い」も禁物です。規則正しく1日3食とることを心掛けて下さい。
滋賀医科大学 教授
一杉 正仁(ひとすぎ まさひと)氏
1994年、東京慈恵会医大卒。川崎市立川崎病院勤務を経て東京慈恵会医大大学院修了、同大助手、獨協医科大学法医学講座准教授を経て、現職。国立大学法人滋賀医科大学医学部社会医学講座 法医学部門教授。医師、医学博士。日本法医学会法医認定医。日本法医学会評議員。
専門は血栓症突然死の病態解析、バイオレオロジー、予防医学。国際交通医学会東アジア地区担当理事、日本バイオレオロジー学会理事、日本交通科学会理事、日本医学英語教育学会副理事長などを務める。2010年、International Health Professional of the Year, 2010 受賞。いわゆるエコノミークラス症候群の原因究明、納豆による血栓症予防についての研究で広く知られており、代表著書に「ナットウプロテアーゼ」などがある。
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