HOME > なるほど健康塾 > ドクターから健康アドバイス > 頚コリがなぜめまい、耳鳴りや起立性調節障害を起こすのか

  • なるほど健康塾
  • ドクターから健康アドバイス
  • 健康豆知識

なるほど健康塾

ドクターから健康アドバイス

首コリ治療医、病理専門医の説く頭痛についてーほとんどの頭痛とは頭皮痛のことー治療法は松井理学療法と自己姿勢の復帰

掲載9

頚コリがなぜめまい、耳鳴りや起立性調節障害を起こすのか

めまい、耳鳴りの原因は耳ではなく頸静脈血量にある

人間の何気ない日常生活は姿勢と密接に関係しながら推移しています。あなたの頭の位置が心臓よりもかなり上にあるという事実を意識していなくても、当たり前のように血液が心臓から頭のてっぺんまで送り出されています。また逆立ちをすればコメカミの部分や頚部の静脈が浮き出て、血液が溜まってうっ血していきます。
頭に向かった動脈血は、脳表で毛細血管まで分かれて脳内に侵入して細胞たちに栄養や酸素を配給します。血液は脳内の老廃物を受け取って毛細血管から静脈系に流れていきます。それと同時に近年、このような微小循環系の外にも滲み出た液 (一般的にリンパ液という) の流れる微小な通路のようなものが存在することが解明されました。この通路を流れる神経細胞から排泄される異常タンパク (βアミロイド) の溜まりがアルツハイマー病ともかかわるということで今、大いに注目されています。電子顕微鏡的にはこの通路は明瞭なリンパ管構造として確認することはできないのですが、脳内の毛細血管周囲のスキ間はglymphatics (私としての訳は「グリア―リンパ系」) と呼ばれています。これは毛細血管やリンパ管とは別の形で流れ出て、脳外の頚部でリンパ液としてリンパ管内に流入します。この事実は地味ですが、神経病理学研究分野での最近の快挙で (文献1)、研究は現在も進行中です。

頚静脈イラスト上記の循環系統とは別に通常の毛細血管があり、合流しあって静脈となり頭蓋内で「静脈洞」という一時貯水池のような拡張しやすい血管内に溜まるという特徴があります。そこから流れ出た大量 (脳内からの約95%) の静脈血がさらに内頚静脈と呼ばれる通路を流れて頚静脈球部 (図1; jugular bulb) を通過する時に、めまいと耳鳴りにかかわる内耳のごく近くを通過することになります。この頚静脈球部は、図のように急角度でカーブする不思議な構造であり、球部は膨れたりしぼんだりするという奇妙な特徴があります。つまり心臓側の静脈圧が高いと血液は逆流して球部は膨らみ、低いと球部はしぼみます。その後、この静脈は内頚静脈という静脈本幹として脳底部の骨の穴を通って頭蓋外に出て、頚部を流れ落ちて心臓に戻ります。
この内頚静脈の血液量の増減は頭蓋内の血液量と密接にかかわります。つまり前のめりの姿勢は、内頚静脈を周囲から押さえつけることで血液を溜まりやすくさせている可能性が高いのです。そうなると内頚静脈はうっ血状態となり、頚静脈球部は膨隆します。その結果、微小循環と組織液に関するスターリングの法則*1により周りのリンパ液が血管外に流れ出ることで近接する内耳の管状構造内のリンパ液量が増加して圧力が高くなり、一時的な「めまい」「回転性のめまい」や「耳鳴り」のみならず耳閉感や「頭鳴り (ヅナリというそうです)」を引き起こすことが推定されます。
内耳は主に細い管がカタツムリの様にグルグル巻きになっている聴覚を司る構造と、3個のリングがXYZ軸に展開している平衡感覚を司る構造から成り、その中に満たされたリンパ液の波と圧の流れによって感覚を生み出している合併器官です。この内耳という器官の機能障害が実は頚部の姿勢と密接にかかわっているということが、私のこれまでの臨床経験、MRVと松井法による治療成績から浮かび上がってきたのです。端的に言えば頭と首の前のめり姿勢が原因で、めまいと耳鳴りが起こるということです。前のめり姿勢の結果として首コリ筋群 (先のコラムで説明したハエを目で追いかける時に使う奇跡の筋肉群です) が形成するストレートネックでなければ、めまいや耳鳴りは極めてまれにしか起きないのです。
静脈球部と内耳との密接な関係は、前のめり姿勢以外の場合でも障害の原因となることがあります。たとえば睡眠時の姿勢として仰向けでなくて、どちらかを下にして横臥で寝る方も多いでしょう。その時に高い音のキーンという耳鳴りが生じた経験はないでしょうか。東京脳神経センターでは頭部MRV検査により、内頚静脈系 (V) の血液量や逆流像をMRI画像から解析することができます。これまでの数百例のデータの蓄積から、このような耳鳴りは下にした側の耳側で静脈うっ滞が起こることが原因である可能性が考えられており、静脈球部の画像解析が今も進められています。
以上のことを踏まえると、座禅すわりならば首コリ症候群やめまい、耳鳴りは絶対起こらないと言っても過言ではありません。起立性調節障害もほとんど起こらないはずです。前のめり姿勢やソファ上でのダラッとしたリラックスすわりが頚部の静脈血下行を抑えてしまい、生じた頭蓋内の静脈うっ血が周囲組織をまるで水浸しのような状態にしているのです。この状態からの急激な姿勢の変化により「クラクラ感」「ふわふわ感」などのふらつき (dizziness) や、場合によって回転性のめまい (vertigo) が起こることになります。朝の起床時など頭部を急に動かす時にめまい発作が起こりやすいのはこういった理由からです。

