フレイル (虚弱) とは年を取って、筋力や聴力、視力などの身体機能、認知機能に低下が見られる状態を指します。2014年に日本老年医学会で提唱された比較的、新しい言葉です。健康な状態と要介護状態のちょうど中間に位置しており、フレイルを予防することで疾患や要介護状態を防げることが分かってきました。7月に東京都健康長寿医療センターが開催した第161回老年学・老年医学公開講座「健康長寿の秘訣!フレイル予防を学びましょう!」より、本川佳子研究員の講演を全3回に分けて、ご紹介します。
高齢世代の栄養状態の現状
日本は、他の先進諸国に類を見ないスピードで超高齢社会に突入しています。健康であることを示す「健康寿命」と「平均寿命」との間には、大きな差が生まれており、女性は約12年、男性は約8年の差があると言われています。健康寿命の延伸に取り組むことは、日本にとって喫緊の課題だと言えます。
高齢者のフレイル症状は、健康な状態からプレフレイルを経て、本格的なフレイルへと段階的に進行していきます。疾病、活動的ではない生活習慣、口腔機能の低下などに加えて、低栄養状態がフレイルの加速要因になります。こうした要因に注意しながら、より早い段階でくさびを打つことができれば、フレイルから要介護へと至る下り坂をより緩やかにすること、またはその距離を長くすることが可能となるのです。
令和元年度に実施された「国民健康・栄養調査」の結果を見ると、BMI範囲未満 (BMIが痩せ・低栄養傾向ににある人) の割合は、65歳以上が27.3%、75歳以上が34.4%、80歳以上では36.7%となっています。年齢が上がるにつれて、低栄養の傾向が強くなっていることが分かります。高齢者の低栄養状態を対岸の火事ではなく、身近に存在しているものと捉えることが重要です。低栄養状態になると傷が治りにくくなったりするだけでなく、合併症を発症しやすくなったり、死亡率の増加に直結することが、様々な研究で明らかになっています。フレイル予防を見すえ、より早い段階で食事・栄養への取り組みを行うことが必要となってきます。
フレイル予防を基軸にした栄養ケアとは?
食事栄養への取組みでは、1日あたりのエネルギー摂取量を考えることが非常に重要となります。エネルギー摂取量が低いとフレイルを発症するリスクが跳ね上がります。たとえば体重1 kg当たりのエネルギー摂取量が21 kcal未満になると、フレイルリスクは1.24倍になると言われており、高齢女性においては、25 kcal未満になると、死亡リスクが3.3倍に跳ね上がることが分かっています。高齢者は1日のエネルギー摂取量が、ご自身の体重1 kgあたり30 kcalを下回らないことを意識することが必要です。BMIの標準範囲を維持するという観点で言えば、1日の食事で65~74歳の人は男性2400 kcal、女性1850 kcal、75歳以上の方は、男性2100 kcal、女性1650 kcalが推奨されます。
また、エネルギーに次いで、たんぱく質の摂取量もフレイル予防には重要です。高齢者は若者と比べて、同じ量のたんぱく質をとっても、体内で合成される量が少なくなります。これは、蛋白同化抵抗性と呼ばれています。フレイルの方に高たんぱく食を食べさせたら、症状が改善したという研究成果も報告されています。
日本人の食事摂取基準2022年版では、65歳以上の高齢者こそ、特にたんぱく質を取らなければならないことが定められています。例えば、同じ1800 kcalの食品を摂取したとしても、高齢者は若い方よりも10 gくらい多くのたんぱく質を摂らなければ、同様のたんぱく質を体内で作り出すことはできません。ですので、食品で言えば納豆のパック半分、マグロの赤身のお刺身3枚くらいを目安に意識してたんぱく質を摂るようにしましょう。
また、たんぱく質をとるタイミングも重要です。朝昼晩1日3食の中で、毎食均等にたんぱく質を摂っている人は、不均等に摂っている人に比べて、効率よく筋肉が合成されることが分かっています。私達は、ついつい朝はパンだけ、昼は麺だけ、そして夜、魚とか肉とかをたっぷり食べるという偏った食生活をしてしまいがちです。特に高齢者は、肉類を食べることが少なくなり、たんぱく質が不足しがちになります。ぜひご自身の食生活を振り返ってみて、毎食しっかりとたんぱく質を摂ることを意識してみてください。