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2018年9月号記事 vol.172

高齢者の転倒予防に「太極拳」が有効?

WHR 201810転倒や骨折は高齢者に身体障害をもたらす主要な原因となっています。米国では、年間に高齢者の約28%が転倒を経験し、5件のうち2件は救急受診や入院を要し、最悪の場合には死亡に至るとされています。また、65歳以上で転倒すると自立した生活が送れなくなったり、早期死亡や医療費の増大と有意に関連することが知られています。

米国予防医療作業部会(USPSTF)は2017年9月26日、これらの予防策に関する勧告の草案を発表し、高齢者の転倒予防のための対策として運動を推奨しました。

高齢者の転倒予防に関する勧告案では「転倒リスクが高い高齢者に中等度のベネフィットがある」として運動を推奨しました。勧告案の執筆者の一人で米バージニア・コモンウェルス大学准教授のAlexander Krist氏は「専門家の指導の下で行うバランス能力や歩行能力などを向上させる運動は役に立つだろう」と話しています。

太極拳の効果

それでは、具体的にどのような運動が効果的なのでしょうか?高齢者の転倒予防には、筋力トレーニングやエアロビクスよりも太極拳の方が優れている可能性があることが、約600人の高齢者を対象に行ったランダム化比較試験で明らかになりました。詳細は「JAMA Internal Medicine」2018年9月10日オンライン版に掲載されました。

太極拳は古代から伝わる中国武術の一種で、一定のリズムでバランスを取りながら一連のポーズを流れるように行います。論文著者の一人で米ウィラメット大学運動・健康科学科教授のPeter Harmer氏によると、太極拳による転倒リスクの低減効果については、長年検討されてきたということです。今回は、米オレゴン州に在住し、転倒の既往があるなど転倒リスクが高い70歳以上の高齢者670人を対象に、太極拳プログラムを行う群、または筋力トレーニングとエアロビクスを組み合わせた従来の運動プログラムを行う群、ストレッチのみを行う対照群の3つの群にランダムに割り付けて比較検討しました。それぞれ60分の運動クラスを週に2回、24週間続けてもらいました。

その結果、6カ月後の転倒の発生率は、ストレッチのみを行う対照群に比べて、太極拳を行った群では58%低かったのに対し、従来の運動プログラムを行った群では40%低いことが分かりました。また、太極拳を行った群では、従来の運動プログラムを行った群に比べて転倒の発生率は31%低いことも明らかになりました。

なぜ太極拳が効果的なのか?

従来の運動プログラムは前後方向の動きが中心なのに対し、太極拳ではあらゆる方向への動きが求められます。論文の共著者で米オレゴン健康科学大学看護学部教授のKerri Winters-Stone氏は「転倒の起こり方はさまざまで予測できない。太極拳では体を重心の外側へ移動させ、また引き戻す動きを行う。そのため、太極拳を経験している人は転びそうになると、その動きに逆らって素早くバランスを取り戻せるのではないか」と説明しています。

転倒予防のために

今回の結果からは、高齢者の転倒予防には太極拳が優れていることが示されました。しかし、理学療法やリハビリテーションを専門とする米メイヨー・クリニックのNathan LeBrasseur氏は「転倒を予防するには従来の運動でも十分に有効であるため、筋肉トレーニングやエアロビクスを行っている人はぜひ続けてほしい」と話しています。Harmer氏は、転倒した経験のある人は、再び転ぶことを恐れて体を動かさなくなることも、転倒のリスク因子であることが分かっていると指摘します。「今回行った太極拳プログラムは、こうした負のサイクルを断ち切るのに適している」と同氏は話しています。LeBrasseur氏もこの考えに同意し、「高齢者は自分の健康のためには種類は問わず、もっと運動をすべきだ」と述べています。

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