前回に引き続き、7月22日に開催されたウェビナー「エイジングケアとサプリメントの現状」(主催:健康産業新聞)より、医療法人財団百葉の会銀座医院院長補佐・抗加齢センター長の久保明氏の講演をご紹介します。老化を正しく理解するには、糖化と酸化、炎症の関係性を考えることが重要です。今回は、ビタミンやカロテノイドなど、糖化や酸化を防ぐために有効な栄養素について紹介するとともに、臨床研究に基づくより実践的なエイジングマネジメントの方法をお伝えします。
野菜や果物に含まれる老化を防ぐ成分
ビタミンやカロテノイド等の栄養成分と老化の関係性を紐解いてみましょう。まず骨の形成に係るビタミンD。このビタミンは、カルシウムの代謝という非常に重要な役割を持つのですが、男女ともに不足しており、日本人の9割以上が不足気味、約半数はビタミンD欠乏に陥っていると言われています。またビタミンDは、カルシウム代謝以外にも多面的な機能を持っており、免疫、ホルモン分泌、脳機能改善、皮膚や筋肉の状況改善などにも効果を発揮することが分かってきました。米国の糖尿病ガイドラインには今年、糖尿病予防に対するビタミンDの有効性が明記されました。臨床レベルでの効果の検証については、まだまだ十分ではない部分もありますが、非常に興味深い研究成果だと思います。さらに、新型コロナの感染率、死亡率と血中のビタミンD濃度は逆相関の関係にあるという報告もあり、ビタミンDの新型コロナへの有効性も示唆されています。ただし、このようなデータが即「ビタミンD = 新型コロナ感染を防ぐ」というわけではない点には注意しなければなりません。
その他の成分に目を向けますと、野菜や果物には、βカロテンやルテインといったカロテノイドと呼ばれる栄養素も豊富に含まれています。カロテノイドは、エイジングマネジメントの観点からも非常に重要な要素となります。例えば、ブルーベリーやカシスなどに含まれ、眼に良い成分として知られるルテイン。ルテインを含むアイケアサプリや健康食品は、数多く発売されており、加齢とともに視力が落ちる方は非常に多いので、エイジングマネジメントの分野でも注目の成分です。ルテインには、視力だけではなく、脳機能の改善傾向、抗炎症効果、大腸がん・乳がんの抑制などの有効性も明らかとなっています。
トマトやパプリカなどに含まれるβカロテンやビタミンCは、赤血球中のヘモグロビンが糖と結合している割合 (HbA1c) が大きい人ほど不足している傾向にあります。これは、体内の糖化が進むと、βカロテンとビタミンCが不足し、酸化ストレスが大きくなることを表しています。また、血中のβカロテン濃度が高い人は、心筋梗塞などの心血管疾患の発症、死亡率が低いという研究結果も報告されています。老化には、細胞内の糖化、酸化ストレスが大きく関係している為、βカロテンやビタミンCをサプリメントとして外部から補ってあげることは非常に有効と考えられます。
細胞内ミトコンドリアと老化の関係性
エイジングマネジメントを考える上で、細胞内のミトコンドリアが非常に重要になってきます。ミトコンドリアとは、1つの細胞に100~2000個ほど含まれている細胞内小器官のひとつで、エネルギー源となるATPの生成や細胞死 (アポトーシス) といった細胞の活動に関与しています。アルツハイマー病、腎臓病、脂肪肝などの発症には、ミトコンドリアの機能、形態が大きく影響していることが分かっています。エイジングケア研究の分野では、一時代前からこのミトコンドリアが「ビタミンの起源」として注目されてきました。体内に取り込まれた栄養素をいかにミトコンドリアまで届けるかという部分は、長らくこの分野の主たる研究テーマの1つです。例えば、ミトコンドリア機能に必要な要素として、ビタミンB1、B2、コエンザイム、αリポ酸、カルニチン、ナイアシン、タウリンなどが言われています。難しいところは、ミトコンドリア活性の指標をどのように定めるかという点について、様々な研究者の意見があり、いまだに統一的な基準がないということです。自分自身のミトコンドリア機能がどの程度、老化しているのかを臨床的に正確にとらえることは、まだまだ難しいというのが現状です。
最近は、ミトコンドリアを活性化する因子として、サーチュインと呼ばれる遺伝子が注目を集めています。サーチュイン遺伝子を活性化させるNMN (ニコチンアミドモノヌクレオチド) という成分があり、このNMNが生体内でNADと呼ばれる成分に変換されることで、ミトコンドリアを活性化させるという研究論文が出されています。米国や中国では、このNMN配合サプリが数多く発売されており、日本でも徐々に製品が見られるようになってきました。ただ、やはりミトコンドリア活性に関しては、臨床的に何を指標として、何を確立していくのかという点は、現在進行形です。NMNについても冷静な視点で、ブームとエビデンスを分けて考えることが必要だと思います。
抗酸化成分グルタチオンに期待
米国医学誌「Medical Clinics of North America」に今年掲載された栄養ガイドラインでは、コロナの予防、治療、回復への効果が期待される物質として、ビタミンD、亜鉛、ビタミンCと共に、新たにグルタチオンという成分が掲載されました。グルタチオンは、グルタミン酸、システイン、グリシンという非常にシンプルなアミノ酸で構成されています。体内の局在においては、肝臓、腎臓に多く存在し、加齢により減少すると言われ、酸化ストレスのコントロールという事では、非常に古くから注目されていました。肌の美容においては、ビタミンCとペアになって、コラーゲン産生に関与したり、褐色・黒色メラニン (ユーメラニン) の合成を阻害したりする働きがあります。また、脂肪肝患者の肝機能検査値の改善や、インスリン感受性の改善に関する論文が発表されているほか、コロナ重症者の体内でグルタチオンが大きく減少していることを報告した海外の研究もあります。
超高齢社会の日本では、がん、血管障害、生活習慣病、認知症、フレイル、ホルモン障害、免疫、感染症、腸内環境、メンタルコンディションなど様々な課題があります。これらを効率的にコントロールしていく上で、もちろん薬が重要な手段となりますが、1歩2歩手前の予防的な段階では、上手にサプリメントを使うことも有効な選択肢だと考えられます。
60歳代のエイジングマネジメントが、健康寿命、70~80代の健康の質を決めると言われています。各年代にあった、自身が望む生き方を維持できるかどうかということは、非常に重要なことです。未だにサプリメントにはエビデンスがないという人もいますが、これは大きな間違いです。臨床に基づく栄養素の解析は日々進展しており、エイジングマネジメントにおいてサプリメントは非常に有効な手段となります。サプリメントの摂取をきっかけに生活習慣を見直してみるなど、自分自身の人生設計の改良に活かしてほしいと思っています。