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病理専門医からみた健康戦略シリーズ[2]

掲載5

自己とは?非自己とは?(5)急性炎症:日焼けと免疫反応

日焼けと免疫反応

急性炎症という現象は「どのように起こるのでしょうか?」
日差しとは太陽の核爆発から発せられる様々な光線ですから、その中には可視光線はもとより放射線の電磁波や赤外線ならびに紫外線が含まれています。強力なエネルギーの源である光線の極端な身近な例が福島原子力発電所の放射能のしくみです。

紫外線は可視光より短い波長の光線です。可視光は皮膚表面で反射されますが、紫外線は当たった場所に限って皮膚表面の表皮細胞層とそのすぐ下の真皮層の深さ1ミリメーターに到達できるのです。

真皮層は細かい血管(毛細血管)やコラーゲンなどの線維のほかにさまざまな細胞からなりたった組織です。紫外線の強さや当たっている時間が長引くと、皮膚の細胞やコラーゲン線維を変化させたり壊したりすることになります。

炎症の引き金の秘密は、からだの全ての細胞膜にあるのです。結論から先にいいますと、全身の細胞膜になくてはならない成分のひとつにアラキドン酸という脂肪酸があります。

紫外線のあたった皮膚の細胞からこれが放出されることが炎症の引き金になるのです。いいかえますと、これをきっかけにしてナダレの様に免疫反応がおこりはじめるのです。

ここで「脂肪酸の横道」にそれます。ちなみに、体臭の源は皮膚の付属器である皮脂腺細胞がこわれて外分泌したもの(ホロクリン)です。そのアブラ成分の材料の多くは食べ物由来の脂肪酸です。

加齢臭が問題になっていますが、加齢よりも食べた脂肪酸から造られたにおいの方がはるかに強いであろうと考えます。べジタリアンが脂ぎった顔つきや体つきであることは不可能でしょう。

また、腋臭(ワキガ)は腋だけでなく外陰部や肛門周囲と乳輪など色素の多い皮膚にもありえます。ワキガはこれらの皮膚部分にある皮膚付属器のアポクリン腺細胞の一部が外分泌された脂肪酸のにおいなのです。

どなたにもワキガ臭はあるのですが、その強さが各人異なるわけです。アポクリン臭はフェロモンのような性的な意義があるのでしょう。一方、肛門腺から分泌されるというスカンク臭はフェロモン臭と同時に防御臭といってもよいのでしょう。

アラキドン酸からはじまる「分子ナダレ現象」(非特異性炎)

細胞の破壊とかかわりますので、ここから細胞膜と脂肪酸についてすこし説明しなければなりません。頭がクラクラしてしまいそうな人は、ここの個所は読み飛ばしてもその後の内容をつかむには困りません。しかし、読んでみると多分面白いとおもいます。

細胞は「水とアブラの世界」ですというと、学生諸君ははじめキョトンとします。コップに水を入れて、そのあとにアブラを少し注ぎ込むと水面に浮かんでアブラは分離してしまいます。

皆さんにはお好みのドレッシングがあるでしょう。冷蔵庫から取り出したドレッシングは「水とアブラ」の分離状態です。分離した状態によって細胞という形が自然現象として造られているのです。

この膜は細胞膜だけでなく、細胞内部のさまざまな内装の膜も同じなのです。もうひとつイメージしていただくものとしてシャボン玉があります。これもありふれた自然現象で、皆様にもおなじみです。

水を石鹸や洗剤と合わせると、どうしてシャボン玉になるでしょうか。シャボン玉の空間形成も自然が造りだす現象を何気なく身近にしているわけです。

細胞の空間形成もほぼ同じしくみです。細胞という「小部屋」には、丁度「水とアブラ」の分離状態のように外壁や室内の障子や家具調度の構造がしつらえてあります。

このアブラの中身は、驚くなかれ、日常食べた中性脂肪(グリセロールと三分子の脂肪酸)の多少変化した同化物質であるリン脂質とコレステロールなのです。両者はホドホドに毎日食べていないと細胞を造る材料不足となりましょう。これらの摂り過ぎは禁物のことは皆さんご存知のはず。

動物の細胞膜は専門的にはコレステロールを挟み込んだ「グリセロリン脂質二重膜」といういかめしい名前となります。ちなみに、植物細胞膜にはコレステロールは必須な物質ではありません。

