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免疫とアレルギー、ジキルとハイド

アトピー疾患に花粉症、昔に比べて多くの人々が発症するようになったといわれています。ストレスや偏った食事に原因があることが指摘されていますが、清潔で文化的な生活が一因になっているとの見方もあります。ともあれ、免疫調整がアレルギー抑制の大きなカギとなりそうです。今回は、アレルギー発症のメカニズムと対処法をご紹介します。

日本で増えるアレルギー疾患

食物アレルギー68.1%、アトピー性皮膚炎66.9%、ぜん息44.1%、アレルギー性鼻炎・結膜炎30.5%–。都内の保育所及び幼稚園で、配慮が必要なアレルギー疾患を持つ児童が在籍している割合です。

2010年3月、東京都は都内の保育所及び幼稚園3,206施設を対象にした調査、『アレルギー疾患に関する児童施設調査』(2009年9月実施)を発表しました。
都がこれまでに実施した3歳児のアレルギー疾患調査では、何らかのアレルギー疾患の診断を受けている児童は約4割といいます。

なぜ日本で、これほどまでにアレルギー罹患が増えているのでしょうか。後述しますが、モンゴルでは、アトピー児はほとんど見受けられないといいます。

また、日本では花粉症に悩む人も年々増えています。国民の2人に1人が花粉症予備軍ともいわれています。
日本気象協会によると、2009年夏の猛暑の影響でスギ・ヒノキの花芽の生育が良いそうです。関東甲信や中国地方では、来春の花粉の飛散が今春の2~10倍になると予測されており、今からうっとうしくなります。

花粉症、職業によっては症状が出にくい

花粉症については、すでに日本人の100%が罹っているとの見方もあります。ところが、職業によっては、花粉症が出にくい人々がいるといいます。
アレルギー症状に悩まされる多くの人々。その一方で、それをほとんど感じることのない人々。どこに違いがあるのでしょうか?

2010年11月27日(土)、東京国際フォーラムで、「健康に役立てよう免疫・アレルギーの知識」をテーマに、「第60回 日本アレルギー学会秋季学術大会」が開催されました。私達はアレルギーにどう対処すればいいのか。今回は、この中からご紹介いたします。

免疫とアレルギーは表裏一体で、まるでジキルとハイドのような関係――。
「馬鹿な免疫と利口な免疫」と題した講演で、奥村康教授(順天堂大学大学院医学研究科)は、免疫とアレルギーの関係をそう例えました。

人は生来、疾患の原因となる特定の抗体(異物)に対して、防御・攻撃するという免疫機能を持っています。この機能が低下すると風邪などさまざまな疾患に罹りやすくなります。

ただ、こうした免疫機能には、ジキルとハイドのような表と裏の顔があり、本来反応しなくてもいい花粉やダニ、あるいは大豆や卵、ソバといった食品まで、有害な異物と勘違いし、過敏に反応するということがあります。こうした免疫の過剰反応により、アレルギー症状が発現します。

清潔にしすぎてアレルギーが発症、衛生仮説

日本では、3歳前後の児童にアレルギー・アトピー発症が多く見られるのに、なぜモンゴルではそうした児童がほとんど見受けられないのか。どうやら、「豊かな日本の生活」が一因にもなっているようです。

奥村氏によると、モンゴルでは入浴する習慣がなく、アトピー患者は見られないといいます。最近では、朝青龍がビジネスを展開するウランバートルでスパなどが流行り、アトピー患者が出始めているとか。清潔にしすぎるのもアレルギー発症という観点からは問題で、石鹸を使わず、使ったとしても表皮をごしごし傷つけて洗う習慣や文化のない国(人)ではアトピーは発症しないといいます。

また、暖房やカーペットはダニの温床となりやすく、アトピー発症の要因とされていますが、日本のように赤ちゃんに頻繁に石鹸を使い、暖房の効いたカーペットの室内で生活しているのは、ことさらにアトピーを増やすようなもの、と奥村氏は指摘しています。

しかし何故、清潔で豊かな生活がアレルギー発症の一因となるのでしょうか?
実は、これについては、1989年にイギリスのストラシャン博士が、清潔にしすぎると人の免疫調整力が低下するのではないかという、「衛生仮説」を提唱しています。博士は、アレルギー体質の児童を対象にした疫学調査から、衛生環境が良くなって感染症は減少したが、そのことがアレルギーの増加と関連している、としています。

リンパ球のT細胞、アレルギー発症に関与

ここで少し、「衛生仮説」に関連した、免疫とアレルギーの関係についてお話します。
免疫機能で中心的な役割を果たすのは血液中の白血球(好中球、リンパ球、マクロファージ、好酸球、好塩基球)です。リンパ球のT細胞(Th1/Th2)のうち、Th2が活性化するとアレルギー症状が発現するとされています。そのため、アレルギーを抑えるには、Th1を優位にする必要があります。

もともと、生まれたばかりの赤ちゃんはTh2が優位になっていますが、2~3歳頃までにさまざまな微生物による過度な刺激を受けることにより、Th1が発達し、Th1優位/Th2抑制の正常な免疫機能へと変わっていきます。そして、成長するにつれ、アレルギーの発症リスクが低下していきます。

そのため、幼少期におけるアレルギー発症は重症でなければ自然に治る、とみる医師も多いようです。つまり、清潔で豊かな生活でもたらされる幼児期のアレルギー発症は、免疫調整のための洗礼のようなものといってもいいかも知れません。

犯罪者は花粉症が出にくい?

