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病理医からみた一人ひとりのがん戦略

掲載10

肝細胞がんに対する予防戦略 1)肝細胞がんのおこり方

1)肝細胞がんのおこり方

肝細胞がんのおこり方は今まで述べてきましたおとなのがんの中でも例外的です。はじめにまとめていいますと、肝細胞がんがおこるには、二つの重要な条件が必要です。ウィルス感染状態と慢性炎症の末期状態である肝硬変という状態です。炎症細胞がつくりだす活性酸素が、再生している肝細胞のDNAを自己破滅的に壊すという経緯が必要です。

肝臓は、からだの中の化学工場とよくいわれますように、さまざまな食べ物から自分のからだの材料や栄養分に変える中心的役割を担います。さらに重要な役割は解毒作用で、胆汁という消化液にして体外へ排泄します。

肝臓というと“休肝日”というように、アルコール(飲酒)の解毒と大いにかかわっています。飲酒の度を過ごして飲み泥酔をくりかえしていては、肝臓が悲鳴をあげてさまざまな症状が出てまいります。それが、まさにひとそれぞれの解毒力を超えたことを意味するわけで、これをくりかえしていては、おとなしくも力強い肝臓もだんだんプレッシャーに負けて壊れていきます。

しかし、アルコール飲みはみなさん肝臓を悪くするかというとそのようなことはありません。アルコールに飲まれることなく、以下に述べるウィルス感染の合併がなければ、肝臓はすばらしい復元力でふだんの生活ができるはずです。

しかし、多くのなおりにくい肝臓病、いわゆる慢性肝炎といわれる病気の大部分は二種類のウィルスによっておこります。両者はB型あるいはC型とよばれる肝炎ウィルスで、いずれも輸血や傷による体内侵入のかたちで感染します。

筆者が子供の頃(約半世紀前)、校医さんがやってくださった予防注射は10名くらいの生徒にまわしうちのようでした。よくもまあ、感染しなかったものだといまさらながらに思いますし、医学の未開の頃は大変危険だったのだと身をもって実感している次第です。

また、滅菌処理で壊れてしまう物質を必要とする血液の非加熱製剤が良かれということで投与された時期がありました。それによって肝炎ウィルスが感染したということが、大きな問題となり、国の厚生行政が医療訴訟という形で訴えられています。

これらのウィルスが、いったんからだの中に入ると、なかなか排除できません。多くの場合、ウィルスは肝細胞内でふえて、肝細胞を壊したり、炎症をひきおこします。こうした経過が長引いていくうちに、肝細胞で満たされていてやわらかいアズキ色の肝臓で、あちらこちらに虫食いが生じて炎症が起きていきます。肝細胞が壊れると、それをおきかえるように肝細胞が増えて、再生がおこります。

同時に、そのあとが残って細かいしこり(線維化)となり、肝臓全体がだんだんに硬くなっていきます。数年から10年くらいの経過で、細かいしこりが肝臓全体に広がり、のっぺりしていた表面がこまかい凹凸のある肝臓に変わり、肝硬変という状態にいきつきます。

肝硬変とは、文字通り肝臓が硬く変わっていく状態です。肝硬変が進んでいきますと、からだのあちこちにさまざまなシルシが現れてきます。手のひらがくすんで赤みをもってくるのはそのひとつです。健康な状態では、あざやかな赤みはこするとうすくなり、すぐにまた赤みにもどります。

プロフィール
遠藤 雄三(えんどう ゆうぞう)氏

東京脳神経センター(病理/内科)

遠藤 雄三(えんどう ゆうぞう)

昭和44年(1969年)東京大学医学部卒。虎の門病院にて免疫検査部創設・部長、病理/細菌検査部長を務める。その後カナダ マクマスター大学健康科学部病理・分子医学部門客員教授、浜松医科大学第一病理非常勤講師、宮崎県都城市医療法人八日会病理顧問・看護学校顧問を経て、現在、東京脳神経センター(病理/内科)。免疫学・病理学・分子医学の立場からがん・炎症の研究を進め、発表した論文は110報以上。

<主な研究課題> 生活習慣病予防にかかわる食物、サプリメント、生活習慣病と公衆衛生、IgA腎症と粘膜免疫とのかかわり、頭痛と首コリの解消、人体病理学、臨床免疫学、実験病理学

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病理専門医からみた健康戦略シリーズ[1]

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病理医からみた一人ひとりのがん戦略

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・掲載6 環境要因による胃がん予防

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・掲載4 生活習慣病としてのおとなのがん

・掲載3 抗生物質から抗がん剤開発へ

・掲載2 現代医学と病理学

・掲載1 はじめに

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