あなたやあなたの周りにも、頭痛に悩まされているという人は多いのではないでしょうか。日本人の3~4人に1人が頭痛持ちだと言われていますが、 日本ばかりでなく、海外でも多くの人々が悩んでいます。そしてさらに近年、パソコンの普及、スマホの普及が原因と考えられる頭痛、首こり、肩こり、そして慢性疲労やうつ症状で悩んでいる人々が急増しているのです。今回の連載では、診断治療に直接かかわっている臨床医の立場から、頭痛、首こり、肩こりが、慢性疲労やうつ症状、更には自律神経失調症とどのようにかかわっているのか、そしてその治療法として、松井法という理学療法と姿勢の矯正や、サプリメントの利用がどのように有効なのかについて、私の実体験に基づいて説明していきたいと思います。
さて、みなさんは頭痛を感じたら、どのように対処していますか。頭痛薬が欠かせないという頭痛持ちの方も多くいらっしゃるでしょう。しかし薬を服用する前になおってしまったり、つかみどころがなく、服用を惰性で続けたり、まさに自己流で適当になっていないでしょうか。頭痛の原因がわからないながらも、炎症ではないかという仮説・推測をもとに抗炎症剤を服薬する――これが常習化していないでしょうか。それでも日本人は外国人に比べて我慢強く、横になって休んだりして急場をしのいで、薬に頼る比率は低いようです。頭痛薬の種類は大変多く、ある程度効いているようでもあります。処方箋なしでも買えるようになり、便利に服用しましょうなどの宣伝が多く見受けられるのが現状です。しかしそもそも、頭痛とは何でしょう。そしてどう治せばよいのでしょうか。
2018年に国際頭痛学会が発表した「国際頭痛分類第三版」のガイドラインでは、頭痛は一次性頭痛と二次性頭痛に分けられています。前者がいわゆる一般的な頭痛で、原因不明の病態としての頭痛です。医学、医療の世界では、「一次的」あるいは「本態性」という専門用語は“原因不明”という意味を含むことばです。従って、このガイドラインは科学的根拠に基づいてというより、国際的なコンセンサスといった形で、便宜的に使用されています。このガイドラインによれば、一次性頭痛には三種類あると分類しています。
第一に、原因がわからないまま目の奥が痛いという部位の頭痛を「群発性頭痛」、第二にコメカミがズキズキ拍動性に痛いという頭痛を「片頭痛」、第三に後頭部から後頚部に広がる痛みやコリと重苦しさの「緊張性頭痛」と、部位別に分類することが勧められています。繰り返しますが、これらの痛みの原因は不明です。つまり頭痛の原因がわかれば、治療は明らかに変更されるべきものです。
しかし、頭痛で医療機関に受診した人々は上のような診断をいわれたはずです。私の診察した患者様たちも、これらのことばをこうした事情を知らずに使用していました。わかったようになって、不安はある程度解消されたかな?で、処方された薬を不安そうに服用していました。
これらの一次性頭痛の特徴は、数日間あるいは一日のうちの一時的に起こる頭痛であり、ゆっくりとドンドンひどくなっていくという頭痛ではないことです。原因は何かわからないけれど、医療的に何とかしなければならないほどの強い症状の頭痛から、起こってはすぐに消えていくような頭痛もあるのです。これについて後で詳しく説明していきますが、その原因は首の構造と機能にかかわっていることがはっきりしてきたのです。原因がわかれば、その原因を改善すればよいし、頭痛を起こさないことが可能となります。一次性頭痛の原因について、ここに順序だてて説明していきます。
