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病理専門医からみた健康戦略シリーズ[1]

掲載6

からだの防御システム(6)特異的免疫細胞たち:リンパ球

最重要なことなので繰り返します。
免疫システムは日ごろから備わっている体内の生理学的な幅のあるしくみ(“免疫ホメオスタシス”)にほかなりません。免疫反応として過剰な防御反応として現れる炎症反応もピンからキリまでの病態生理学的なしくみであります。

両者の間にははっきりとした境界があるわけではなく、常にブレテいます。このブレのある「アソビ」が重要で、これらのしくみのことをまとめて昨近では「生体防御反応」と呼んでいます。

これらの反応のおかげで病態の多くは復元できて、曲がりなりにも健全に生活できているわけです。この状態のことを、専門的には「可逆的」病態といいます。こうした状態を保てるのは、一般的にはいわゆる「自然治癒力のおかげ」といっているわけです。

この力は体内に備わった復元力であり、これを支えている実体が前回「その1」と今回「その2」の内容の「血液細胞の力」にほかなりません。そして、さらにはこの血液細胞と「血漿の力」を支えている真の実体こそ日々の食べ物からの補給に他ならないのです。

これらについて十分にガッテンしていただけますと、食べ物を単なる満腹にさせるものという感じとは一味ちがった「格別に大切なもの」と目覚めていただけることでしょう。

この意義がまさに私のいう「食-医同源」の真意であります。つまり食べ物プラスサプリメントの意義の情報発信こそこの場と考えているわけです。日ごろ健康であれば、「医薬」は最後の手段でよいのです。

さてここから免疫反応を支えている細胞の特徴について説明を続けていきます。「その1」ではいわば誰もが持っている非個性的な免疫系細胞(医学的には” 非特異的”といいます)でした。これらの細胞たちは集団的作戦行動する「海兵隊的」細胞部隊です。これからお話しする細胞たちは、数は億単位ですが専門性 のはっきりした特殊ゲリラ部隊の細胞たちについてです。

特異的免疫細胞たちとは

リンパ球

リンパ球や単球は顕微鏡で見た様子ではたいへん単純に見える細胞たちです。しかし、役割はひとつひとつの細胞で異なるほどに多士済々です。これらの細胞 たちは、ひとりのヒトの血管内に常に約10億個そしてからだ全体で100億個存在しており、つねにダイナミックにリフォームしています。そしてその数だけ 働き方が違うというイメージを持ってください。

こうした細胞たちが全身をめぐりながら極めてダイナミックに行動して働いています。 これらの細胞たちとは、リンパ球、形質細胞ならびに単球です。これらの細胞たちは血管内以外では、骨髄、脾臓、胸腺、リンパ節そして消化管の胃腸管全長約6メートルの粘膜上皮下層に分布しています。

そしてそのほかに、のどの奥にある扁桃腺、虫垂(俗に盲腸といいますが)、小腸のパイエル板などリンパ装置を駐屯地として膨大な数が集まっています。こ れらの細胞たちは毛細血管の内部と外部を行き来し、またリンパ管に入ります。これらの動きに一定のルールがあって、それはそれはダイナミックな動きをして 全身くまなくパトロールしています。

Tリンパ球

リンパ球はリンパ管の中から見つかった細胞たちなのでリンパ球といわれています。この中には実は単球-マクロファージも混在しています。これらの細胞た ちはダイナミックに血管で運ばれて、毛細血管という場所から出て働いた後、主にリンパ管の流れに入ってリンパ循環から両側のくびの静脈の血流に戻ってきま す。一瞬たりともよどみもなく体内を循環し続けます。

胸腺学校

リンパ球たちは骨髄でつくられた後、血液で運ばれて胸腺をめぐります。胸腺の「学校」に入学を許されたリンパ球たちは、そこで「教育」をうけてTリンパ 球という資格のある細胞に変わり、その数だけの多様な働きのゲリラ集団となります。これらのTリンパ球たちはリンパ球のうち約80%であり、残りの大部分 はBリンパ球たちです。少数派はNK(ナチュラルキラー)細胞たちです。

