まえおき

 はじめに、皆様にとって聞きなれない「病理専門医」について説明させてください。「顕微鏡」を武器とする医師とお考え下さい。
 一方、臨床医のことを「聴診器」を武器とする医師というとわかり易いのではないでしょうか。お笑い芸人の「ケーシー高峰」はかって額帯反射鏡をつけて舞台に上がっていましたが。

 病理専門医は日本病理学会から認定された医師で、患者さんのからだの一部から病気の最終診断をする責任の重い仕事です。臨床各科の医師とのチームワークがなければ成り立たない仕事でもあります。

 また、不幸にしてお亡くなりなられた患者さんの死因を究明する病理解剖の最終診断に従事しなければなりません。最近のテレビ番組で注目されました「ボイス」Voiceは法医学にかかわる青春ドラマでした。「死人に口なし」であってはならないというテーマでした。

 筆者の場合は都内の一総合病院で約30年近く病理医、臨床免疫医として現場におりました。700例以上の病理解剖診断を担当しました。
 病院内での死因検討会では、時に臨床医と大激論となりました。病理専門医は中立的であるべきですが、多くの場合患者さんの側に立つような姿勢であったように記憶しています。この間に、がんによる死因は約70%を占めていました。

 多くの場合の直接死因はがん死ではなく、呼吸器あるいは全身の重篤な感染症でした。生体防御が極度に低下した状態の原因の多くは、治療のために投与された抗がん剤であり、感染症の治療に用いたはずの抗生物質に伴う様々な副作用でした。

 こうした病態は、いったん転がりだした下り坂と同じような悪循環となることです。つまり、からだには十重二十重の防御システムが備わっているわけで、そのしくみをひも解くと健康維持のヒントが得られるはずです。

 今回は平成21年度開始を機に「からだの防御システム」について一緒に考えていきたいと思います。このゴールは炎症と免疫について理解することで、健康戦略をみなさまと共に勝ちとりたいわけです。

「病気」、「病態」そして「病名」

 前回シリーズのテーマは、おとなのがん対策について「病理医からみた一人ひとりのがん戦略」でした。「一人ひとり」と、くどく付け加えましたのは、病気や病態は一人一人異なる生理学的なズレだからです。

 とくにがんはDNA異常の積み重ねの遺伝子異常から起こる個々人の病気です。がんは細胞単位の病気であり、話の焦点をしぼることができました。読者のみなさまも、内容は比較的わかりやすく感じられたことと思います。

 ところが、がんについて別な角度から観ますと、大変込み入ったことになります。がんはどうして他人(非自己)には決してうつる(伝染)ことがないのでしょう。これは当たり前のことのようですが、生物の免疫現象として大変重要なことです。つまり自己と非自己の関係であり、これが生命現象の根幹ともいえるものです。

 がんとは異なり、感染症や狂牛病のような”伝播病”は異物が個体に入ってくるという点で「外からの病い」です。これら以外のすべての病気や病態は、自分のからだの側に原因があるといっても過言ではありません。そして自分のからだに結果が起こるという「自業自得」にほかならないのです。そこでヒトにかかわる「病い」についてまとめますと、「外からの病い」と「内なる病い」といえましょう。

 この「健康戦略シリーズ」ではこの二つのキーワードがたびたび登場しますので、是非あたまの片隅に置きながらお聞きください。そして、これを土台にして生理学、病理学、免疫学の根幹の部分を感じ取っていただきたく願っています。つまり「ガッテン」していただきましょう。

 これからお話しする炎症反応と免疫反応は、がんよりさらに個々人の生理学的な現象とそのズレです。ですから、より個性的な「内なる病い」といえます。いいかえますと、両者は生命現象そのものといえるものであり、自然治癒力ということばにもつながることであります。

 そこで病気と病態の一般論として以下の五点をみなさんにご確認いただきながら、今回のシリーズをはじめたいと思います。

 1. がんは細胞単位の真の”病気”であり、DNA異常、遺伝子異常にもとづく
   「内なる病い」です。

 2. 炎症は組織単位ならびにからだ全体の防御反応です。そのままでは病気
   ではなく、病態です。

 3. 免疫現象は生体防御反応の主力部隊(自然治癒力)です。免疫反応は
   生理学的反応です。

 4. 異常な免疫現象(低下あるいは過剰)はさまざまな形のアレルギーという
   ”病態”です。

 5. 花粉症などの一般的に知られている”アレルギー”とはその中のひとつの
   即時型アレルギー(I型アレルギー)という防御反応の過剰病態です。
   これは真の”病気”ではなく、基本的には免疫バランス異常という”病態”
   です。

 ここで留意していただきたいことは、いわゆる”病名”と”病気”は同じではないということです。
 これらの見方は今日の一般的常識と多少くいちがっていると思われますので、このシリーズを通じてご自身のお考えとのズレに気づいてください。

 免疫バランスの乱れは、”病気“といえない”病態”です。病態の改善には、リスクのあるクスリに頼 らず、食べ物や生活習慣を吟味し、サプリメントで調整することこそ選ぶべき道と考えます。私は このような考え方を医食同源から発展させて「食-医同源」と呼んでいます。

 とくに米ヌカ由来の多糖類アラビノキシランの意義が近年注目されている点は、抗炎症作用、抗アレルギー作用、免疫調 整作用、抗酸化作用の証拠が報告されていることです。これらの作用が健康戦略にとってもかけが いのない情報であることに触れることも、このシリーズの目的でもあります。

◆プロフィール 遠藤雄三(えんどう ゆうぞう)

昭和44年(1969年)東京大学医学部卒。虎の門病院免疫部長、病理、細菌検査部長兼任後退職。カナダ・マクマスター大学健康科学部病理・分子医学部門客員教授となる。現在、浜松医科大学第一病理非常勤講師、宮崎県都城市医療法人八日会病理顧問、看護学校顧問。免疫学・病理学・分子医学の立場からがん・炎症の研究を進め、現在に至る。

<主な研究課題> 生活習慣病予防にかかわる食物、サプリメント、生活習慣病と公衆衛生、IgA腎症と粘膜免疫とのかかわり、人体病理学、臨床免疫学、実験病理学




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