ですから、野菜ばかり食べているとコレステロール不足になるはずです。極端なベジタリアンや過度なダイエットがいかに危険なのかおわかりでしょう。常にリフォームしている自分の細胞を造り出せないのですから。

脂肪酸にはさまざまな種類があり、からだのすべての細胞膜に必要不可欠な物質です。多くの脂肪酸やコレステロールはからだで造ることは出来ます。しかしビタミンのように食べ物から摂らなければならない必須脂肪酸もあります。

このようなまれな脂肪酸の仲間に、からだに良いといわれる魚のアブラのEPA(エイコサペンタエン酸)とかDHA(ドコサヘキサペンタエン酸)そしてアラキドン酸などがあります。

オリーブオイルに多く含まれるものとして不飽和脂肪酸があります。からだに良いといわれるオメガ3脂肪酸は植物細胞だけが造り出せる脂肪酸で、亜麻仁油や植物性プランクトンに豊富です。

上記の魚油も元をただせば海洋食物連鎖というわけで、植物性プランクトンを食べたオキアミそしてそれを食べた魚類に蓄積された“トロ“オメガ3脂肪酸というわけです。

一方、パンやケーキ、クッキー製造に多用されているトランス脂肪酸というものは人工的なアブラで、余りお勧めできません。
(八日会HP http://www.fujimoto.or.jp/dr-endo/ 講座その5参照下さい)。

これらの脂肪酸は食べ物からからだに入ると、細胞膜として利用される(同化作用)ことになります。長々のべてきました私のいいたいことは、人それぞれの炎症反応も食べ物よって左右されるということなのです。

アラキドン酸は全ての細胞の細胞膜に内在しており、常に放出したり産生されたりを繰り返して私たちのからだの健常状態を維持してくれています。放出の程度は、さまざまな外界あるいは体内からの刺激の強さによって異なります。

このアラキドン酸を出発点としてナダレのような分子の変化がおこります。大きく三つのルートがあります。プロスタグランデイン系、ロイコトリエン系そしてトロンボキサン系です。

これらのナダレ状態がおこる時間経過によって、はじめて炎症という現象が目に見えてくるわけです。このほかに免疫細胞たちが放出するサイトカインやケモカインというさまざまな物質があり、複雑な様相を呈していきます。

そして時間経過と共に全体的に一つの炎症反応という現象がおこります。ちょうどさまざまな木々の葉の形や色彩からなる森全体の様相が炎症という全体像となるわけです。そして時間と共にゆっくりと元通りになることが完全治癒した急性炎症にほかなりません。もし元に戻れないようなガレキが残ったり、大きな洞穴が残ってしまうと「しこり」であったり「へこみ」という瘢痕治癒ということになりましょう。

日焼けに戻ります。赤くほてった皮膚は数日するとかゆみが出てきて、少し黒ずんできます。これは皮膚にあるメラニン細胞が元気になって、細胞質の手足を伸ばしてメラニン色素タンパクを造りだしてくれたせいです。

これも次第にうすれて、元通りの皮膚になります。かゆみの出ている時に、手で引っかき傷を作りますと炎症反応が長引くことになるはずです。これは日焼けの人為的な合併症ということになり、これが繰り返されていくことは慢性炎症への移行ということにもなりましょう。
いよいよ慢性炎症、アレルギー(過剰免疫反応)、移植へと話しを進めて行きます。

プロフィール
遠藤 雄三(えんどう ゆうぞう)氏

東京脳神経センター(病理/内科)

遠藤 雄三(えんどう ゆうぞう)

昭和44年(1969年)東京大学医学部卒。虎の門病院にて免疫検査部創設・部長、病理/細菌検査部長を務める。その後カナダ マクマスター大学健康科学部病理・分子医学部門客員教授、浜松医科大学第一病理非常勤講師、宮崎県都城市医療法人八日会病理顧問・看護学校顧問を経て、現在、東京脳神経センター(病理/内科)。免疫学・病理学・分子医学の立場からがん・炎症の研究を進め、発表した論文は110報以上。

<主な研究課題> 生活習慣病予防にかかわる食物、サプリメント、生活習慣病と公衆衛生、IgA腎症と粘膜免疫とのかかわり、頭痛と首コリの解消、人体病理学、臨床免疫学、実験病理学

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