これまでは、メタボリックシンドロームの病態と、これがもたらす恐ろしい病気についてお話ししました。そこで、今回からはどのようにしたらメタボリックシンドロームを予防できるか、そして、メタボリックシンドロームから脱出するためには、どうするべきかについてご紹介します。
メタボリックシンドロームの元凶は、内臓脂肪の過剰な蓄積です。したがって、これを防ぐような生活習慣の励行が第一の目標です。すなわち、理想的な食生活を実践して内臓に余計な脂肪が貯まらないようにすること、運動で身体の活動度をあげ、内臓脂肪を消費することです。消費より蓄積が上回ってはいけません。お金とは逆なのです。
メタボリックシンドロームを予防するために、特に変わったことをする必要はありません。昔から言われている健康的な生活習慣を実践することです。ブレスローという学者は7つの健康習慣として、①喫煙をしない、②適度の飲酒、③定期的な運動、④適正体重の維持、⑤毎日の朝食摂取、⑥十分な睡眠、⑦間食を避ける、ことを挙げました。
分かっているけど、なかなか実践できないというのが本音でしょう。例えば朝食に注目してみます。国民健康・栄養調査によると、朝食をほぼ毎日食べる人は、20歳代男性の53.6%、30歳代男性の62.7%だそうです。
また、ほかの調査によると、朝食を食べない人は喫煙習慣や運動不足の人が多いといわれています。すなわち、生活習慣全体が乱れているのです。したがって、生活習慣をひとたび改善し、健康的な生活を送れば、メタボリックシンドロームの診断に含まれる複数の因子が改善されるでしょう。
これまでお話したように、健康的な生活習慣を送ればメタボリックシンドロームを予防することができ、また乱れた生活習慣を改善することで、メタボリックシンドロームから離脱できるのです。皆さんは本当にそうなのか?と不安に思っているでしょう。
ここに興味深い報告があります。広島県で、耐糖能異常を持つ人を対象に、生活習慣改善指導を受けた人と受けない人に分けて、1年後の糖尿病発症率を比較した研究です。指導を受けてこれを実践した人は、そうでない人に比べて、糖尿病の発症率が半分以下になったそうです。ですから、生活習慣を改善すれば確かに健康的になるのです。
自らの努力で、どの程度内臓脂肪が減ったかを随時知ることはできませんが、体重が一つの目安になります。ある研究によると、メタボリックシンドロームの人が体重を5kg落とすことで、内臓脂肪の面積は約20%減少し、血液中の総コレステロール値、トリグリセリド値、空腹時血糖値および血圧も有意に改善したそうです。
したがって、体重をこまめに測定することで、自らの健康状態を把握してください。ただし、体重はすぐには減りませんから、毎日の積み重ねが重要です。
滋賀医科大学 教授
一杉 正仁(ひとすぎ まさひと)氏
1994年、東京慈恵会医大卒。川崎市立川崎病院勤務を経て東京慈恵会医大大学院修了、同大助手、獨協医科大学法医学講座准教授を経て、現職。国立大学法人滋賀医科大学医学部社会医学講座 法医学部門教授。医師、医学博士。日本法医学会法医認定医。日本法医学会評議員。
専門は血栓症突然死の病態解析、バイオレオロジー、予防医学。国際交通医学会東アジア地区担当理事、日本バイオレオロジー学会理事、日本交通科学会理事、日本医学英語教育学会副理事長などを務める。2010年、International Health Professional of the Year, 2010 受賞。いわゆるエコノミークラス症候群の原因究明、納豆による血栓症予防についての研究で広く知られており、代表著書に「ナットウプロテアーゼ」などがある。
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