血管の中には血液が流れています。通常、血液の流れがとまることはありません。しかし、正常な血管で血液がかたまってしまえば、流れが悪くなるか、あるいは止まってしまいます。
このような血液の塊を血栓と呼んでいます。血栓が生じるのは、血管の壁が障害される場合、血液の流れが悪い場合(血流がうっ滞する時)、血液成分が変化する場合です。具体的にお話しします。
例えば、妊婦さん、がん患者さん、血液疾患がある方、肥満の方などでは、血液の成分が変化し、血栓が生じやすくなります。また、心臓病の方、寝たきりの方、長時間足を動かさない状態にある方などでは、血液の流れが悪く、血栓ができやすい状態になります。
このように血栓症の危険性がある要素を危険因子とよびます。これらの因子をいくつかあわせ持つほど、血栓症をおこしやすくなるのです。
血栓は血液の循環を妨げます。人間の臓器や器官は血液で栄養されていますから、血栓によって血流が悪くなると、これら臓器や器官の働きに悪影響が生じます。例えば、心臓の中で血栓ができたとします。
心臓から全身に血液が供給されますが、この血栓も一緒に全身に廻ります。人間の血管は、末梢に行くほど細くなりますから、太い血管は詰まらなくても、細い血管を詰まらせれば、そこで血流が途絶えるのです。脳を栄養する血管は詰まれば、脳の組織は死んでしまいます。これを脳梗塞と呼びます。心臓を栄養する血管がつまれば心筋梗塞になります。
わが国では年間約100万人の方が亡くなりますが、血栓症が原因であるのは全死亡の約3割をしめるというのです。血栓症は生命に影響をおよぼす恐ろしい病気なのです。
全身の静脈は心臓に戻り、そして肺動脈を介して肺に送られます。ここで新鮮な酸素を取り込んで再び心臓に戻ります。脚の静脈に血栓ができれば、血流にのって心臓に戻り、そして肺動脈に至ります。肺動脈で詰まってしまうと、血流がとまりガス交換ができなくなります。そして心肺機能が停止し、突然死をきたすこともあります。このような病態を肺動脈血栓塞栓症と呼びます。
皆さんはエコノミークラス症候群という名前でご存知かと思います。狭い飛行機の座席に長時間座っていることで脚を動かす機会が減り、血流が悪くなることで脚の静脈に血栓ができると考えられました。なにも飛行機の中だけではありません。日常生活で、長時間足を動かさない状態があると、血流が悪くなります。
その他、生活習慣病などを合併していると、血液の成分が変化して血栓症の危険因子を多く持つことになります。したがって、日常の生活でも血栓症の危険因子を持たないように気を付けて下さい。
滋賀医科大学 教授
一杉 正仁(ひとすぎ まさひと)氏
1994年、東京慈恵会医大卒。川崎市立川崎病院勤務を経て東京慈恵会医大大学院修了、同大助手、獨協医科大学法医学講座准教授を経て、現職。国立大学法人滋賀医科大学医学部社会医学講座 法医学部門教授。医師、医学博士。日本法医学会法医認定医。日本法医学会評議員。
専門は血栓症突然死の病態解析、バイオレオロジー、予防医学。国際交通医学会東アジア地区担当理事、日本バイオレオロジー学会理事、日本交通科学会理事、日本医学英語教育学会副理事長などを務める。2010年、International Health Professional of the Year, 2010 受賞。いわゆるエコノミークラス症候群の原因究明、納豆による血栓症予防についての研究で広く知られており、代表著書に「ナットウプロテアーゼ」などがある。
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