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病理専門医からみた健康戦略シリーズ[2]

掲載22

自己とは?非自己とは?(22)過敏性腸症候群/食物アレルギー

過敏性大腸症候群 

これは近年とくに注目されている「働くおとなの大腸の病気」といわれています。仕事中はおろか睡眠中にも下痢がくりかえされて、落ち着きません。一方では長い便秘に悩まされたりします。下腹に力が入らず、大変落ち着かない、しまらない病気です。以前は不定愁訴などといって片付けられていました。

日本ではこの症候群にクローン病ならびに潰瘍性大腸炎の初期の患者さんも共通の症状を示すので、当然この症候群の中に含まれ、中心的な病気であります。これらの二つの病気が精密検査で診断できますと適切な治療が必要となります。除外できた場合でも、日本では過敏性大腸症候群として比較的マイルドな治療がおこなわれることになりましょう。漢方やサプリメントの服用ならびに生活習慣の改善などは、大腸の内容物と上皮細胞そして免疫系ならびに自律神経との複合した密接な関係のバランス調整を助けることになるはずです。

一方、欧米では潰瘍性大腸炎とクローン病をかなり厳密に過敏性大腸炎症候群として考えており、日本の医学常識と欧米の医学常識にズレがあるように感じられます。

食物アレルギー 

筆者がおりましたカナダのマクマスター大学からの論文で興味深い実験結果があります。丁度「パブロフの条件反射モデル」とほぼ同じような事実です。アレルゲンのわかっているI型アレルギーの動物モデルで、アレルゲンを暴露させることと閃光的な光を目に当てることを同時に行うようにしておきます。これを10回繰り返した後の、閃光だけ目に当てたときの血液中のアレルギーに関わる項目の変化を検査しました。するとアレルゲン無しでも、閃光という刺激が視覚的に入っただけで、アレルギー反応を確認できたというものです。ここから何がいえるかといいますと、神経系統と免疫系統が密接に連絡しあっているという例が示されたわけです。

以上、かなり専門的な面まで含めてお話ししましたために、最後まで読み通していただけなかったかもしれません。その責任はまさに筆者にあります。粘膜免疫系の研究は、対象領域が膨大であり、関連調節系が上述のごとく消化器系、免疫系、自律神経系、内分泌系と多岐にわたっています。これらを網羅的に分かりやすく解説することは至難の技でしょう。まして、未知の分野、特に自律神経系分野がジャングルのように行く手を阻んでいます。まだまだ書き足りませんが、この辺で中断して学問の進歩を待ちましょう。再びの解説の機会を待つこととします。

文献

香山、竹田:自然免疫系による炎症性腸疾患制御の分子メカニズム 実験医学 29(10) 1641-1646,2011

Owen R I, Jones A I: Epithelial cell specialization within humam Peyer’s patches:An ultrastructural study of intestinal lymphoid follicles. Gastroenterol 66:189-203, 1974

プロフィール
遠藤 雄三(えんどう ゆうぞう)氏

東京脳神経センター(病理/内科)

遠藤 雄三(えんどう ゆうぞう)

昭和44年(1969年)東京大学医学部卒。虎の門病院にて免疫検査部創設・部長、病理/細菌検査部長を務める。その後カナダ マクマスター大学健康科学部病理・分子医学部門客員教授、浜松医科大学第一病理非常勤講師、宮崎県都城市医療法人八日会病理顧問・看護学校顧問を経て、現在、東京脳神経センター(病理/内科)。免疫学・病理学・分子医学の立場からがん・炎症の研究を進め、発表した論文は110報以上。

<主な研究課題> 生活習慣病予防にかかわる食物、サプリメント、生活習慣病と公衆衛生、IgA腎症と粘膜免疫とのかかわり、頭痛と首コリの解消、人体病理学、臨床免疫学、実験病理学

バックナンバー

首コリ治療医、病理専門医の説く頭痛についてーほとんどの頭痛とは頭皮痛のことー治療法は松井理学療法と自己姿勢の復帰

・掲載4 「ホモ バネ仕掛け」の頚と「新型うつ」

・掲載3 首の構造と頭痛=頭皮痛のおこりかた

・掲載2 体験/炎症とは

・掲載1 はじめに

感染症と免疫シリーズ

・掲載6 感染症予防には手洗い、うがい、そして免疫をケアしよう

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・掲載4 ウィルス感染症の治療と予防:抗ウィルス薬、血清療法、免疫

・掲載3 風邪、天然痘とSARS、MERSそして変異型コロナウィルス

・掲載2 花粉か、細菌か、ウィルスか、自己とのちがいとは?