これらの細胞たちは自分を形づくる物質に反応しないリンパ球ですので、主として外からくる非自己物質とのみ反応します。細胞のレベルで自己と非自己を峻 別しているのが生理学的な免疫系なのです。天文学的な多様なはたらきをするリンパ球たちは互いにバランスを取り合って、しかも互いに助け合って「おみこ し」をかついでいます。

これらの細胞たちは互いに許しあう「寛容」な環境を造り、一人の個人の免疫系のバランス(おみこし)をサポートしているわけです。ここには、勝手な細胞はいません。勝手な細胞とはまさにがん化した細胞なのです。どこぞの国家元首をイメージしてしまいます。

Bリンパ球

胸腺の「学校」に向かないリンパ球たちは、研究史的にBリンパ球と呼ばれる細胞の特徴を示しています。この細胞集団の特徴は、成熟すると形質細胞という特徴的な形の細胞となり、免疫グロブリンという特別な構造(Yの字)をした蛋白質をつくります。
身近なことばでいうと抗体となりまして、抵抗力の実体ですし、一方でいわゆるアレルギーを引き起こす抗体です。この分かれ道であるクラススイッチという現象がきわめて重要で、後ほど詳しくお話しましょう。

抗体タンパク、いいかえますと免疫グロブリンの種類は5種類あり、それを規定している遺伝子の研究からも確認されています。
以下の説明は大変重要ですので、少しくわしく触れていきます。免疫グロブリンはIgG,IgA,IgM,IgE,IgDとなります。IgGとIgMは生理的には抵抗力の抗体となります。

しかし、IgEは生理的にはいわゆるアレルギーをひきおこすとして働くことになります。IgAは、生理的には消化管や気道系などの粘膜に関係する免疫系 の抗体として重要なはたらきをしています。IgDはBリンパ球の成熟していく際に細胞表面で働く抗体であり、生理的には血液中にはほとんど認められませ ん。

Bリンパ球の産生する抗体の天文学的多様性

免疫グロブリンの構造がYの字といいましたが、上の部分が開いて下の部分が結合したYの字とイメージしてみてください。ちょうどタンゴを踊っている男女がステキなポーズを作って、ミエをきっている所作でしょうか。

したがって二本のポリペプチドからできているわけで、これらを二本の重い鎖と呼んでいます。上の部分には二本の軽い鎖が左右の重い鎖にからまっていま す。つまり免疫グロブリンという蛋白質は二本の重鎖と二本の軽鎖から成り立っているわけです。Yの字の上端がいわゆる異物(抗原)と結合する部位になり、 この場所は重鎖と軽鎖でちょうどポケットのようなくぼみになっています。

このくぼみのかたちは、おのおのの形質細胞で全て異なっており、ほぼ無限の多様性が推定されています。これらの多様性を決めているのがアミノ酸配列の多 様性であり、「体細胞突然変異」という革命的なからだのしくみを解き明かした利根川 進博士の研究はノーベル賞に値しました。

無限の多様性はTリンパ球のアンテナ部分にも同様に認められます。この多様性が混乱することなく、個々の細胞同士で「カギとカギ穴」という特異的な関係 である点が驚異なのです。数100億個のリンパ球たちが規則正しく整然とかかわりあっているミクロ宇宙こそからだの中の出来事です。こうした環境が免疫バ ランスを形造っているのです。

この多様性こそが、無限の異物に対していわゆる抵抗力を発揮できるわけです。しかし、一方で抗体産生の分かれ道(クラススイッチ)のたどりかたでいわゆるアレルギー反応が起ったりします。これとても実はからだの防御反応に他なりません。

Bリンパ球の抗体産生はTリンパ球の協力があってこそ成り立つのですが、最も重要なはたらきは単球にあります。この単球-マクロファージ=Tリンパ球=Bリンパ球のセットがひとつのクローン(単クローン)という免疫反応の単位となります。

免疫バランスと単球=マクロファージ系=樹状細胞たち

このような免疫系のしくみのおかげで、皮膚あるいは消化管、気道系、尿路系、生殖器系などの外部との接触面での防衛システムが完備されているわけです。そのようなからだの様々な場所でリンパ球たちとマクロファージ系細胞たちは分子のレベルで話し合っています。

