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2023.02.20

腸活とウェルビーイング①

健康豆知識2023年2-1世界中で猛威を振るっている新型コロナウイルスから身を守るため、健康食品やサプリメントを利用する方も少なくありません。特に「腸活」は、健康寿命を延ばす「ウェルビーイング」を実現するカギと言われ、腸内フローラを整えることは、単純な整腸効果だけでなく、全身の免疫力や筋肉量、脳機能などにも良い影響を与えることが分かってきました。今回は、昨年11月に実施された朝日新聞Reライフプロジェクト主催オンラインセミナー「ウェルビーイングのための腸活」より、京都府立医科大学大学院 生体免疫栄養学講座の内藤裕二教授の講演を全2回に分けて紹介します。

日本はウェルビーイング後進国?

私達の腸内には、約1000種100兆個にも及ぶ腸内細菌が存在しています。腸内細菌は、腸内フローラ(花畑)と呼ばれる細菌叢を形成しており、単純なお通じだけでなく、免疫力や認知機能をはじめとする全身の健康状態にも大きく関係しています。そんな腸内フローラを正常に保つことは、私達の「ウェルビーイング」にも非常に有益です。ウェルビーイングという言葉は、あまり聞き馴染みがないかもしれません。直訳すると、幸福や健康という意味に近いですが、日本語にそのまま訳すのは少し難しいので、私達はウェルビーイングというカタカナで呼んでいます。WELLという言葉には、満足に、十分に、健康に、という意味があります。一方、Beingとは、存在そのものであり、本質、人生を指します。世界保健機関WHOの憲章において、健康とは、単に病気ではない、弱ってはいないというだけでなく、肉体的にも精神的にも、そして社会的にも全てが満たされた状態とされており、ウェルビーイングもこれとほぼ同義と考えてよいでしょう。

世界ではこの「ウェルビーイング」を基準に健康を考えることが一般的になっています。そんな中、日本のウェルビーイングは決して高い水準になく、アメリカやオーストラリア、北欧諸国などと比べるとかなり低く、ロシアやウクライナなど紛争地域とほぼ同程度とも言われています。国連が150以上の国や地域を対象とし、社会的支援(家族や友人の存在)、人生の選択自由度、政治の汚職・腐敗度、社会の寛容度(寄付)、GDP、健康寿命などを総合的に評価した「世界幸福度ランキング」では、日本は56位(2021年時点、最新調査では54位)でした。高度な医療が提供されているにも関わらず、あまり高い順位とは言えず、先進諸国の中では最低の数字となっています。ウェルビーイングは単純なフィジカル(身体の健康)だけでなく、コミュニティ、デジタル、キャリアなど様々な要素を総合的に捉える必要があるのです。

内閣府高齢社会白書グラフ

出典:内閣府 令和4年版高齢社会白書

日本人の平均寿命は、女性87.57歳(世界1位)、男性81.47歳(世界3位)です。残念ながら2022年は、新型コロナウイルスなどが影響し、男女ともに0.17歳、寿命が短くなりましたが、世界一の長寿国の座をキープしています。日本人が長寿になった理由はどこにあるのでしょうか?日本では、昔から健康な食品が摂取されていたわけでも、健康的な食文化が伝統的に根付いていたわけでもありません。明治時代以前は男女ともに平均寿命は50歳程度と言われており、非常に短命な国だったわけです。長寿の要因の1つは、医療の進歩ですが、それは日本に限った話ではありません。日本人が長寿化した理由は、実は栄養学の進歩が大きいのです。栄養学を基本とした栄養・食生活が改善されたことにより、様々なビタミンの欠乏が防がれ、メタボリックシンドロームが予防され、私達は世界一の長寿国になったのです。

ただし、健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間、いわゆる健康寿命に目を向けると、この20年間男性は約8.7年、女性は約12.1年と横ばい。平均寿命は延びているにも関わらず、健康寿命には殆ど変化がありません。これは、非常に大変な問題と言えます。日本という国に生まれると、人生の最後の10年余りを不健康な状態で送って死を迎えるという状況が続いているわけですから。ピンピンコロリとまではいかなくとも、平均寿命と健康寿命の差を今の半分くらいまで縮めることが必要といえるでしょう。

