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「美味しさ」は健康と不健康をもたらす

美味しい物を食べると、身体に力が漲るような感じがします。それほど、食品の持つ「美味しさ」というファクターは私達の生活の中で重要な位置を占めています。ただ一方で、それは健康への弊害をもたらしかねません。今回は、この「美味しさ」の持つ2面性についてご紹介します。

「健康に向かう美味しさ」を追求 

食べ物が美味しいと、それだけで力が湧いてくるようです。つまり、健康や活力をもたらすものは、単に食品に含まれる栄養成分だけでなく、食品が持つ「味」、「美味しさ」にもあると考えられます。ただ、この「美味しさ」は、一方で不健康をもたらしかねないという側面も併せ持っています。

2014年7月9日(水)、東京大学で、公益社団法人日本農芸化学会創立90周年記念 第40回農芸化学「化学と生物」シンポジウムが開催されました。この中で、伏木 亨氏(京都大学大学院教授)が「おいしさは究極の食品機能」と題して講演しました。

私たちは、日々生きるために食物を摂っています。しかし、食物が豊富な現代にあっては、それは単に生きるためというより、健康を維持するためのものという認識に変わりつつあります。さらに、「健康」だけでなく、「美味しさ」という要素を求める欲求も強まっています。伏木氏は、こうした社会的変化の中で、「健康に向かう美味しさ」を追求する必要がある、と指摘しています。とはいえ、「健康に向かう」ためには、一般的に食品から糖質・脂質・塩分、そしてカロリーをカットする必要があり、そうなると食品が不味くなる、というジレンマに陥ることになります。

「美味しさ」を感じるのに1秒もかからない 

「美味しさ」を追求しながら、同時に健康にも寄与できる食品を作るには、どうしたらよいか?そのためには「美味しさ」とはどういうものか、その正体を突き止める必要があります。しかしこの「美味しさ」について研究している人は少なく、伏木氏が約25年前に「美味しさの研究をしたい」といった時、周囲は猛反対したそうです。というのも、「美味しさ」には個人差があり、そこには科学がない、という意見が大半を占めていました。「美味しさ」は食品の中には存在しないのか? 「美味しさ」は人間の脳内に現れる脆弱でバーチャルな感覚なのか?「美味しさ」への疑問が次々に浮かびあがりました。しかし、それでも研究をあきらめなかったのは1つのインスピレーションがあったからです。それは「美味しさを感じるのは1秒もかからない、一瞬の感覚だ」ということです。つまり、「美味しさ」というのは、それほど複雑な感覚ではなく、客観的な評価や定量的評価ができるようになるはずだ、という確信でした。

「生理、文化、情報、報酬」が美味しさの判断要素 

私たちが「美味しさ」を判断するのは瞬間的で、脳の神経回路を考慮してもわずか1秒足らずで判断されます。そのことから、おそらく3~4つ程度の要素で「美味しさ」を判断していると推測されますが、その要素とは、「生理、文化、情報、報酬(やみつき、薬理学的)」ではないかと伏木氏は考えました。

例えば「生理」について、これはすべての生物に共通しています。空腹であれば「まずい」と判断することはほとんどありませんが、これは背景に生理的な欲求があるためです。エネルギーが不足すれば身体は糖を欲しがり、それが口に入ると瞬時に「美味しい」と感じます。

「文化」という観点からみると、社会的環境が要素の一つとして挙げられます。例えば戦後は甘い物が美味しいと求められる時代でしたが、今は弱い甘味が求められています。自動販売機で売られる飲料にも甘い飲料は少なく、微糖のコーヒーやお茶が人気です。社会的状況や生活環境等によってエネルギーが不足すると、甘味を求める傾向が見られるようです。

また、「報酬(快楽)」については、様々な問題を伴うと言えるでしょう。人間は他の動物同様に、生命維持のためだけに食事をしていれば太ることはありませんし、病気にもなりにくいといえます。しかし、この快楽という「報酬」を得るために「美味しさ」への欲求が過剰になると、太ったり病気になったりします。この「報酬」を刺激するのが脂肪、砂糖、出汁で、チョコレートやケーキ、牛丼、すき焼き、ラーメンなどが人気食となっています。

こうした「美味しさ」というファクターは健康に寄与する一方で、ともすると健康を害するものにも変貌しかねません。健康のためにはこのようなことを認識しておく必要がありそうです。