めまいの診断と治療は体全体をみる

耳鼻科の先生方はよく「内耳のリンパ管内のリンパ液の急激な流れの変化が、内部の微小な耳石をはがすことでめまいが起こる」という仮説で説明します。一過性のめまいを「良性発作性頭位めまい症」なる長い病名で表します。しかしこの仮説には、はがれた耳石をどのように元の位置に戻すのかという疑問点が存在します。
さらに興味深いことにめまい症状の治療には、この仮説とは真逆のような方法が報告されています。耳鼻科の高橋正紘先生は「メニエール病に対する有酸素運動の効果」という論文の中で、上下運動と姿勢矯正を治療法として主張されています (文献2,3)。報告ではメニエール病と診断されていますが、症状からの突合せから推察するとメニエール症候群です。調査対象の患者さんの職業は事務業務系が中心で、真面目で仕事熱心な方々の生活習慣病のようであり、私の経験している首コリの患者さんたちとほぼ同様なのです。
めまいの診断と治療は体全体を診察、検査しなければ原因究明にはいたりません。東京脳神経センターでは、大脳皮質からのめまい (脳のMRI)、眼振検査、小脳検査、簡易視野検査、内耳平衡覚、重心バランス検査などをおこなっています。めまいで耳鼻科を受診すると内耳機能検査という一部のみの機能検査しか受けられないので、診断の範囲は限られてしまいます。
頚部の姿勢が前のめりで顎を引いた状態で仕事をする人は、よくよく自分を見つめ直してください。ほとんどのパソコン仕事、システムエンジニア、スマホ姿勢、事務系職員、料理関係の野菜切り、哺乳や育児姿勢、学生や教職員、ソファでのリラックス座りは頚に負担がかかります。これらの姿勢はホモサピエンスにとって相性の悪い姿勢なのです。ついでに言うと、足を組む姿勢もクセになってついついやってしまいますが、骨盤の複雑な関節関係をゆがめてしまうので避けるべきです。

 

図1 頚静脈球部の図 この図はヒトの右耳を外側から観察した内耳 (茶色の部分は蝸牛と三半規管) です。右が顔の前側、左は後ろ側です。渦巻の部位に外耳道と鼓膜があります。
出典: 宣保煕彦 他 編著, 臨床のための脳局所解剖学, 206頁, 中外医学社, 2006
文献1: Aspelund A et al. A dural lymphatic vascular system that drains brain interstitial fluid and macromolecules., J. Exp. Med. 2015; 212: 991-999.
文献2: 高橋正紘, メニエール病に対する有酸素運動の効果。めまいをみわける・治療する。294-299, 専門編集 内藤 泰, 2012.10.15出版, 中山書店
文献3: 高橋正紘, 生活指導と有酸素運動によるメニエール病の治療。Otol Jpn, 2010:20: 727-34.
*1:スターリングの法則とは微小循環系での血管内と血管外との間での物質のやり取りの法則です。動脈側の血液の栄養や酸素が細胞たちにいきわたります。静脈系の血液には細胞たちからの排せつ物や炭酸ガスが吸い込まれてくるという仕組みの法則です。

プロフィール
遠藤 雄三(えんどう ゆうぞう)氏

東京脳神経センター(病理/内科)

遠藤 雄三(えんどう ゆうぞう)

昭和44年(1969年)東京大学医学部卒。虎の門病院にて免疫検査部創設・部長、病理/細菌検査部長を務める。その後カナダ マクマスター大学健康科学部病理・分子医学部門客員教授、浜松医科大学第一病理非常勤講師、宮崎県都城市医療法人八日会病理顧問・看護学校顧問を経て、現在、東京脳神経センター(病理/内科)。免疫学・病理学・分子医学の立場からがん・炎症の研究を進め、発表した論文は110報以上。

<主な研究課題> 生活習慣病予防にかかわる食物、サプリメント、生活習慣病と公衆衛生、IgA腎症と粘膜免疫とのかかわり、頭痛と首コリの解消、人体病理学、臨床免疫学、実験病理学

