前回は、メタボリックシンドロームの予防に日本食が効果的であることをお話しました。食生活が欧米化し、脂質のしめる割合が増加するといった変化でメタボリックシンドロームと診断される人が増えてきました。
それでは、伝統的な日本の食卓を思い出してみましょう。昔の日本の食卓で、必ずみられるのは魚料理(お刺身や焼き魚)と大豆料理(みそ汁、豆腐や納豆など)です。今回は、魚と大豆に注目して、生活習慣病予防との関係についてご紹介します。
グリーンランドに居住するエスキモーは、心筋梗塞の発生頻度が低いという疫学調査データが1970年代に発表されました。この人たちは、魚を多く摂取しますが、血液中のコレステロールや中性脂肪の値も低かったのです。
また、米国で健康な働く女性を対象に、魚の摂取頻度と脳卒中の発生リスクを検討した結果が2001年に報告されました。すると、週に5回以上魚を食べる人は、月に1回以下しか食べない人に比べて、脳卒中になる危険性は半分以下になるそうです。
その原因として、魚に含まれるω(オメガ)3不飽和脂肪酸が血液の流れを改善し、血清脂質を低下させて動脈硬化の進展を抑制すると考えられています。日本人は以前から、米国人に比べて魚を多く食べるため、ω3脂肪酸は米国人の約8倍摂取していると言われています。
しかし、食生活が欧米化することで、魚が肉に換わり、せっかくのω3脂肪酸摂取量も減ってきてしまいました。したがって、今一度、マグロ、サケ、サバなどの魚料理を見直してみませんか。
動物性タンパク質を多く摂取する米国に比べて、わが国をはじめとしたアジアの諸国は心血管疾患の発現率が低いのが特徴でした。
そして、植物性タンパク質を多く含む大豆製品を多く食べることが、その原因と考えられました1995年に米国の学者が検討した結果、動物性タンパク質を大豆タンパク質と置き換えることによって、血液中のコレステロールや中性脂肪の値を約10%減らせることができると分かりました。
以後、米国心臓協会では、大豆食品を食べることが、心臓病の予防に有用であることを発表しました。大豆の中には、動脈硬化や骨粗鬆症の進展を予防する物質や更年期障害の低減に有用な物質が含まれています。
大豆を水に浸して発酵させることで納豆や味噌に、固まらせることで豆腐になります。今、挙げたような日本の伝統的食品には、メタボリックシンドロームの予防に向けた効能があるのです。納豆には血液の流れを改善する成分が含まれていることはすでにお話ししましたが、大豆製品の一つとして、今後も食卓でおつきあいしたいものです。
滋賀医科大学 教授
一杉 正仁(ひとすぎ まさひと)氏
1994年、東京慈恵会医大卒。川崎市立川崎病院勤務を経て東京慈恵会医大大学院修了、同大助手、獨協医科大学法医学講座准教授を経て、現職。国立大学法人滋賀医科大学医学部社会医学講座 法医学部門教授。医師、医学博士。日本法医学会法医認定医。日本法医学会評議員。
専門は血栓症突然死の病態解析、バイオレオロジー、予防医学。国際交通医学会東アジア地区担当理事、日本バイオレオロジー学会理事、日本交通科学会理事、日本医学英語教育学会副理事長などを務める。2010年、International Health Professional of the Year, 2010 受賞。いわゆるエコノミークラス症候群の原因究明、納豆による血栓症予防についての研究で広く知られており、代表著書に「ナットウプロテアーゼ」などがある。
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