世界保健機関(WHO)が本年に公表した報告書によると、世界の成人の3人に1人が高血圧、10人に1人が糖尿病に罹患しているそうです。そして、世界のどの地域でも肥満者が増えており、世界で5億人が肥満であるそうです。
なぜ、このような状態になってしまったのでしょうか。これは食生活習慣が原因です。
また1つ興味深い研究結果があります。アジア系の成人を対象にした調査ですが、ハンバーガーやフライドポテトなどの西洋式ファストフードを週に2回以上食べている人は、まったく食べていない人に比べて冠動脈性疾患(心臓を栄養する血管の病気)による死亡率が56%高く、2型糖尿病発症危険度が27%増加したのです。やはり、カロリー、塩分、コレステロールが多く含まれる食事が原因です。
健康は食生活を見直すことから始まります。和食は低カロリーで多くの栄養素を含んでいます。江戸時代、多くの国民は和食を食べて質素な生活を送っていました。このような食事で長生きできないのではないかと憂う方もおられるでしょう。
確かに、当時の平均寿命は50歳代でした。しかし、多くは乳幼児死亡であり、多くの成人は70や80代まで生きられたといいます。当時は、医療体制が発達しておらず、しかも冷暖房や災害に対する備えも不十分でしたから、食生活に気を付けることが長生きの秘訣だったのでしょう。
江戸時代に、養生訓という書物が出版されました。これは、藩士、儒学者かつ医師であった貝原益軒が正しい生き方を記したものです。特に、食養生については細かく記されており、現代でも知られている有名な教えとして、
・腹八分目に。
・食事は薄味に。
・動物性たんぱくは控えめに。
・古く臭く、色や香りがあせたのは食べない。
などがあります。確かに、健康的な食生活を営む上で重要な点です。そして、「味噌、性和にして胃腸を補う」と記されており、大豆製品を食べることが推奨されていました。味噌、豆腐、納豆といった伝統的な食品などです。
日本古来の和食が健康によいということは、江戸時代から記されていました。そして、このような食生活を実践することで、冒頭にお示しした生活習慣病の発症を予防することができます。
養生訓の著者である貝原益軒は、幼少時には体が弱かったとのことですが、食養生に心掛けながら85歳まで生きました。来年は、養生訓が出版されてちょうど300年になります。今、ようやく江戸時代の食生活が重要であると、広く認識されるようになりました。
滋賀医科大学 教授
一杉 正仁(ひとすぎ まさひと)氏
1994年、東京慈恵会医大卒。川崎市立川崎病院勤務を経て東京慈恵会医大大学院修了、同大助手、獨協医科大学法医学講座准教授を経て、現職。国立大学法人滋賀医科大学医学部社会医学講座 法医学部門教授。医師、医学博士。日本法医学会法医認定医。日本法医学会評議員。
専門は血栓症突然死の病態解析、バイオレオロジー、予防医学。国際交通医学会東アジア地区担当理事、日本バイオレオロジー学会理事、日本交通科学会理事、日本医学英語教育学会副理事長などを務める。2010年、International Health Professional of the Year, 2010 受賞。いわゆるエコノミークラス症候群の原因究明、納豆による血栓症予防についての研究で広く知られており、代表著書に「ナットウプロテアーゼ」などがある。
・掲載6 長生きするための血流改善
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・掲載3 江戸時代の食生活を学ぶ
・掲載2 健康になると交通事故死傷者が減る
・掲載1 こんな時に起きる血栓症
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・掲載1 メタボリックシンドロームが注目された背景
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