前回はメタボリック症候群の話をしました。これを放置すると、脂肪代謝の障害によって肝臓に脂肪が蓄積されます。そして、脂肪肝や糖尿病にも至ります。
また、脂肪からさまざまなホルモンが分泌されて、血管の内壁(内皮細胞)が障害されます。そして、血の塊(血栓)ができやすい状態になるのです。
ひとたび血栓が形成されると、血管のなかで血液の流れを阻害します。そして、必要な組織や臓器に十分な血液が供給されなくなり、脳梗塞や心筋梗塞が生じてしまいます。メタボリック症候群も放置するだけでも、恐ろしい結末を向かえることがあるのです。
ここで、わが国の死亡統計を考えます。悪性新生物、すなわちがんで亡くなる人が約31万人と最も多く、心疾患が約16万人、脳血管疾患が約13万人と続きます。
このような心疾患、脳血管疾患のなかには心筋梗塞や脳血栓といった、血管の中にできた血栓によって起こる病態(血栓症)が多く含まれています。なんと、全死因の約3割をしめるというのです。血栓症は生命に影響をおよぼす恐ろしい病気なのです。
さて、先にお話しましたが、血管の壁が障害されると血栓症が起こり得るのです。しかし、それだけではありません。血栓症は、血液の流れが悪いか(血流のうっ滞)、血液成分が変化する場合でも生じます。
具体的に血栓症の危険因子といわれているのは、肥満、高齢(40歳以上)、脱水、安静臥床状態、妊娠、手術後、心臓病、がん、先天性の血液凝固異常などです。これらの因子をいくつかあわせ持つほど、血栓症をおこしやすくなると言われています。血栓は血液の循環を妨げて、臓器や組織に悪影響をおよぼすのです。
人間は呼吸によって酸素を取り込みます。すなわち、肺動脈を流れてくる血液に、新鮮な酸素を供給します。酸素を取り込んだ血液は心臓に戻り、そして全身に流れていきます。
この肺動脈に血栓がつまって血液が流れなくなった場合、肺で酸素が供給されなくなります。体のなかで窒息が起こるようなものですから、危機的状態に陥ります。
この病気を肺動脈血栓塞栓症と呼びます。突然の呼吸困難や胸痛で発症することが多いと言われていますが、発症まもなくして心肺機能が停止し、突然死をきたすこともあります。突然死例では、治療ができません。ですから、予防こそが重要なのです。
血栓症の発生原因はさまざまですが、肥満や長期安静臥床は、日常生活に気を付けるだけで十分に予防できます。突然死という恐ろしい結末を迎えないためにも、食生活習慣に気をつけて下さい。
滋賀医科大学 教授
一杉 正仁(ひとすぎ まさひと)氏
1994年、東京慈恵会医大卒。川崎市立川崎病院勤務を経て東京慈恵会医大大学院修了、同大助手、獨協医科大学法医学講座准教授を経て、現職。国立大学法人滋賀医科大学医学部社会医学講座 法医学部門教授。医師、医学博士。日本法医学会法医認定医。日本法医学会評議員。
専門は血栓症突然死の病態解析、バイオレオロジー、予防医学。国際交通医学会東アジア地区担当理事、日本バイオレオロジー学会理事、日本交通科学会理事、日本医学英語教育学会副理事長などを務める。2010年、International Health Professional of the Year, 2010 受賞。いわゆるエコノミークラス症候群の原因究明、納豆による血栓症予防についての研究で広く知られており、代表著書に「ナットウプロテアーゼ」などがある。
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