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ドクターから健康アドバイス

感染症と免疫シリーズ

掲載1

ウィルス感染と免疫システム

1.免疫システム

私たち、動物たちはもともと生体防御システムを持っており、周囲から負けないように守られて進化しました。これは視覚や聴覚という五感を使ってからだを守ることと同時に、免疫システムという当たり前(生理学的)のものです。この生まれつきに備わっているものは自然免疫系といいます。しかし、これは比較的マイルドな生体防御反応で、血液細胞たちは経験を積んで外敵を勉強することで、的を絞った獲得免疫系が成立して元気に成長します。ちょっと間違えるとアレルギー反応もありうるのです。しかし本質的には、これも本当は身を守ってくれる生体防御反応のひとつで、生理学的現象なのですが。免疫システムの特徴は、自分以外をすべて排除するという仕組みです。これは実に巧妙で、素晴らしいものです。だからこそ、地球上の動物たちはいのちに満ちあふれた楽園の中で生活を存分に享受してきました。平和な日常生活を営んでいる中で、虫に刺されたり、すりむき傷がおきただけで、炎症という過剰免疫反応(病理学的免疫反応)が起きます。これが全身に及ぶと、発熱という炎症反応となります。

2.ウィルス感染でも無症状?

ウィルスは大きく分けて、DNA型あるいはRNA型と分類されます。細胞は生物ですが、ウィルスは生物と無生物の間に存在する有史以来の細胞内の寄生体です。これが生物にとりついて、細胞の仕組みに寄生して、自分と同じものを造り出すという存在です。ウィルスはある種の動物の細胞表面のアンテナの様な構造物がある細胞だけに寄生することができて、これを種特異性といいます。例えばコウモリだけに寄生あるいは感染するウィルスが、コウモリの気道系や肺の細胞内(臓器特異性)に侵入し、自己増殖後に細胞を破壊すると、後述のアラキドン酸という炎症を起こす物質が遊離されて、コウモリ肺炎となります。このウィルスは、コウモリと共存関係にあるうちにRNAの一部が突然変異してしまい、ヒトの気道系や肺の細胞に侵入できるようになることがあります。この様にしてヒトにも感染する様になったウィルスにはワクチン作成と臨床応用そしてウィルスのRNA複製を破壊するような薬の開発が最も重要な戦略です。

ウィルス感染の際に、患者さんたちは無症状つまり非炎症反応なのか、有症状すなわち炎症反応なのかとなります。なぜこのような二つの大きな差が起こるのでしょうか。ここで「免疫反応」と「炎症反応」というからだの基本の反応を理解する必要があります。炎症は、体内のすべての細胞膜に存在するアラキドン酸という重要な脂肪酸が遊離するところからスタートします。つまり細胞が壊れるという出来事から炎症がはじまるわけです。この物質から様々なサイトカイン(生理活性物質)のナダレのような連鎖反応がスタートして、目で見えるような赤くはれて痛む炎症が起きる事になります。炎症は生体の持つ優れた過剰な生体防御反応です。しかし過剰な炎症は自分を破壊することにもなります。これがサイトカインストームという嵐で、死に至ります。

3.ウィルス感染と自然免疫

さて、炎症から免疫に話を元に戻します。私たちのからだには、免疫システムがあって外部の様々な異物に対して防衛してくれているわけですが、初めての相手には有効な方法が分からず、あてずっぽだったり、場合によってはウィルスにやられてしまうことになります。ヒトは初めて出会ったウィルス(抗原物質)には、防御態勢が弱いのですが、そこで自然免疫系の能力を高めることは極めて重要な対策です。自然免疫系の中のナチュラルキラー(NK)細胞集団の数と能力はウィルス感染細胞を攻撃することのできる、おそらく主力部隊ではないでしょうか。NK細胞を元気(賦活化)にさせたり、増やしたりする仕組みは世界中で研究され色々なことがすでにわかってきています。ヒトの免疫システムのハーモニーを維持し、バランスの良く取れた全体の免疫能を維持させながら、自然免疫系の能力をアップさせることができれば、抗ウィルス剤やワクチンが開発されるまでの間の重要な対策の一つと考えます。

4.ウィルス感染に対し何ができるのか?

最後になりましたが、接触感染と空気感染するウィルスに対して何ができるのか考えてみましょう。隣人との距離を取り、なるべく近寄らない距離での会話を心がけましょう。手洗いはアルコール、石鹸により念入りに。気道系の細胞を標的とするウィルスの場合、喉のうがいは重要で、イソジンを使い最後の一滴は飲み込みましょう。喫煙は気道系上皮細胞をマヒさせて、喀痰による異物排除機能を低下させてしまいます。絶対にやめるようにしましょう。マスクはウィルスの大きさに対して、線維の網目はまばら過ぎます。しかし、自分の喉を潤していること、他人からの飛沫を浴びない、他人に飛沫をかけないということには役立ちます。また、免疫システムの軸は血液細胞とサイトカインというタンパク質です。日々の食べ物が血液細胞とサイトカインを置き換えてくれます。偏らない食事が大切で、和食系として魚は主役です。細胞膜形成に重要な鶏卵は週に5個は摂取しましょう。葉物野菜はDNA複製に重要です。いろいろな副食を十分に摂取して、主食の摂り過ぎには注意しましょう。食事内容による日ごろの免疫システムの維持補強に心がけることは、ウィルス感染防御ばかりでなくさまざまな生活習慣病予防となります。

