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ドクターから健康アドバイス

感染症と免疫シリーズ

掲載6

感染症予防には手洗い、うがい、そして免疫をケアしよう

感染症という「病気」は、病原微生物の侵入によっておこる炎症という「過剰な免疫反応」と感じてください。急にこういっても、「えっ?」とおもわれるでしょう。免疫系とは、たとえば微生物の感染に対して戦ってくれている血液細胞とサイトカインたちの総合力です。しばしば「免疫力」ということばを耳にしますが、感染に対してはもともと「抵抗力」ということばがありました。 免疫系は多くの細胞たちとサイトカインのバランスの取れたハーモニー状態を指します。ですから、そのバランスが破綻してしまうと、最近しばしば耳にする「サイトカインストーム」(サイトカインの嵐=混乱状態)ということばになるわけです。感染しても無症状という状態は、過剰免疫反応(炎症)にならないようにバランスよく保っている状態です。いいかえますと炎症を抑えている状態ということは、相手と「自己の抵抗力」との間の相対的な関係で決まっているのです。 感染症を理解する前に、微生物と病原微生物はどのようにちがうのでしょうか。 両者にはほとんどちがいはありません。たとえば、腸内には腸内細菌という無数の微生物が棲んでいます。皮膚表面、鼻、耳、気道系、男女の外陰部には常在菌という微生物だらけです。しかし、私たちのからだは免疫反応をおこす生体防御系として、抗原刺激を受けながら成長しています。これらの常在菌も、からだの側の免疫系が弱いと病原微生物化します。つまり両者は相対的なことばなのです。消毒法や殺菌法が開発されたきっかけは、常在菌対策だったのです。また19世紀半ばまで産じょく熱で多くの妊産婦が病院の分娩室で亡くなったのも、多くは常在菌感染だったのです。非生物であるウィルス感染についてはすでに述べてきました。 現代の感染症について、いくつかに分類してみます。 1. 普通の生活をしている時に起こる感染: 気道感染:飛沫感染(COVID-19)、空気感染(インフルエンザウィルス、風邪症候群) 経口感染:古くなった生ものの摂取 経皮的感染(蚊による感染=デング熱) 2. 医療施設内感染: 手術場の紫外線照射(DNA、RNA破壊)による滅菌、消毒不完全消毒による感染 医療従事者の針刺し事故感染 3. 性行為感染(HIV=エイズウィルス、単純ヘルペス、クラミジア) 4. 母児間感染(B型肝炎ウィルス) 感染原因がわかれば、多くの防衛対策は打つことができます。 今日の日常では、COVID-19以外に対して人類はいくつもの対策を持っています。しかし残念ながらCOVID-19に対してワクチンは開発途上であり、劇的に効果のある抗ウィルス剤も開発できていません。 細菌感染に対しては、すでに述べてきました抗生物質が革命的な効果を示してきました。様々なウィルスに対しては、種痘をはじめとするワクチンと抗ウィルス薬が開発されています。HIVウィルスに対する治療薬も多彩になり、その展開は目を見張るばかりです。抗肝炎ウィルス薬は現在内服薬であり、隔世の感があります。肝炎ウィルス治療には、20世紀の終わりまでは、様々な注射薬が必要とされていました。しかし、感染症に対しては、基本的には、私達の免疫のケアに行きついてしまいます。 上記の様に、さまざまな病原微生物やウィルスの感染経路はいくつかありますので、それらを重点的に防御すれば、予防できることは間違えありません。ここで、経消化管、経気道感染に対する対策について考えてみたいとおもいます。 口腔、鼻腔が感染の入り口。ここを重点的に抑える必要があります。人びとの間隔を空けるいう発想(ソーシャルディスタンス)は、COVID-19禍以前にはあまり重要視していなかったと記憶しています。発声した飛沫やそれが空気中に漂っていること、室内の空気の排気循環の必要性などに研究が進んできています。劇場やライブハウスでの演奏やパーフォマンスで起こる人間の声を発する飛沫の研究が著しく進んでいる時代です。劇場の最前列からどれくらい間隔を置くかといった問題もあります。感染症の口腔と鼻腔からの侵入対策について考えてみましょう。

