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自然治癒力を高める東洋医学の考え方[1]

掲載5

プラシーボ効果と心身一如:心が治癒力を左右する

ある医薬品の効き目を確かめるためには、「試験薬(本物)」と「試験薬に外見を似せた効果のない成分(偽薬)」を、被験者に判らないように服用してもらい、試験薬の効果が偽薬の効果よりも高いことを示す必要があります。

偽薬を「プラシーボ(placebo)」といい、偽の薬であっても薬を飲んだという暗示によって治癒効果が現われる「プラシーボ効果」という現象があるため、プラシーボ(偽薬)よりも効果が高くなければ、薬として効果があるとは言えないのです。試験内容によっては3割くらいの人にプラシーボ効果が表れる場合もあります。

これは、こころ(期待感や暗示など)が治癒力を誘発することを意味しています。プラシーボ効果の存在は心理効果や暗示作用が人間の身体の状態にいかに重要な影響を与えるかを示しており、気持ちの持ち方が治癒系に強く影響することを証明しています。「病は気から」という言葉があるように、自然治癒力はこころと切り離して考えることはできません。

癌に真っ向から立ち向かい、希望を失わなかった人は、そうでない人に比べて生存率が高くなるという結果が報告されています。不安や抑鬱や絶望といったネガティブな感情を持たないように助け合うような心理的サポートが、体の免疫力など自然治癒力を向上させ、生存期間を延ばすことも報告されています。

人は孤立していると病気になりやすいことはよく知られています。癌患者でも結婚している人は独身者より長生きするという報告があり、患者同士で励ましあい、また人間の絆を強くすることは、人々を孤立から救い、癌の延命にも役立つようです。

不安は最大のストレスであり、特に自分の運命に対する無力、自分の将来を自分で支配できないという不安感は、強い精神的ストレスを与え、癌の進行にも促進的に作用します。したがって、期待感や安心感を持たせるだけでも効果はあるのです。

笑いとユーモアが無用の不安や緊張を解きほぐし、心と身体の健康を守るということは常識になっています。精神神経免疫学の領域では、笑いというプラスの精神活動が、癌細胞を攻撃するナチュラルキラー細胞などの働きを活性化して、癌に対する抵抗力を強化することが、多くの実験にて確かめられています。

西洋医学では心と身体を分けて考える生命機械論を基盤にしています。一方、東洋医学では、心と身体の働きは密接に関連するという「心身一如」の観点から治療法を発展させてきました。

さて、癌が進行してもう治療法が無いというとき、西洋医学の立場の多くの医師は、患者に「生」を諦めることを勧めてしまいます。しかし、東洋医学を行っていると、最後まで生きることを諦めないで、体の治癒力や生命力の可能性を引き出すことに努力します。その理由は、病人に安心感や期待感を持たせるだけで、症状の改善や延命効果が得られるという「心身一如」の考え方を大切にするからです。

しかし、期待感を持たせることを悪用して、「わらにもすがる」思いの癌患者さんに全く効果のない商品を高額で販売している業者が絶えないとい点には注意が必要です。希望を捨てないことは大切ですが、騙されないように自分を見失わない注意も必要です。

プロフィール
福田 一典(ふくだ かずのり)氏

銀座東京クリニック 院長

福田 一典(ふくだ かずのり)

昭和28年福岡県生まれ。昭和53年熊本大学医学部卒業。熊本大学医学部第一外科、鹿児島県出水市立病院外科勤務を経て、昭和56年から平成4年まで久留米大学医学部第一病理学教室助手。その間、北海道大学医学部第一生化学教室と米国Vermont大学医学部生化学教室に留学し、がんの分子生物学的研究を行う。
平成4年、株式会社ツムラ中央研究所部長として漢方薬理の研究に従事。平成7年、国立がんセンター研究所がん予防研究部第一次予防研究室室長として、がん予防のメカニズム、および漢方薬を用いたがん予防の研究を行う。平成10年から平成14年まで岐阜大学医学部東洋医学講座の助教授として東洋医学の教育や臨床および基礎研究に従事した。現在、銀座東京クリニック院長。

<主な著書等>
「がん予防のパラダイムシフト--現代西洋医学と東洋医学の接点--」(医薬ジャーナル社,1999年)、「からだにやさしい漢方がん治療」(主婦の友社,2001年)「見直される漢方治療~漢方で予防する肝硬変・肝臓がん」(碧天舎,2003年)など。

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自然治癒力を高める東洋医学の考え方[1]

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・掲載1 「虚を補う」視点の大切さ~老化とは「虚」に傾く過程

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