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咀嚼で脳を活性化

ここ数年、「脳トレ」が話題になっていますが、咀嚼がその鍵を握っているのではないか、と密かに注目を集めています。以前このコーナーで、咀嚼が健康におよぼす影響について取りあげましたが、今回は咀嚼と脳の活性化の関係についてご紹介いたします。

咀嚼が十分でないと脳の機能が低下する 

2013年11月12日(火)、有楽町朝日ホールで、NPO法人日本咀嚼学会主催の第19回咀嚼と健康ファミリーフォーラム「噛む効用を考える~食・育・医の立場から」が開催されました。この中で、山田 好秋氏(新潟大学 理事・副学長)が「咀嚼と脳」と題して講演しました。

日本咀嚼学会では医学、栄養学、調理学、食品学、介護、看護、教育など様々な分野の専門家が「咀嚼」というキーワードで連携し、歯と全身の健康、咀嚼と老化の関係などそれぞれの立場で研究して情報を共有しています。 

近年、咀嚼が脳の活性化に役立つことが明らかになりつつあります。毎日何気なく行っている咀嚼で脳が活性できるのであれば、こんなに嬉しいことはありません。それでは実際に咀嚼の最中に、脳内ではどのような変化が起きているのでしょうか。脳は1,200~1,500gの神経細胞の塊です。私たちの身体は、脳のおかげで刺激や痛みを感じることができます。脳が働かなければ咀嚼は行われず、美味しさすら感じることができません。山田氏によれば、つまり咀嚼という運動は脳があってこそ可能で、また、咀嚼が十分にできないと脳の機能は低下するという相関関係にあるとのことです。 

咀嚼で脳内の血流が増え、神経活動が活発になる 

お箸でつかんだご飯を口に近づけると、口は自然に開きます。ご飯が口に入ると口は閉じられ、自然に「噛む」という運動が始まります。この動作は一見単純ですが実はとても複雑で、咀嚼をするには脳の指令によって手や腕や目や口といった様々な体の部位が次々に連動して活動しなければいけません。これだけでも「食べる」という行為が脳にさまざまな刺激を与えていることが分かります。実際に咀嚼をすると脳内の血流が増え、神経活動が活発になります。そして、脳の運動野や感覚野、前頭野、小脳などが活性化します。これは、脳内に口と関係した神経が広く分布していて、口を動かすことで脳が刺激されるためです。 

人間だけが持つ知的な領域、前頭前野を活性 

具体的に咀嚼による脳への刺激で、脳のどの部位にどのような変化が起きているのでしょうか。まずは前頭前野の活性です。前頭前野は額のちょうど後ろにある、人間だけが持つ最も知的な領域です。情報の統合、判断、感情、行動、記憶のコントロール、コミュニケーションなど社会生活を営む上で非常に重要な役割を果たしています。前頭前野を刺激する方法には音読や計算がありますが、一番簡単な方法が咀嚼です。うつ病や認知症のような疾患の方は、前頭前野の機能低下が指摘されていますが、咀嚼がその治療に役立つ可能性が大いにあると山田氏は指摘しています。 

脳細胞のサビを防ぎ、元気な脳を作る 

また咀嚼で記憶力の向上も期待できます。全ての情報がまず脳の海馬という部位に送られ、短期記憶として一時的に保存された後、大脳に送られ長期記憶として保存されます。噛むことで味、温度、食感、香り、混入している危険なものなど、さまざまな情報を感知してそれが口から脳に伝わり、海馬を刺激します。

では、逆に噛まないとどうでしょうか。まず海馬の神経細胞死が進みます。実際に、わざと噛み合わせを悪くしたマウスの海馬の神経細胞数を調べたところ、1週間で30%の海馬の神経細胞が消失したことが確認されています。同時に、このマウスは海馬の働きが悪くなったことで、空間認知機能が低下しただけでなく記憶力までも低下したことが分かっています。海馬の活性には、咀嚼以外にも、料理の色合い、盛り合わせ、味、匂い、噛んだ時の歯ごたえ、音など、味覚・視覚・嗅覚・聴覚・触覚といった五感で得た情報の全てが関連します。家族や友人と会話を楽しみながら食事を摂ると、より多くの神経ネットワークが働き、海馬や脳全体が刺激されます。これらのことから、咀嚼は脳の劣化を防ぎ、脳の活性に役立つと考えられます。