1. マスクと「三密避け」

話す声に向き合う鼻と口をおおうマスクは第一の防御対策となるはずです。これはCOVID-19に限りません。インフルエンザウィルス感染にも有効であることは間違いありません。マスクの材質は大変重要です。かつて、わたしは網目の材質の孔の大きさはウィルスの大きさに比べたら、「月とスッポン」だから、マスクの効果は自分の喉を温めたり潤したりするくらいの役割かと過小評価していました。しかし、考えてみますとウィルスはそのものが口腔や気道から飛び出してくるわけではないことに気が付きました。このことはWHOの研究機関が発表したCOVID-19に関する最新の論文で証明されていることに驚きました。ウィルスを含む飛沫の大きさをミクロンメートル単位(1/1000,000m)で測定して、どのように飛沫が飛び散るかを測定、分析したのです。

2. 石鹸手洗い

手洗いは通常、さらっと流水で洗うだけという人が多いとおもいますが、これではほとんど洗ったうちに入りません。親が眼科医であった関係で、小さい頃から石鹸手洗いは大変厳しくしつけられました。小学校の頃、友達が水道水でペラペラなどと洗っていると、胸ぐらつかんで「石鹸を使って洗え」といって怒った記憶が何度もあります。多くの微生物やウィルスは細胞膜や表面の被膜部に脂質を含んでいます。石鹸手洗いは感染対象を破壊するでしょうが、100%ではないでしょう。とくに、万全を期すためには、脂溶性である高濃度アルコールによる手洗いは重要な防御対策となります。

3. うがい

喉の奥までのうがいは重要な防御対策です。まず水で何度かうがいをします。最後にイソジンで数回うがいをしてから、最後のうがいは飲み込むことです。喉の奥まで殺菌と粘膜の表面洗いの効果が出ます。 COVID-19の侵入路の第一は嗅覚神経部であるという報告があります。鼻腔の最上部は脳底部の脳から嗅神経が出てきます。その嗅上皮部にウィルスの受容体が発現していることが確認されました。感染初期に嗅覚障害や味覚障害が起こることと一致しています。生理的食塩水で鼻腔洗浄を行っている人々もいるようです。

4. 免疫のケア

免疫系の仕組みの基本は「自己と非自己認識」と「自己は寛容」「非自己は拒絶」という基本現象を感じ取ってみましょう。これらの現象を支える細胞たちの数10億個がバランスよく、調和が取れているのが健康状態であります。生まれつきの免疫系と学習した免疫系がバランスよく調和していることが、どこかで乱れてきたことが免疫反応となります。炎症反応の規模が大きくなると、免疫チェックポイントによって規模が決定されます。これによって炎症反応が収まると、再び元に戻って穏やかな免疫系になります。これらのシステムを調整する旗振り役が単球-マクロアファージ-樹状細胞という自然免疫系集団です。旗振り役がTリンパ球とBリンパ球、NK細胞たちと交流して調和のとれた免疫系をコントロールしているわけです。 COVID-19の研究からいくつかの重要な免疫系の理解が進みました。 1.血中の亜鉛濃度は重症者では低い。亜鉛はカキ、レバー、納豆に多い。 2.女性のTリンパ球は男性よりも強い。女性では炎症性サイトカインが多い。 3.筋肉からの最新のホルモンであるイリシンは感染治療効果がある 4.高齢者男性の細胞障害性Tリンパ球の細胞反応が弱い。 5.ビタミンD摂取と症状改善効果と相関する。 6.小児の多い血中IL-17Aは感染阻止効果がある。 これらのほかにも多数の知見があります。こうした情報は、感染症一般に対する免疫対策として大いに参考となると考えます。 6回にわたり今シリーズを担当させていただきました。皆様方の生活にご参考にしていただけますれば幸いです。

プロフィール
遠藤 雄三(えんどう ゆうぞう)氏

浜松医科大学(第一病理)

遠藤 雄三(えんどう ゆうぞう)

昭和44年(1969年)東京大学医学部卒。虎の門病院免疫部長、病理、細菌検査部長兼任後退職。カナダ・マクマスター大学健康科学部病理・分子医学部門客員教授となる。現在、浜松医科大学第一病理非常勤講師、宮崎県都城市医療法人八日会病理顧問、看護学校顧問。免疫学・病理学・分子医学の立場からがん・炎症の研究を進め、現在に至る。

