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なぜ認知症になると「におい」がわからなくなるの?

平成30年度科学技術週間参加行事として、内田さえ氏(東京都健康長寿医療センター研究所)が「なぜ認知症になると『におい』が分からなくなるの?」と題して講演しました。今回はこの講演をもとに、においと認知症についてお話します。

 においと記憶

人はいさ 心も知らず ふるさとは 花ぞ昔の 香(か)ににほひける」(紀貫之)は、百人一首にも選ばれている、有名な歌です。また、ある特定の香りから、それにまつわる過去の記憶が呼び覚まされる心理現象を「ブルースト現象」と言いますが、これはフランスの文豪マルセル・ブルーストの代表作『失われた時を求めて』の主人公がマドレーヌと紅茶の香りから少年時代を思い出す、という場面に由来するものです。このように、東西を問わず、昔から人間の「嗅覚」と「記憶」は密接にかかわってきました。

嗅覚と認知症

それでは、認知症とにおいとはどのように関係しているのでしょうか。認知症には、① アミロイドβの蓄積(老人斑)、②神経原線維変化(タウ)、そして③アセチルコリン神経の脱落、などの脳の変化が大きくかかわっていると考えられます。その中でも、嗅覚は③アセチルコリン神経と大きくかかわっています。アセチルコリン神経は前脳基底部のニューロンですが、アルツハイマー病で減少することが明らかになっています。

前脳基底部でアセチルコリン神経が含まれる割合は、認知に関係する「新皮質」では80-90%、記憶に関係する「海馬」では30-45%ですが、嗅覚に関係する「嗅球」ではわずか10-20%となっています。そのため、アセチルコリン神経の減少は最も早く嗅覚系に出現し、アルツハイマー病の早期から嗅覚機能が低下します。嗅覚は風邪、インフルエンザ、鼻腔湾曲など様々な耳鼻科系疾患でも低下するため、第一に耳鼻科の受診が必要ですが、認知症の早期発見の手がかりとなる場合もあると言えるでしょう。

嗅覚トレーニング

加齢とともにアセチルコリン神経は減少してしまいますが、アロマセラピーのような嗅覚を刺激するトレーニングによって改善されることも明らかになっています。動物試験でペパーミントのにおいを嗅がせたところ、海馬と新皮質のアセチルコリンの増加が観察されました。また、ヒトを対象にした試験では、1週間のアロマテラピーによって認知機能が改善されたことも報告されています。

特にどのようなにおいが効果的なのか、という点についてはまだ明らかになっていませんが、これまでの試験ではバラ、レモン、グローブ、ユーカリなどが使用されていたようです。また、昼と夜でにおいを使い分けて、昼はローズマリーやレモンのように活性化するにおい、夜はラベンダーなどの鎮静化するにおいのように使い分けると、嗅覚の刺激だけでなく認知症の様々な周辺症状の改善にも役立つと考えられます。さらに、嗅覚のトレーニングの際は、意識して深く息を吸い込むと、さらに効果的になるでしょう。

食事の際にお料理のにおいを楽しむ、散歩の途中で花の香りを楽しむなど、嗅覚のトレーニングは非常に日常に取り入れやすいものです。においをかいで脳を活性化し、認知症の改善や予防に役立てられるといいですね。