外からの進入してくるものとしては、皆さんもご存知の感染症があげられます。このとき免疫反応の引き金をどの細胞が引くのかが、免疫反応の中心的問題で す。答えは単球-マクロファージ系です。この系統の細胞は免疫反応の指揮者的細胞の役割をします。つまりこれらの細胞が非自己と認識すると前述の複数のク ローンがいっせいに活動し始めて、なるべく早く終息させようと細胞同士で話し合うことになります。

くりかえしますが、たとえばのどや消化管、虫垂では食べ物の中の様々な異物の刺激を受けることになりましょう。その中のウィルスが細胞に感染する場合も あるはずです。空気中の花粉などのアレルゲンもあるかもしれません。花粉症や喘息などのアレルギー反応をひきおこすことになります。これらはからだの仕組 みとして一見矛盾するようですが、免疫反応の源流は一緒です。

方向が正反対になっているようですが、防御反応としては効果をからだに示しています。こうした一連の反応のスタートが血液由来の単球です。単球は血管の 外に出ると活性化してマクロファージとよばれる形の変化で見分けられるようになります。この細胞はからだの中を動き回れます(いわゆる遊走)。

からだのさまざま部位に広がっており、それらを研究していたすぐれた研究者の名前が付いています。しかし一般的には樹状細胞といわれて、単球-マクロ ファージ系といわれています。樹状細胞の細胞質はちょうど木の枝のように張り出していて、あたかも複雑なアンテナのようです。皮膚の樹状細胞はランゲルハ ンス細胞と呼ばれ、全身の皮膚細胞集団の約4%にもあたります。

皮膚から入ってくるさまざまな異物を食べて(貪食)その情報を免疫系に伝えています。肝臓では樹状細胞はクッパー細胞と呼ばれており、消化管から体内に 入ってくるさまざまな刺激に対応して免疫系に情報を伝えています。消化管全長にも無数の樹状細胞が分布しており、たとえば腸内細菌の異物情報を体内の免疫 系に伝えています。

樹状細胞は成熟すると体内をめぐりながら免疫系に指示を出しながら、体内を監視し続けます。したがって樹状細胞をしっかりさせようという免疫戦略は医学的に大変理にかなったものです。
現代医学の研究の方向性はこの分野の研究論文数の増加から見て当然のことでしょう。米ぬか製品が樹状細胞の成熟に深くかかわっているという最新の研究は注目に値します。また米ぬか製品がアレルギー症状や炎症反応の軽減に重要な効果を示すことも解明されつつあります。

今回は事業仕分けで取り上げられたような数字が並びまして、妙な気分となりました。しかしこれらの数字はヒトひとりに存在する免疫系細胞の数に過ぎません。全体の細胞数の膨大なことは皆様ご存知のとおりです。

さて免疫系の基礎的な事実は「自己」と「非自己」の関係ですので、次回説明予定です。その中にクラススイッチのことについても述べましょう。生理学的な内容の後に、病態シリーズを続ける予定です。まだまだ続きますので、乞うご期待!

プロフィール
遠藤 雄三(えんどう ゆうぞう)氏

東京脳神経センター(病理/内科)

遠藤 雄三(えんどう ゆうぞう)

昭和44年(1969年)東京大学医学部卒。虎の門病院にて免疫検査部創設・部長、病理/細菌検査部長を務める。その後カナダ マクマスター大学健康科学部病理・分子医学部門客員教授、浜松医科大学第一病理非常勤講師、宮崎県都城市医療法人八日会病理顧問・看護学校顧問を経て、現在、東京脳神経センター(病理/内科)。免疫学・病理学・分子医学の立場からがん・炎症の研究を進め、発表した論文は110報以上。

<主な研究課題> 生活習慣病予防にかかわる食物、サプリメント、生活習慣病と公衆衛生、IgA腎症と粘膜免疫とのかかわり、頭痛と首コリの解消、人体病理学、臨床免疫学、実験病理学

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