年を取り、筋力や認知機能が低下すると、外に出たり人とコミュニケーションを取ったりすることが億劫になり、社会との結びつきが少なくなりがちです。「若いころと比べて、外出の機会が減った」「美味しいものを食べたいと思わなくなった」「周りから、活動的ではないと言われるようになった」――こんな症状がみられる方は、要注意。心身の活力が著しく低下した状態、いわゆるフレイルの初期症状の疑いがあります。
今回は2022年12月8日に開催された認知症・フレイル予防セミナー「化粧とオシャレで脳を元気に―注目される化粧療法を採用 スキンケアとメイクで高齢者の社会参加促進へ」より、東京大学大学院の酒谷薫特任教授の講演内容をご紹介します。
フレイルの三大要因とは?
フレイルには、「身体的フレイル」「社会的フレイル」「心理的フレイル」の3つのパターンがあります。「身体的フレイル」は、ロコモティブシンドローム(運動機能の低下)やサルコペニア(筋肉量の減少)など身体的な衰えをさし、「心理的フレイル」は、うつや認知機能の低下など精神的な症状からくる衰えをさします。一般的にフレイルというと、この2つのフレイルが良く知られています。
一方で、「社会的フレイル」というのは、あまり知られていません。「社会的フレイル」とは、身体的フレイルと心理的フレイルが組み合わさることで、人付き合いが億劫になり、独居、孤食など社会とのつながりが低下してしまう状態をさします。3つのフレイルは、それぞれが歯車のようにかみ合っており、最終的には認知症をはじめとする様々な疾患の発症へとつながっていくのです。
社会性フレイル対策に「化粧療法」
社会的フレイルの予防として、今注目されているのが「化粧療法」です。ただの化粧だと侮ることなかれ。化粧をすることは、気分を明るくし、外出する意欲を高揚させることが多くの研究者によって解明されており、公園を散歩したり、人と交流したりするきっかけになるのです。また、化粧をするという行為自体も、手や指、腕を使いますので、筋力の維持にもつながります。さらに、人に見られることを意識するようになり、心の満足感や高揚感が生まれます。化粧療法は「社会的フレイル」に加えて、「身体的フレイル」と「心理的フレイル」を予防することもできるのです。
実際に化粧療法を行なった高齢者で、うつや認知症の症状を改善したという臨床結果も報告されています。軽度のうつ症状を持つ6名の方に、3か月間の化粧療法を施した臨床試験では、6名中5人のうつ症状尺度(SDS)が改善しました。MMSEと呼ばれる認知機能テストにおいては、3名の方にスコアの改善が見られました。
写真は、要介護状態の女性に化粧療法を行なったものです。彼女は外に出ることが少なくなり、表情が硬くなりがちでした。施術前は自分に自信が持てず、化粧をすることにも後ろ向きでしたが、化粧療法後には表情が柔らかくなり、考え方もポジティブになったという事です。
化粧療法の優れた点は、難しい技術や特別な道具がいらないところです。タンスの奥に眠ってしまった化粧箱を取り出して、自分のペースで構いませんので、スキンケアやメイクアップを楽しんでみてください。毎日の生活に負担にならない範囲で、楽しく継続することが大切です。