東洋医学では体にとって有害なものを「邪(じゃ)」あるいは「病邪(びょうじゃ)」といい、生体の抵抗力や防御能を「正気(せいき)」といいます。邪が正気に勝ったときに病気が発症すると考えており、病気とは、体内における正気と病邪のせめぎ合いの状況といえます。東洋医学では、病気に治療においては、病邪を抑えると同時に、正気(抵抗力や治癒力)を高めることを重視しています。
感染症においては、細菌やウイルスなどの病原菌が邪になります。発がん過程における邪とは、発がん物質やフリーラジカルやストレスや炎症の存在であり、さらに、生体内の諸機能の異常によって生じる機能失調(気・血・水の量的異常や巡りの停滞)や心身調和の異常などが相当します。
正気とは、生体内の全ての抗病物質を包含する漢方概念であり、現代医学的には、防御機構・恒常性維持機構・免疫監視機構・修復システムなどを包括する生体の自然治癒力そのものです。免疫システムや、活性酸素の害を防ぐ抗酸化力や、DNA変異を修復するDNA修復システムなども、漢方医学でいうところの「正気」の作用と基本的に一致しています。
がん予防対策において、唯物主義の西洋医学では、発がん物質や炎症など目に見える発がん要因のみをターゲットにしていますが、体の抵抗力を低下させる原因や機能失調に対応していない点に改善の余地があります。
がん治療においては、西洋医学では直接的な病邪である「がん細胞」だけをターゲットにし、フリーラジカルやストレスといった間接的な病邪や、自然治癒力や生体防御能といった正気への対処を軽視している点が欠点であると言えます。
がんに対する西洋医学の標準的治療である手術や抗がん剤や放射線治療は、病邪であるがん細胞を直接攻撃することが目標であり、そのために体の正気(抵抗力や治癒力)を犠牲にしても構わないと考えている点に問題があります。
がん治療に対する東洋医学の対策は、発がん促進因子や生体の機能失調といった邪を取り除く治療法に加えて、生体機能を高めて正気を充実させる治療法を同時に考慮している点に特徴と有用性があると言えます。
がんの予防や治療における健康食品の利用においても、病邪を抑え、正気を高めるという東洋医学の考え方を応用することが大切です。
フリーラジカルを除去する抗酸化物質や、免疫力や体力を高める機能性食品が、がんの予防や治療において有用である理由は、東洋医学の病邪と正気の考え方からは疑問なく理解できます。
銀座東京クリニック 院長
福田 一典(ふくだ かずのり)氏
昭和28年福岡県生まれ。昭和53年熊本大学医学部卒業。熊本大学医学部第一外科、鹿児島県出水市立病院外科勤務を経て、昭和56年から平成4年まで久留米大学医学部第一病理学教室助手。その間、北海道大学医学部第一生化学教室と米国Vermont大学医学部生化学教室に留学し、がんの分子生物学的研究を行う。
平成4年、株式会社ツムラ中央研究所部長として漢方薬理の研究に従事。平成7年、国立がんセンター研究所がん予防研究部第一次予防研究室室長として、がん予防のメカニズム、および漢方薬を用いたがん予防の研究を行う。平成10年から平成14年まで岐阜大学医学部東洋医学講座の助教授として東洋医学の教育や臨床および基礎研究に従事した。現在、銀座東京クリニック院長。
<主な著書等>
「がん予防のパラダイムシフト--現代西洋医学と東洋医学の接点--」(医薬ジャーナル社,1999年)、「からだにやさしい漢方がん治療」(主婦の友社,2001年)「見直される漢方治療~漢方で予防する肝硬変・肝臓がん」(碧天舎,2003年)など。
・掲載12 糖質制限のための食事
・掲載11 糖質は必須栄養素ではない
・掲載10 糖質を減らすと寿命が延びる
・掲載9 糖質や甘味を減らすと食事摂取量が減る
・掲載8 糖質と甘味は中毒になる
・掲載7 糖質摂取を減らすと太りにくくなる
・掲載6 糖質を減らせば老化しにくくなる
・掲載5 糖質が増えると欧米人は肥満になり日本人は糖尿病になる
・掲載4 農耕が始まり糖質摂取量が増えた
・掲載3 人類は糖質で太る体質を持っている
・掲載2 人類は肉食で進化した
・掲載1 なぜ糖質制限が議論されるのか
・掲載5 癌治療におけるサプリメントと役割
・掲載4 ホリスティック医療の重要性
・掲載3 自然治癒力はどこまで期待できるか自然治癒力を上げる方法
・掲載1 東洋医学との出会い、なぜ、癌代替医療に取り組むのか
・掲載3 病気は正気と病邪のせめぎ合い
・掲載2 「未病を治す」は全ての病気の予防の原則