まず疑問は「病気とは何か」です。例えばコロナウィルスに感染した場合には、鼻汁や唾液からコロナウィルスがPCRで確認されれば、微熱と咳、息苦しさの症状はコロナウィルス感染症となりますし、治療法が適切に利用されるわけです。しかし今回の一次性頭痛という分類は非科学的で、臨床経験から便宜的に実践せよというものなのです。今その原因がわかってきた以上は、対策は比較的に簡単です。原因を排除して、自分の姿勢を元通りにすればよいのです。 一方後者の二次性頭痛は、原因のはっきりした頭痛です。ある原因によっておこるという意味で、医学的に「二次性」あるいは「続発性」の頭痛と呼びます。その原因は、頭蓋内に発生した「空間占拠の病変」 (space-occupying lesion=医学的には頭文字をとってSOLという) であり、一般的には脳腫瘍や頭部外傷後の硬膜下血種、動脈瘤によるくも膜刺激症状という、原因の明確な病気です。二次性頭痛は大変こわいものですが、実は現代医療の現場では、頻度は非常に低いのです。脳腫瘍を原因とするしつこい頭痛は意外に少ないもので、この10年で私の診察した頭痛患者様約4500人のうち、脳のMRIで脳腫瘍が確認されたのはたった2人のみです。
現在、抗炎症剤を中心とした頭痛薬の種類は大変多く、日本では処方箋が無くても購入できるものもあります。一方で頭痛薬による薬害は昔から注目されてきました。フェナセチンの慢性の腎毒性は有名です。またジクロフェナク、ロキソプロフェンやアスピリン系の副作用である胃潰瘍も頻度は低いながら、重篤で死に至る副作用です。薬の薬効は主として抗炎症作用なのです。
つまり「痛み」は「炎症」とほぼ同義語ととらえられているのです。しかし本当にそうかというと、結論からいって、そうではありません。むしろ「炎症」とは反対の頚部、肩部の局所の筋肉収縮=「コリ」、そして組織内部の微小循環不全と筋肉のこわばり(コリ)に伴う内在性の頚部神経のアラーム(侵害神経)による痛み=「神経痛」だったのです。 一般的にいう筋肉痛のほとんどが、実は神経痛だったのです。
最近では、一次性頭痛の治療薬として、大変高価 (自己負担3割で1万数千円) ではありますが、頭痛のメカニズムに作用する注射剤が開発されました。特に頭部の痛み神経の代表である三叉神経細胞から放出される痛み物質 (CGRP) を標的とした抗体薬①が注目されています。この抗体が毛細血管壁の受容体を覆い隠すことで、毛細血管の拡張により引き起こされる三叉神経痛を遮断するという「狙い撃ち」薬 (単クローン抗体薬) まで現れています。治療を行った約1/3の偏頭痛患者様の症状が一時的に改善したという報告がありますが、改善効果の持続時間について言及した論文は少ないようです。この治療薬の標的は著しく絞られていますから、当たれば有効ですが、当たらなければ、無効となりましょう。
以上のような観点から、一次性頭痛はなぜ起こるかが本論考の主眼です。微小循環の改善できるものは、必ず一次性頭痛に有効なのです。たとえば頚部を温めたりすることは簡単な微小循環改善効果があり、またNKCPなどの機能性食品素材も微小循環改善に効果があるので、首こり 、肩こりそして頭痛の改善に効果を示しています。したがって、第一の簡便な治療法として、首を温めること、後頭部あるいは後頚部を温めること、さらには微小循環改善効果のあるNKCPの服用をお勧めします。
第二はより重要です。それは自分の姿勢を再点検してみることです。前のめりは禁物です。みなさんも小さい頃は頭痛はなかったはずです。下の画像内、右端の姿勢は、10歳頃のみなさんの姿勢と同じです。背中の線を頭の方に垂直に伸ばすと、後頭部はその線のさらに後方にあります。 これは頭の重心が首に刺さっている形であり、頭部を最も安定して支えている姿勢です。丁度あの「けん玉」の「けん」と「玉」のような関係です。
注① CGRP薬:日本国内での保険適用薬品名(エムガルティ、アジョビ、アイモビーグ)
東京脳神経センター(病理/内科)
遠藤 雄三(えんどう ゆうぞう)氏