<主な研究課題> 生活習慣病予防にかかわる食物、サプリメント、生活習慣病と公衆衛生、IgA腎症と粘膜免疫とのかかわり、人体病理学、臨床免疫学、実験病理学

バックナンバー

感染症と免疫シリーズ

・掲載6 感染症予防には手洗い、うがい、そして免疫をケアしよう

・掲載5 細菌感染と抗生物質:抗ウィルス薬は細菌には効かない

・掲載4 ウィルス感染症の治療と予防:抗ウィルス薬、血清療法、免疫

・掲載3 風邪、天然痘とSARS、MERSそして変異型コロナウィルス

・掲載2 花粉か、細菌か、ウィルスか、自己とのちがいとは?

・掲載1 ウィルス感染と免疫システム

病理専門医からみた健康戦略シリーズ[2]

・掲載22 自己とは?非自己とは?(22)過敏性腸症候群/食物アレルギー

・掲載21 自己とは?非自己とは?(21) 大腸と腸内細菌

・掲載20 自己とは?非自己とは?(20) Bリンパ球/IgA

・掲載19 自己とは?非自己とは?(19) パイエル板

・掲載18 自己とは?非自己とは?(18) 消化管の蠕動(ぜんどう)運動

・掲載17 自己とは?非自己とは?(17)粘膜免疫

・掲載16 自己とは?非自己とは?(16)腸管免疫

・掲載15 自己とは?非自己とは?(15)免疫と消化管

・掲載14 自己とは?非自己とは?(14)ウィルスと自己

・掲載13 自己とは?非自己とは?(13)妊娠とABO式血液型不適合

・掲載12 自己とは?非自己とは?(12)移植

・掲載11 自己とは?非自己とは?(11)輸血と免疫

・掲載10 自己とは?非自己とは?(10)Ⅲ型アレルギー/自己免疫疾患

・掲載9 自己とは?非自己とは?(9)Ⅱ型アレルギー/血液型

・掲載8 自己とは?非自己とは?(8)抗生物質の発見/一型アレルギー/免疫グロブリン

・掲載7 自己とは?非自己とは?(7)外部からの非自己②

・掲載6 自己とは?非自己とは?(6)外部からの非自己①

・掲載5 自己とは?非自己とは?(5)急性炎症:日焼けと免疫反応

・掲載4 自己とは?非自己とは?(4)炎症

・掲載3 自己とは?非自己とは?(3)アレルギー

・掲載2 自己とは?非自己とは?(2)自己の確立②

・掲載1 自己とは?非自己とは?(1)自己の確立①

病理専門医からみた健康戦略シリーズ[1]

・掲載6 からだの防御システム(6)特異的免疫細胞たち:リンパ球

・掲載5 からだの防御システム(5)免疫細胞たち:白血球

・掲載4 からだの防御システム(4)免疫ホメオスタシス/感染症と炎症

・掲載3 からだの防御システム(3)「食-医同源」

・掲載2 からだの防御システム(2)新型インフルエンザウィルス

・掲載1 からだの防御システム(1)はじめに:「病気」、「病態」そして「病 名」

病理医からみた一人ひとりのがん戦略

・掲載21 頭頚部がん(2)

・掲載20 頭頚部がん(1)

・掲載19 多発性骨髄腫(3)

・掲載18 多発性骨髄腫(2)

・掲載17 多発性骨髄腫(1)

・掲載16 おとなの進行がんの治療戦略(2)

・掲載15 おとなの進行がんの治療戦略(1)

・掲載14 子宮がん(2)子宮内膜がん

・掲載13 子宮がん(1)

・掲載12 肝細胞がんに対する予防戦略 3)ウイルス排除と抗炎症対策

・掲載11 肝細胞がんに対する予防戦略 2)肝硬変と慢性炎症

・掲載10 肝細胞がんに対する予防戦略 1)肝細胞がんのおこり方

・掲載9 前立腺がんに対する戦略

・掲載8 乳がんに対する戦略

・掲載7 肺がんの予防戦略

・掲載6 環境要因による胃がん予防

・掲載5 大腸がんに対する防衛戦略

・掲載4 生活習慣病としてのおとなのがん

・掲載3 抗生物質から抗がん剤開発へ

・掲載2 現代医学と病理学

・掲載1 はじめに

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