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病理専門医からみた健康戦略シリーズ[2]

掲載4

自己とは?非自己とは?(4)炎症

急性炎症とは

いよいよ「炎症」について正面きってお話しする機会となりました。
結論を先に申し上げますと、炎症とは局所にとどめようとする「生まれながらの生体防御(免疫)反応」なのです。前回までお話してきましたことと合わせてお考え下さい。

「自己と非自己という免疫反応は生理学的に生まれながらに持っている生体防御反応であり、そして炎症はその過剰免疫反応による生体防御反応です。」
炎症といいましても、大きく分けて二種類あります。「治る」か「死ぬか」と“勝負の速い”急性炎症と「ぐずぐず持続している」か「しつこく繰り返す」慢性炎症です。前述した広い意味での「アレルギー」は慢性炎症の典型なのです。

急性炎症は「自己」自身の生体防御反応といえましょう。自己の細胞の壊れが原因で起こる炎症ですから、さまざまな原因でおこりえて治りが速いです。また傷のあるケガをしたり肺炎になっても外部から侵入したさまざまな「非自己」に対しても自己を壊しながらも免疫反応が的確であれば、生体防御反応がそれらにうち克って治りが速いでしょう。

しかし大怪我や大量の病原細菌の侵入には自己破壊がひどくてうち克つことができず、本人は死んでしまいます。これも“勝負の速い”急性炎症です。悲惨な死という結末はあの世に旅立つという究極の逃避反応=「負けるが勝ち」といえましょう。

ところで、このことをむごいと思うのは現代人の発想です。現代から見ると、江戸時代になんとむごい事がくりかえされてきたことでしょうか。「間引き」「水子」「さまざまな疫病」。

最近の時代劇はあまりにかっこよすぎます。江戸時代の期間(約二世紀半)、なんと日本の人口はほぼ横ばいの3千万人であったという事実は何を意味しているのでしょうか。

だからこその「まつり」「とむらい」ではなかったでしょうか。「祭りは大いに盛りあげてやるべし」。それが真の「供養」というものです。東日本大震災に対する対応としては、現代日本人は余りにも表面的同情に過ぎましょう。

話を元にもどします。人類であろうとほかの哺乳動物であろうと、からだを守ろうとする同じようなシステムが生まれながらに備わり成長し、子孫を残していのちを全うします。この生存するという生体防御反応が今まで長々述べてきました免疫系(生体防御系)であり、常にある幅で安定に保たれているシステム(免疫ホメオスタシス=恒常性)です。

この幅から過剰にずれてしまう病態が「細胞レベル」でのアレルギー反応であり、「目で見えるレベル」で炎症反応なのです。もう一度くりかえしますが、炎症反応と過剰免疫反応(アレルギー)は「コインの裏表」の関係といえましょう。治る炎症という(急性炎症)の例を挙げます。

ケガと急性炎症

ペットのイヌやネコが足のどこかをケガした場合、「痛み」(疼痛)を感じた場所を舌でなめるという行動を見かけるでしょう。ケガした場所に血が出ていようがいまいが、いろいろな角度からしばらくなめています。「痛み」を和らげようとしているかのように。

ケガした場所が汚れて血が出ていれば、じっくりとしばらくなめてきれいにすることをくりかえします。こうした行動全体が広い意味での生体防御反応であるということはいうまでもありません。

ここで重要なことの第一は、キズのあるなしにかかわらずにしばらくすると赤く(発赤)はれて(腫脹)温かく(発熱)なった「炎症」がおきるということです。その第二は、キズ口に唾液を使ってキレイにすると「炎症」が長引かず、「ウン(膿み=好中球の死骸=化膿性炎症)ダリもせず」になおっていくという事実です。

ちなみにニキビは急性化膿性炎のくりかえしです。ニキビは毛穴に細菌感染が起こって、からだの側は好中球をその場所に集めることで細菌の侵入を食い止めようとしています。好中球は前述のように自爆テロのような寿命の短い白血球で、血液の中で最も多い白血球です。

ニキビの部分に黄色の小さいツブが出来るものを見たことがあるでしょう。黄色い小さな粒は白血球の死骸で、小さな膿みの塊を造っています。膿みに化けるということが「化膿」ということば通りの医学用語です。

好中球がたくさん死骸となると細胞の中に持っていた組織を壊す酵素が働くようになって、月面のように顔のあちこちにニキビの痕が大小さまざまに残ります。

古代ギリシャ人ガレノスの「炎症の四徴」

以上の四箇所の下線したことば「疼痛」「発赤」「腫脹」「発熱」は、古代ギリシア以来の「炎症の四徴」といわれ、炎症論の金科玉条といっても良いものです。第一の重要性は、キズがなくても炎症がおこるというきわめて重要な事実です。

わたしはこのほかに例えとして「タンコブ」や「日焼け」を挙げて説明します。これらはまちがいなく「炎症」です。しかしこれらのことについて異論を唱える人がいらっしゃるかもしれません。「キズもないのに本当ですか」と質問してくることがあります。炎症なのかどうかはっきりわかっていらっしゃらないという様子です。

このことは、医学系の専門学校で講義をしていて私が気づくことですから、「一般的な炎症の誤解」といっても良いのではないでしょうか。

日焼けの経験のない人はいないでしょう。これは治療もせずに治る炎症=急性炎症の典型例です。太陽の強い日差しを浴びた場所に一致して日焼けはおこります。皆さんはこの「限局性」という現象を当たり前のように受け止めているはずです。

しかし「炎症を限られた場所に食い止めている」という事実はからだの側の生体防御そのものです。この現場では起こっていることが免疫細胞たちの仕事場(生理学的)であり、戦場(病理学的)にもなりうるのです。

日焼けとは

日焼けによる炎症反応の程度は日差し(紫外線という非電離放射線)の強さと時間と密接にかかわっています。また受ける人によって個人差(免疫反応の差)もあるでしょう。ケガもないのに、細菌感染もないのに、まぎれもなく「炎症」はおこるのです。

こうした炎症反応は、病理学の専門的には「ありふれた炎症」という意味で「非特異性の炎症」といいます。この場合の「特異性」「非特異性」ということばほど、現代科学な生物現象の捉え方として最も重要なことばあるいは「考え方」はありません。もちろん現代医学的においてでもです。

では「特異性の炎症」とは何でしょうか?これは歴史的な炎症ともいうべき病気で、人類を悩まし続けた慢性炎症です。このことを納得していただけるように説明するには数章必要かもしれませんので、後でまとめて述べることにしましょう。急性炎症について次回に続きます。

プロフィール
遠藤 雄三(えんどう ゆうぞう)氏

東京脳神経センター(病理/内科)

遠藤 雄三(えんどう ゆうぞう)

昭和44年(1969年)東京大学医学部卒。虎の門病院にて免疫検査部創設・部長、病理/細菌検査部長を務める。その後カナダ マクマスター大学健康科学部病理・分子医学部門客員教授、浜松医科大学第一病理非常勤講師、宮崎県都城市医療法人八日会病理顧問・看護学校顧問を経て、現在、東京脳神経センター(病理/内科)。免疫学・病理学・分子医学の立場からがん・炎症の研究を進め、発表した論文は110報以上。

<主な研究課題> 生活習慣病予防にかかわる食物、サプリメント、生活習慣病と公衆衛生、IgA腎症と粘膜免疫とのかかわり、頭痛と首コリの解消、人体病理学、臨床免疫学、実験病理学

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病理専門医からみた健康戦略シリーズ[2]

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病理専門医からみた健康戦略シリーズ[1]

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