最近、「メタボ」、「隠れ肥満」という言葉が流行っています。皆さんのなかにもウェスト径を気にされる方がいらっしゃるでしょう。いったい、いつからこのような言葉が使われるようになったのでしょうか。
わが国をはじめ、先進諸国では過栄養や運動不足を背景に動脈硬化による疾患が増加してきました。世界中には栄養不足や感染症で亡くなる人がいるなかで、皮肉な現象です。
2002年に世界保健機構(WHO)は、アジアを含めた先進国で、栄養の取りすぎと運動不足を背景に増加している心臓や血管の病気を予防すべき、という宣言をしました。そして、さまざまな研究が進められたところ、あるタイプの肥満がある人に、心・血管系の病気が発生しやすいことがわかったのです。
一般にBMI(体重(kg)/身長(m)2)が25以上の人を肥満と定義しますが、そのうち、内臓脂肪の面積が100cm2以上ある人を、内臓脂肪型肥満と判定するのです。内臓に脂肪が蓄積すると、血液中の糖や脂質の代謝異常をきたして、動脈硬化が進行することがわかったのです。
内臓脂肪の面積は、正確にはCTスキャンで測ります。しかし、手軽に調べられる方法ではありません。そこで、簡単な指標を探したところ、内臓脂肪の面積が100cm2以上に相当するのが、ウェスト周囲径 男性85cm以上、女性90cm以上であると提唱され、これが基準となりました。
そして、心臓や血管の病気発症に結びつくハイリスクな状態をメタボリック症候群とよび、この内臓肥満に加えて、高トリグリセリド(低HDLコレステロール)血症、高血糖、高血圧のうち2項目以上該当するもの、と定義されました。
最近は飽食の時代といわれ、安く美味しい食材が容易に手に入るようになりました。そして、自動車の普及、公共交通機関の発達、コンピューター化によるデスクワークの増加によって、人々の活動性が低下し、過食、運動不足の社会になりました。
このような生活習慣のなかで、早期にライフスタイルを改善し、心臓や血管の病気を予防することが重要です。みなさんも、みずからのウェスト周囲径を測り、健康診断の血液検査結果に目を向けて下さい。そして、万一メタボリック症候群に該当するようでしたら、運動を促進し、食生活を改善しましょう。
滋賀医科大学 教授
一杉 正仁(ひとすぎ まさひと)氏
1994年、東京慈恵会医大卒。川崎市立川崎病院勤務を経て東京慈恵会医大大学院修了、同大助手、獨協医科大学法医学講座准教授を経て、現職。国立大学法人滋賀医科大学医学部社会医学講座 法医学部門教授。医師、医学博士。日本法医学会法医認定医。日本法医学会評議員。
専門は血栓症突然死の病態解析、バイオレオロジー、予防医学。国際交通医学会東アジア地区担当理事、日本バイオレオロジー学会理事、日本交通科学会理事、日本医学英語教育学会副理事長などを務める。2010年、International Health Professional of the Year, 2010 受賞。いわゆるエコノミークラス症候群の原因究明、納豆による血栓症予防についての研究で広く知られており、代表著書に「ナットウプロテアーゼ」などがある。
・掲載6 長生きするための血流改善
・掲載5 本当の血液サラサラとは
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・掲載3 江戸時代の食生活を学ぶ
・掲載2 健康になると交通事故死傷者が減る
・掲載1 こんな時に起きる血栓症
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・掲載4 メタボリックシンドロームを予防するために
・掲載3 メタボリックシンドロームから血栓症へ
・掲載1 メタボリックシンドロームが注目された背景
・掲載6 健康食品と上手につきあう
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