・掲載1 ウィルス感染と免疫システム

病理専門医からみた健康戦略シリーズ[2]

・掲載22 自己とは?非自己とは?(22)過敏性腸症候群/食物アレルギー

・掲載21 自己とは?非自己とは?(21) 大腸と腸内細菌

・掲載20 自己とは?非自己とは?(20) Bリンパ球/IgA

・掲載19 自己とは?非自己とは?(19) パイエル板

・掲載18 自己とは?非自己とは?(18) 消化管の蠕動(ぜんどう)運動

・掲載17 自己とは?非自己とは?(17)粘膜免疫

・掲載16 自己とは?非自己とは?(16)腸管免疫

・掲載15 自己とは?非自己とは?(15)免疫と消化管

・掲載14 自己とは?非自己とは?(14)ウィルスと自己

・掲載13 自己とは?非自己とは?(13)妊娠とABO式血液型不適合

・掲載12 自己とは?非自己とは?(12)移植

・掲載11 自己とは?非自己とは?(11)輸血と免疫

・掲載10 自己とは?非自己とは?(10)Ⅲ型アレルギー/自己免疫疾患

・掲載9 自己とは?非自己とは?(9)Ⅱ型アレルギー/血液型

・掲載8 自己とは?非自己とは?(8)抗生物質の発見/一型アレルギー/免疫グロブリン

・掲載7 自己とは?非自己とは?(7)外部からの非自己②

・掲載6 自己とは?非自己とは?(6)外部からの非自己①

・掲載5 自己とは?非自己とは?(5)急性炎症:日焼けと免疫反応

・掲載4 自己とは?非自己とは?(4)炎症

・掲載3 自己とは?非自己とは?(3)アレルギー

・掲載2 自己とは?非自己とは?(2)自己の確立②

・掲載1 自己とは?非自己とは?(1)自己の確立①

病理専門医からみた健康戦略シリーズ[1]

・掲載6 からだの防御システム(6)特異的免疫細胞たち:リンパ球

・掲載5 からだの防御システム(5)免疫細胞たち:白血球

・掲載4 からだの防御システム(4)免疫ホメオスタシス/感染症と炎症

・掲載3 からだの防御システム(3)「食-医同源」

・掲載2 からだの防御システム(2)新型インフルエンザウィルス

・掲載1 からだの防御システム(1)はじめに:「病気」、「病態」そして「病 名」

病理医からみた一人ひとりのがん戦略

・掲載21 頭頚部がん(2)

・掲載20 頭頚部がん(1)

・掲載19 多発性骨髄腫(3)

・掲載18 多発性骨髄腫(2)

・掲載17 多発性骨髄腫(1)

・掲載16 おとなの進行がんの治療戦略(2)

・掲載15 おとなの進行がんの治療戦略(1)

・掲載14 子宮がん(2)子宮内膜がん

・掲載13 子宮がん(1)

・掲載12 肝細胞がんに対する予防戦略 3)ウイルス排除と抗炎症対策

・掲載11 肝細胞がんに対する予防戦略 2)肝硬変と慢性炎症

・掲載10 肝細胞がんに対する予防戦略 1)肝細胞がんのおこり方

・掲載9 前立腺がんに対する戦略

・掲載8 乳がんに対する戦略

・掲載7 肺がんの予防戦略

・掲載6 環境要因による胃がん予防

・掲載5 大腸がんに対する防衛戦略

・掲載4 生活習慣病としてのおとなのがん

・掲載3 抗生物質から抗がん剤開発へ

・掲載2 現代医学と病理学

・掲載1 はじめに

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