前回は健康食品の位置づけについてお話ししました。食品である以上、効果や機能などは表示することができません。ですから、利用者の体験談などを示して、いかにも効果があるかのように宣伝していることがあるのです。
例えば、「○○を食べるとまたたくまに肥満が解消される」、「○○テレビで紹介されたように、血液がサラサラになります」など、見聞きされた方は多いでしょう。これらは利用者の中のごく一部の人の体験談を用いて広告しており、多くの誤解を招く恐れがあります。
また、某テレビ番組で、製作者が都合のいいように学者の話を編集し、結果的に誤った内容を発信したということもありました。個々の情報に、正しい根拠(エビデンス)がないとしたら、虚偽の広告にもなりかねません。
2003年に改正された健康増進法の第32条には、「食品として販売に供するものに関して広告その他の表示をするときは、・・中略・・、著しく事実に相違する表示をし、又は著しく人を誤認させるような表示をしてはならない」と規定されています。すなわち、食品の健康に対する効果については、虚偽あるいは誇大広告を法律で禁じているのです。
医学の領域ではエビデンス・ベースド・メディスン(EBM:科学的根拠に基づく医療)という言葉が浸透しています。これは、健康食品についても当てはまることです。有効性が科学的に確立されていない健康食品が流通することは、消費者の信頼や希望に欺くうえ、経済的損失にもつながります。
また、安全性が確認されていなければ、なんらかの有害作用が生じ、そしてその商品を使い続けることで健康被害が生じる可能性もあります。したがって、重要なことは安全性と有効性が科学的に確認されていることです。
前述のように、安全性と有効性に対する科学的エビデンスがあるかを確認することが必要です。今回は、その方法を具体的に御紹介します。まず、その健康食品や使用されている物質についての科学的な研究がされているかを確認して下さい。すなわち、科学論文があるかを調べることです。
学会や研究会で発表されたという記録があっても、その発表内容が理論的に誤っていることもあります。科学論文が専門の学術雑誌に掲載されるときは、手法や結果の解釈が正しいかを審査する専門家がいます。ですから、科学論文を確認して下さい。もちろん、英文のものであれば、国際的にも通用するということです。
次に、研究の対象が、試験管などを用いた実験によるものか、動物実験か、あるいはヒトを対象とした試験かを調べることです。試験管内の実験や動物実験で良い結果が認められていても、確認された効果がヒトに当てはまらないこともあります。
したがって、ヒトを対象とした試験(臨床試験)が行われているかを確認して下さい。臨床試験で有効性や安全性が確認されていれば、最も信頼性が高いでしょう。
情報化社会の到来に伴って、皆さんは多くの情報を見聞きされます。テレビ、ラジオ、ダイレクトメール、新聞の折り込み広告、インターネット・・・。なかでも、上記のような方法で正しい情報を得てください。皆さんお一人一人が、本当に必要とする健康食品を正確に得られることを願っております。
滋賀医科大学 教授
一杉 正仁(ひとすぎ まさひと)氏
1994年、東京慈恵会医大卒。川崎市立川崎病院勤務を経て東京慈恵会医大大学院修了、同大助手、獨協医科大学法医学講座准教授を経て、現職。国立大学法人滋賀医科大学医学部社会医学講座 法医学部門教授。医師、医学博士。日本法医学会法医認定医。日本法医学会評議員。
専門は血栓症突然死の病態解析、バイオレオロジー、予防医学。国際交通医学会東アジア地区担当理事、日本バイオレオロジー学会理事、日本交通科学会理事、日本医学英語教育学会副理事長などを務める。2010年、International Health Professional of the Year, 2010 受賞。いわゆるエコノミークラス症候群の原因究明、納豆による血栓症予防についての研究で広く知られており、代表著書に「ナットウプロテアーゼ」などがある。
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