フレイルの入り口は、体重と握力の低下

ウェルビーイングを目標とする健康長寿戦略については、世界中で研究が進められています。最新の研究では、筋肉の衰え(サルコペニア)、運動器の衰え・歩行困難(ロコモ)を発症することで、心身が衰えてしまった状態、いわゆるフレイルが要介護になる最も大きな原因であることが分かってきました。勿論、脳血管疾患や心疾患で要介護状態になる人もいるのですが、全体の約52%はフレイルが要因で介護が必要になると言われています。

フレイル発症のパターンは、男女で少し異なります。男性の場合は、70歳手前で急激にフレイルが進行する型、70代中盤から90代にかけておだやかに生活自立度が低下していく型があり、約1割はフレイルに陥らず生涯元気に過ごす方もいます。一方、女性の場合は、70代中盤から徐々にフレイルとなる型が約9割を占めており、急激にフレイルが進行するケースはあまりありません。また男性と異なり、生涯フレイルを発症しない方は、ほぼいないことも分かっています。65歳以上の日本人男女4341人を対象とした調査では、フレイルと診断された方の約2割は、そのまま寝たきりになってしまうことが分かっています。つまり、フレイルの前段階(プレフレイル)や元気な状態の時にフレイル症状を早期発見することができれば、寝たきりのリスクを大きく抑えることができるのです。自分自身は元気で健康だと思っていても、もしかしてフレイルではないかと疑い、早期発見から適切な取組みを行うことが重要です。
健康豆知識2023年2-2
特にチェックするべきは、体重と握力です。たとえば半年間で、特に何の病気もしていないのに2~3 kg以上体重が減少した方、握力が男性26 kg以下、女性16 kg以下になっている方は要注意。フレイルの疑いがあるので、食生活や生活習慣を見直す必要があるでしょう。また、疲労感が抜けない(訳もなく疲れた感じがする)、歩行速度が遅い(お友達と散歩していてついていけない)、運動の習慣がない等に当てはまる方もフレイルを疑った方が良いでしょう。

周囲とのコミュニケーションを大切に

ウェルビーイングとは、病気ではない、弱ってはいないという身体の状態だけでなく、肉体的にも精神的にも、そして社会的にも全てが満たされた状態を指します。ですので、周囲とのコミュニケーションを取ることも極めて大切です。家族と一緒にご飯を食べること、仲間と会話を楽しむことも勿論良いのですが、できれば自分の畑で取れた作物を隣の家に持っていくなど、社会としてコミュニケーションが成立していると尚良いです。地域の皆さんで助け合ってコミュニティを作っていくことは、一人の健康だけでなく、社会全体の健康長寿を考えた時に、非常に大切なこと。こうした健康セミナーなどで知った情報を、ご自身だけで実践するのではなく、周りの人にも伝えてみてください。社会全体の取り組みとしてウェルビーイングを考えることが、一人一人のウェルビーイングの実現へとつながっていくのです。

最後に1つ興味深い調査結果をご紹介します。昨年、東京都文京区在住の高齢者1615名を対象に、認知症の発症には、肥満(BMI 25 ㎏/m2以上)とサルコペニア(握力低下)のどちらが大きく影響するのかが検証されました。調査の結果、健常者と肥満の方は認知症との関連性が見られない一方で、サルコペニアが認知症の発症に大きな影響を与えていることが確認されました。また、見た目は太っているのに筋肉量が少ない「サルコペニア肥満」の方は、認知症の発症リスクが健常者の6倍以上に高まることが分かっています。この結果を見ると、ウェルビーイングを考える上では、肥満を対策するのではなく、筋肉を標的としたサルコペニア対策の方が圧倒的に重要であると考えられます。健康豆知識2023年2-3

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