今回からはメタボリックシンドロームに関する話題を提供します。現代の大きな社会問題でもありますが、健康を考える上で大いに活用して下さい。
近年、わが国を含めた先進諸国およびアジアの国々では過栄養と運動不足を背景にした動脈硬化疾患が急増してきました。
わが国では、動脈硬化疾患による脳血管障害と心臓病をあわせると、死因の約30%にものぼります。そこで、2002年に世界保健機構(WHO)では動脈硬化によって生じる心・血管系の病気を予防することを重視すべきであると宣言しました。
これまで、動脈硬化の危険因子として高血圧、高コレステロール血症、糖尿病、喫煙が知られており、それぞれについての研究が広く行われてきました。しかし近年では、食生活の欧米化や運動不足による肥満症の増加に伴って、これらの危険因子が重なることが動脈硬化症の発症に大きな影響を及ぼすことが分かりました。
この状態がメタボリックシンドロームなのです。すなわち、メタボリックシンドロームとは動脈硬化性疾患を起こす危険性が高い状態であり、高血圧、耐糖能障害、高脂血症などが集積した病態です。
メタボリックシンドロームの一番の原因は内臓脂肪の蓄積です。内臓(腹腔内)に脂肪が蓄積されると、血糖値を下げるインスリンというホルモンの効き目が低下します。そして、脂肪がさまざまな生理活性物質を分泌して動脈硬化を促進し、血栓を作りやすくします。
さらに高血圧や高脂血症といった病態も引き起こします。したがって、メタボリックシンドロームを治療する最も有効な方法は内臓脂肪を減らすことなのです。
メタボリックシンドロームなのか、そうでないのか?これを判断するためには、誰にも分かる簡便な基準が必要です。2004年に、わが国の多くの学会が合同で診断基準を作成しました。目的は、栄養過多を原因として増加してきた心・血管系疾患を予防することです。
そこで、内臓脂肪の蓄積と高脂血症、高血圧、耐糖能障害のうち2つ以上を有する状態と定義されました。先にお話したように、内臓脂肪の蓄積は本症候群の元凶です。内臓脂肪量は正確にはCTで計測しますが、簡便な方法ではありません。
そこで、内臓脂肪量と良く相関する指標としてウエスト周囲径が挙げられました。そして、CTで測定した内臓脂肪面積が100cm2以上では、健康障害の合併数が急激に増加することから、その基準として100cm2が採用されました。すなわち、これに相当するのがウエスト周囲径 男85cm以上、女90cm以上ということになります。
これに加えて、高トリグリセリド血症(≧150mg/dl)かつ/または低HDLコレステロール血症(<40mg/dl)、高血圧(収縮期 ≧130mmHg かつ/または 拡張期 ≧85mmHg)、空腹時高血糖(≧110mmHg)のうち2項目以上該当する人と定めました。
皆さんはメタボリックシンドロームに該当しませんか?もう一度調べてみて下さい。
滋賀医科大学 教授
一杉 正仁(ひとすぎ まさひと)氏
1994年、東京慈恵会医大卒。川崎市立川崎病院勤務を経て東京慈恵会医大大学院修了、同大助手、獨協医科大学法医学講座准教授を経て、現職。国立大学法人滋賀医科大学医学部社会医学講座 法医学部門教授。医師、医学博士。日本法医学会法医認定医。日本法医学会評議員。
専門は血栓症突然死の病態解析、バイオレオロジー、予防医学。国際交通医学会東アジア地区担当理事、日本バイオレオロジー学会理事、日本交通科学会理事、日本医学英語教育学会副理事長などを務める。2010年、International Health Professional of the Year, 2010 受賞。いわゆるエコノミークラス症候群の原因究明、納豆による血栓症予防についての研究で広く知られており、代表著書に「ナットウプロテアーゼ」などがある。
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