プロフィール
遠藤 雄三(えんどう ゆうぞう)氏

浜松医科大学(第一病理)

遠藤 雄三(えんどう ゆうぞう)

昭和44年(1969年)東京大学医学部卒。虎の門病院免疫部長、病理、細菌検査部長兼任後退職。カナダ・マクマスター大学健康科学部病理・分子医学部門客員教授となる。現在、浜松医科大学第一病理非常勤講師、宮崎県都城市医療法人八日会病理顧問、看護学校顧問。免疫学・病理学・分子医学の立場からがん・炎症の研究を進め、現在に至る。

<主な研究課題> 生活習慣病予防にかかわる食物、サプリメント、生活習慣病と公衆衛生、IgA腎症と粘膜免疫とのかかわり、人体病理学、臨床免疫学、実験病理学

バックナンバー

感染症と免疫シリーズ

・掲載6 感染症予防には手洗い、うがい、そして免疫をケアしよう

・掲載5 細菌感染と抗生物質:抗ウィルス薬は細菌には効かない

・掲載4 ウィルス感染症の治療と予防:抗ウィルス薬、血清療法、免疫

・掲載3 風邪、天然痘とSARS、MERSそして変異型コロナウィルス

・掲載2 花粉か、細菌か、ウィルスか、自己とのちがいとは?

・掲載1 ウィルス感染と免疫システム

病理専門医からみた健康戦略シリーズ[2]

・掲載22 自己とは?非自己とは?(22)過敏性腸症候群/食物アレルギー

・掲載21 自己とは?非自己とは?(21) 大腸と腸内細菌

・掲載20 自己とは?非自己とは?(20) Bリンパ球/IgA

・掲載19 自己とは?非自己とは?(19) パイエル板

・掲載18 自己とは?非自己とは?(18) 消化管の蠕動(ぜんどう)運動

・掲載17 自己とは?非自己とは?(17)粘膜免疫

・掲載16 自己とは?非自己とは?(16)腸管免疫

・掲載15 自己とは?非自己とは?(15)免疫と消化管

・掲載14 自己とは?非自己とは?(14)ウィルスと自己

・掲載13 自己とは?非自己とは?(13)妊娠とABO式血液型不適合

・掲載12 自己とは?非自己とは?(12)移植

・掲載11 自己とは?非自己とは?(11)輸血と免疫

・掲載10 自己とは?非自己とは?(10)Ⅲ型アレルギー/自己免疫疾患

・掲載9 自己とは?非自己とは?(9)Ⅱ型アレルギー/血液型

・掲載8 自己とは?非自己とは?(8)抗生物質の発見/一型アレルギー/免疫グロブリン

・掲載7 自己とは?非自己とは?(7)外部からの非自己②

・掲載6 自己とは?非自己とは?(6)外部からの非自己①

・掲載5 自己とは?非自己とは?(5)急性炎症:日焼けと免疫反応

・掲載4 自己とは?非自己とは?(4)炎症

・掲載3 自己とは?非自己とは?(3)アレルギー

・掲載2 自己とは?非自己とは?(2)自己の確立②

・掲載1 自己とは?非自己とは?(1)自己の確立①

病理専門医からみた健康戦略シリーズ[1]

・掲載6 からだの防御システム(6)特異的免疫細胞たち:リンパ球

・掲載5 からだの防御システム(5)免疫細胞たち:白血球

・掲載4 からだの防御システム(4)免疫ホメオスタシス/感染症と炎症

・掲載3 からだの防御システム(3)「食-医同源」

・掲載2 からだの防御システム(2)新型インフルエンザウィルス

・掲載1 からだの防御システム(1)はじめに:「病気」、「病態」そして「病 名」

病理医からみた一人ひとりのがん戦略

・掲載21 頭頚部がん(2)

・掲載20 頭頚部がん(1)

・掲載19 多発性骨髄腫(3)

・掲載18 多発性骨髄腫(2)

・掲載17 多発性骨髄腫(1)

・掲載16 おとなの進行がんの治療戦略(2)

・掲載15 おとなの進行がんの治療戦略(1)

・掲載14 子宮がん(2)子宮内膜がん

・掲載13 子宮がん(1)

・掲載12 肝細胞がんに対する予防戦略 3)ウイルス排除と抗炎症対策

・掲載11 肝細胞がんに対する予防戦略 2)肝硬変と慢性炎症

・掲載10 肝細胞がんに対する予防戦略 1)肝細胞がんのおこり方

・掲載9 前立腺がんに対する戦略

・掲載8 乳がんに対する戦略

・掲載7 肺がんの予防戦略

・掲載6 環境要因による胃がん予防

・掲載5 大腸がんに対する防衛戦略

・掲載4 生活習慣病としてのおとなのがん

・掲載3 抗生物質から抗がん剤開発へ

・掲載2 現代医学と病理学

・掲載1 はじめに

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