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病理医からみた一人ひとりのがん戦略

掲載11

肝細胞がんに対する予防戦略 2)肝硬変と慢性炎症

2)肝硬変と慢性炎症

肝硬変になりますと、炎症はよくなったり悪くなったりをくりかえしていきます。肝細胞は壊れたり、再生したりをくりかえしていきます。こうした状態の場合、お医者さんに経過を診てもらうことになります。

よく肝機能検査ということばをきくことになります。とくにトランスアミナーゼということばをきくことがあるかと思います。これは肝細胞がもっているもので、肝細胞が壊れると血液中にもれ出てきます。

肝機能検査というのは、血液の中に出てきた肝細胞に関係した物質の増減を調べているわけです。ですからトランスアミナーゼが高いということは肝細胞が異常に壊れていることを意味しており、高さの数字が肝細胞の壊れのひどさをあらわしています。

この間に肝細胞はやられっぱなしではなく、しばしば肝細胞が再生して、増えようとします(*注)。肝細胞の壊れ、炎症そして肝細胞の再生、これらのくりかえしが次第に肝細胞がんの芽をつくっていきます。

このときの炎症細胞がつくりだす活性酸素が肝細胞のDNA、RNAだけでなくタンパク質やさまざまなからだの成分をランダムに壊します。DNAの壊れが、遺伝子の壊れとなり最終的にがんとなっていく肝細胞達なわけです。

つまり慢性炎症がくりかえされ、くすぶりつづけることががん化にとって大変重要なカギとなります。このことは今まで述べてきましたおとなのがんの発がん過程と共通しているわけです。

*注
肝臓は体内の細胞の中でもっともよく再生します。肝臓の重さはおとなでは約1キロから1.5キロあります。大きく二つの部分にわかれ、右半分が約3/4、左半分が約1/4の割合です。たとえば、がんのために肝臓の半分を取りさっても、時間とともに肝臓は再生してきます。
生体肝移植のときには、提供者の肝臓の約半分を受ける側に移植するのです。移植後、両者の半分の肝臓は数ヵ月後にはかなりの大きさに再生して、日常の生活に支障をきたすことはありません。したがって、肝細胞は多少こわされたとしても、復元力がつよい細胞といえます。アルコールの量がときに多少過ぎたとしても肝細胞がこわれたあとに再生します。また肝細胞は犠牲になることはなく、肝細胞は解毒というはたらきがあって、からだにとって余計なものを排除しようとします。
おとなになると、肝臓では毎日約5グラムの細胞たちがおきかわっています。いわば肝細胞のリニューアルです。この細胞のおきかわりがアポトーシスという現象です。これは再生とは異なりますが、細胞のリニューアルというきわめて重要なしくみです。
ひとつの細胞が分裂すると必ず二つになります。二つの細胞がそのまま生きつづけますと、肝臓はだんだん大きくなってしまいます。30日で150グラム、10ヶ月で1.5キロということで肝臓が二倍になってしまいます。
ですから普通は、二つのうちひとつの細胞が死ぬ運命にあるのです。「プログラムされた細胞死」といわれるゆえんです。肝細胞がんの場合も、このアポトーシスというしくみが壊れた細胞群ががんということでもあります。

プロフィール
遠藤 雄三(えんどう ゆうぞう)氏

浜松医科大学(第一病理)

遠藤 雄三(えんどう ゆうぞう)

昭和44年(1969年)東京大学医学部卒。虎の門病院免疫部長、病理、細菌検査部長兼任後退職。カナダ・マクマスター大学健康科学部病理・分子医学部門客員教授となる。現在、浜松医科大学第一病理非常勤講師、宮崎県都城市医療法人八日会病理顧問、看護学校顧問。免疫学・病理学・分子医学の立場からがん・炎症の研究を進め、現在に至る。

<主な研究課題> 生活習慣病予防にかかわる食物、サプリメント、生活習慣病と公衆衛生、IgA腎症と粘膜免疫とのかかわり、人体病理学、臨床免疫学、実験病理学

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