バックナンバー

首コリ治療医、病理専門医の説く頭痛についてーほとんどの頭痛とは頭皮痛のことー治療法は松井理学療法と自己姿勢の復帰

・掲載9 頚コリがなぜめまい、耳鳴りや起立性調節障害を起こすのか

・掲載8 免疫系と不眠症

・掲載7 自律神経障害の症状②

・掲載6 自律神経障害の症状

・掲載5 自律神経障害治療センター

・掲載4 「ホモ バネ仕掛け」の頚と「新型うつ」

・掲載3 首の構造と頭痛=頭皮痛のおこりかた

・掲載2 体験/炎症とは

・掲載1 はじめに

感染症と免疫シリーズ

・掲載6 感染症予防には手洗い、うがい、そして免疫をケアしよう

・掲載5 細菌感染と抗生物質:抗ウィルス薬は細菌には効かない

・掲載4 ウィルス感染症の治療と予防:抗ウィルス薬、血清療法、免疫

・掲載3 風邪、天然痘とSARS、MERSそして変異型コロナウィルス

・掲載2 花粉か、細菌か、ウィルスか、自己とのちがいとは?

・掲載1 ウィルス感染と免疫システム

病理専門医からみた健康戦略シリーズ[2]

・掲載22 自己とは?非自己とは?(22)過敏性腸症候群/食物アレルギー

・掲載21 自己とは?非自己とは?(21) 大腸と腸内細菌

・掲載20 自己とは?非自己とは?(20) Bリンパ球/IgA

・掲載19 自己とは?非自己とは?(19) パイエル板

・掲載18 自己とは?非自己とは?(18) 消化管の蠕動(ぜんどう)運動

・掲載17 自己とは?非自己とは?(17)粘膜免疫

・掲載16 自己とは?非自己とは?(16)腸管免疫

・掲載15 自己とは?非自己とは?(15)免疫と消化管

・掲載14 自己とは?非自己とは?(14)ウィルスと自己

・掲載13 自己とは?非自己とは?(13)妊娠とABO式血液型不適合

・掲載12 自己とは?非自己とは?(12)移植

・掲載11 自己とは?非自己とは?(11)輸血と免疫

・掲載10 自己とは?非自己とは?(10)Ⅲ型アレルギー/自己免疫疾患

・掲載9 自己とは?非自己とは?(9)Ⅱ型アレルギー/血液型

・掲載8 自己とは?非自己とは?(8)抗生物質の発見/一型アレルギー/免疫グロブリン

・掲載7 自己とは?非自己とは?(7)外部からの非自己②

・掲載6 自己とは?非自己とは?(6)外部からの非自己①

・掲載5 自己とは?非自己とは?(5)急性炎症:日焼けと免疫反応

・掲載4 自己とは?非自己とは?(4)炎症

・掲載3 自己とは?非自己とは?(3)アレルギー

・掲載2 自己とは?非自己とは?(2)自己の確立②

・掲載1 自己とは?非自己とは?(1)自己の確立①

病理専門医からみた健康戦略シリーズ[1]

・掲載6 からだの防御システム(6)特異的免疫細胞たち:リンパ球

・掲載5 からだの防御システム(5)免疫細胞たち:白血球

・掲載4 からだの防御システム(4)免疫ホメオスタシス/感染症と炎症

・掲載3 からだの防御システム(3)「食-医同源」

・掲載2 からだの防御システム(2)新型インフルエンザウィルス

・掲載1 からだの防御システム(1)はじめに:「病気」、「病態」そして「病 名」

病理医からみた一人ひとりのがん戦略

・掲載21 頭頚部がん(2)

・掲載20 頭頚部がん(1)

・掲載19 多発性骨髄腫(3)

・掲載18 多発性骨髄腫(2)

・掲載17 多発性骨髄腫(1)

・掲載16 おとなの進行がんの治療戦略(2)

・掲載15 おとなの進行がんの治療戦略(1)

・掲載14 子宮がん(2)子宮内膜がん

・掲載13 子宮がん(1)

・掲載12 肝細胞がんに対する予防戦略 3)ウイルス排除と抗炎症対策

・掲載11 肝細胞がんに対する予防戦略 2)肝硬変と慢性炎症

・掲載10 肝細胞がんに対する予防戦略 1)肝細胞がんのおこり方

・掲載9 前立腺がんに対する戦略

・掲載8 乳がんに対する戦略

・掲載7 肺がんの予防戦略

・掲載6 環境要因による胃がん予防

・掲載5 大腸がんに対する防衛戦略

・掲載4 生活習慣病としてのおとなのがん

・掲載3 抗生物質から抗がん剤開発へ

・掲載2 現代医学と病理学

・掲載1 はじめに

ドクター 一覧に戻る