花粉症についてはどうでしょうか?
日本国民のほとんどが罹っているといっても過言ではないそうですが、これには精神的なことも関与していると奥村氏はいいます。例えば、執刀中の医師、会期中の国会議員、犯罪者などに花粉症状はほとんど出ないそうです。

花粉症の発症は、アドレナリンの分泌と関係していて、何かに緊張していたり、興奮していたりするとアドレナリの分泌が高まり、症状が出にくい、つまり、性格や職業、環境などにより花粉症の発症が抑えられている、ということです。子供に花粉症が少ないのも、アドレナリンが出やすいためと奥村氏は分析してい ます。

例えば、こういった話もあります。
1994年の年末、気象庁が95年は例年の10倍以上の花粉が発生すると厳重注意報を発し、多くの医療機関や医療関係者が例年の10倍の薬を用意しました。
ところが、1月に阪神・淡路大震災が起こり、数ヶ月後に地下鉄サリン事件が起きるなど、国民を震撼させる出来事が相次ぎ、人々が緊張・興奮状態にあったせいか、花粉症の発生率は例年の1/5程度であったといいます。

奥村氏は、免疫とアレルギーの関係を、まるでジキルとハイドのようだ、といいます。ここまでは免疫の過剰に反応しがちなハイドの面をご紹介しました。後半は生体の恒常性維持に欠かせないジキルの部分についてお話します。

毎日五千個程度、不出来な細胞が出来ている

近年、日本では2人に1がガンに罹り、3人に1人がガンで亡くなっているといわれています。人は毎日24時間、およそ一兆個の新しい細胞を作っています。しかし、新生細胞の中には五千個程の不出来な細胞、つまり、ガン細胞が出来ている、と奥村氏はいいます。

こうした不出来な細胞が塊にならないのは免疫のおかげで、リンパ球の一つであるNK細胞(ナチュラルキラー細胞)がそれらを攻撃・駆逐しているからです。しかし、NK細胞も加齢(特に65歳以上)や日内変動(日中は活発で夜は不活発)、ストレスなどが加わると働きが低下していきます。

そのため、深夜の長距離トラックの運転手、若くても昼夜逆転の生活をしている人などは比較的短命の人が多いといわれています。また、ストレスにさらされている受験生は風邪を引きやすいということがあります。

ある実験で、ショックを与えNK細胞の働きを低下させた動物を、NK細胞が活性化している動物のほうに移動させたところ、後者のNK細胞の活性が低下したという報告もあります。そのため、明るく笑いの絶えない人のそばにいるというのが、NK細胞の活性化には良いと奥村氏はいいます。

乳酸菌で免疫力を高める

免疫力を高める食品についてはどうでしょうか。
奥村氏が確信しているのは、乳酸菌であるといいます。乳酸菌(乳酸桿菌、ビフィズス菌、腸球菌など)は、ヨーグルトや漬物などの発酵食品に多く含まれています。

腸内には500種類、100兆匹の菌が棲息するといわれますが、乳酸菌は人の健康維持や老化防止に有益な善玉菌とされています。胎児の授乳の際には、乳酸菌が腸内で繁殖しますが、その後、加齢やストレス、肉食などで、大腸菌やウェルシュ菌などの悪玉菌が増えていきます。

悪玉菌は腸内で有害な物質を生成し、病気や老化を促進させるため、ビフィズス菌のような乳酸菌を優勢にして悪玉菌を抑え込み、腸内細菌叢を整えることが大切です。乳酸菌が腸内で増えると、インターフェロンの産生能が高まり、NK細胞が活性化することも確認されています。

免疫調整、プロバイオティクスやバイオジェニックスで

乳酸菌の豊富な食品を摂ることが免疫強化に繋がり、さまざまな疾患を遠ざけるカギとなりますが、先述のアレルギー対策にも有効性を発揮します。

腸内のビフィズス菌を増やし免疫機能を高めることで、花粉症が改善されることも報告されています。
またアトピー疾患についても、アトピー性皮膚炎の子供は腸内に乳酸菌が少ないことが指摘されています。ヨーロッパのリストニアとスウェーデンの子供との比較調査では、リストニアの子供のほうがアトピーになりにくく、スウェーデンのアトピーになった子供のほうが乳酸菌が少なかったという報告もあります。

腸内細菌叢で、免疫調整に関わるものとしては、乳酸菌のようなプロバイオティクス(生きた状態で摂取すると腸内の細菌叢を良好にし、健康に寄与)、オリゴ糖や食物繊維などのプレバイオティクス(腸内有用菌の餌となり、有用菌の増殖を促す)、多糖体の米糠アラビノキシランなどのバイオジェニックス(直接免疫力に影響を及ぼし、生体機能を調整)があります。

これらを活用することが、アレルギーや各種疾患を予防し、健康長寿をもたらす秘訣といえます。

【参考文献】
『ビフィズス菌パワーで改善する花粉症』辨野義己著 講談社
『花粉症の最新治療』斉藤洋三著 主婦と生活社
アレルギー疾患に関する児童施設調査:平成22年3月東京都福祉保健局