昭和44年(1969年)東京大学医学部卒。虎の門病院にて免疫検査部創設・部長、病理/細菌検査部長を務める。その後カナダ マクマスター大学健康科学部病理・分子医学部門客員教授、浜松医科大学第一病理非常勤講師、宮崎県都城市医療法人八日会病理顧問・看護学校顧問を経て、現在、東京脳神経センター(病理/内科)。免疫学・病理学・分子医学の立場からがん・炎症の研究を進め、発表した論文は110報以上。
<主な研究課題> 生活習慣病予防にかかわる食物、サプリメント、生活習慣病と公衆衛生、IgA腎症と粘膜免疫とのかかわり、頭痛と首コリの解消、人体病理学、臨床免疫学、実験病理学
・掲載4 「ホモ バネ仕掛け」の頚と「新型うつ」
・掲載3 首の構造と頭痛=頭皮痛のおこりかた
・掲載2 体験/炎症とは
・掲載1 はじめに
・掲載6 感染症予防には手洗い、うがい、そして免疫をケアしよう
・掲載5 細菌感染と抗生物質:抗ウィルス薬は細菌には効かない
・掲載4 ウィルス感染症の治療と予防:抗ウィルス薬、血清療法、免疫
・掲載3 風邪、天然痘とSARS、MERSそして変異型コロナウィルス
・掲載1 ウィルス感染と免疫システム
・掲載22 自己とは?非自己とは?(22)過敏性腸症候群/食物アレルギー
・掲載21 自己とは?非自己とは?(21) 大腸と腸内細菌
・掲載20 自己とは?非自己とは?(20) Bリンパ球/IgA
・掲載19 自己とは?非自己とは?(19) パイエル板
・掲載18 自己とは?非自己とは?(18) 消化管の蠕動(ぜんどう)運動
・掲載17 自己とは?非自己とは?(17)粘膜免疫
・掲載16 自己とは?非自己とは?(16)腸管免疫
・掲載15 自己とは?非自己とは?(15)免疫と消化管
・掲載14 自己とは?非自己とは?(14)ウィルスと自己
・掲載13 自己とは?非自己とは?(13)妊娠とABO式血液型不適合
・掲載12 自己とは?非自己とは?(12)移植
・掲載11 自己とは?非自己とは?(11)輸血と免疫
・掲載10 自己とは?非自己とは?(10)Ⅲ型アレルギー/自己免疫疾患
・掲載9 自己とは?非自己とは?(9)Ⅱ型アレルギー/血液型
・掲載8 自己とは?非自己とは?(8)抗生物質の発見/一型アレルギー/免疫グロブリン
・掲載5 自己とは?非自己とは?(5)急性炎症:日焼けと免疫反応
・掲載4 自己とは?非自己とは?(4)炎症
・掲載3 自己とは?非自己とは?(3)アレルギー
・掲載2 自己とは?非自己とは?(2)自己の確立②
・掲載1 自己とは?非自己とは?(1)自己の確立①
・掲載6 からだの防御システム(6)特異的免疫細胞たち:リンパ球
・掲載4 からだの防御システム(4)免疫ホメオスタシス/感染症と炎症
・掲載3 からだの防御システム(3)「食-医同源」
・掲載2 からだの防御システム(2)新型インフルエンザウィルス
・掲載1 からだの防御システム(1)はじめに:「病気」、「病態」そして「病 名」
・掲載21 頭頚部がん(2)
・掲載20 頭頚部がん(1)
・掲載19 多発性骨髄腫(3)
・掲載18 多発性骨髄腫(2)
・掲載17 多発性骨髄腫(1)
・掲載16 おとなの進行がんの治療戦略(2)
・掲載15 おとなの進行がんの治療戦略(1)
・掲載14 子宮がん(2)子宮内膜がん
・掲載13 子宮がん(1)
・掲載12 肝細胞がんに対する予防戦略 3)ウイルス排除と抗炎症対策
・掲載11 肝細胞がんに対する予防戦略 2)肝硬変と慢性炎症
・掲載10 肝細胞がんに対する予防戦略 1)肝細胞がんのおこり方
・掲載9 前立腺がんに対する戦略
・掲載8 乳がんに対する戦略
・掲載7 肺がんの予防戦略
・掲載6 環境要因による胃がん予防
・掲載5 大腸がんに対する防衛戦略
・掲載4 生活習慣病としてのおとなのがん
・掲載3 抗生物質から抗がん剤開発へ
・掲載2 現代医学と病理学
・掲載1 はじめに