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「腸の時代」が到来

腸には「考える力」がある

私たちの腸は入ってきた食べ物を酵素で分解し、消化・吸収という作業を行います。しかし、そのメカニズムは決して単純なものではありません。

「人間は考える管」ともいわれます。食べ物が口から入り、胃や腸で消化吸収され、血や肉、エネルギーとなり、不要なものは排泄されます。

しかし、こうした作業がすみやかに行われているわけではありません。腸は不要なものはすぐに体外に排出しますが、必要なものはゆっくり時間をかけ、じっくり消化・吸収していきます。

2013年3月14日(木)、「健康博覧会2013」セミナーで、東京大学名誉教授の上野川修一氏が「腸と共生菌の力~考える、守る」と題して、腸の機能について講演しました。

腸には「考える力」がある。腸は消化・吸収という作業を脳の影響を受けずに、自ら考えて行うことができる。上野川氏はそのように解説しました。「腸は第二の脳」ともいわれますが、生命の観点からいうと「第一の脳」ともいえるほど高い能力を有しているといいます。

身体の中で最も大きな免疫系

腸の機能ですが、まずは食べ物を消化・吸収します。ホルモン系が消化という作業で刺激され、各種の酵素が放出、腸内で分解や吸収が行われます。消化・吸収の促進のために、腸は蠕動(ぜんどう)運動を起こします。

食べ物には多種多様の菌が付着しており、口から病原菌が侵入してきますが、それから身を守るために、腸は身体の中でも最も大きな免疫系を有しています。

人だけでなくあらゆる動物において、腸は最も早く発生する器官です。このことは、発生生物学という学問の発達により知られるようになってきました。

受精卵から早い段階で原腸(腸のもと)ができ、その後、急速に消化管が形成されていきます。人や動物で、最初に原腸ができるということは、腸がなくてはならない気管であるということを示しています。

とくに女性が腸の重要性に気づき始めた

また、腸には腸内細菌が生息しています。大腸には約1キロ、100兆個の嫌気性菌が存在しているといわれます。これらの菌の多くは腸と友好的な状態にありますが、この関係が破綻すると、感染症やアレルギー、自己免疫疾患、肥満などのリスクが高まります。

このように、腸はさまざまな機能を持ち、私たちの健康の土台となっています。近年、とくに女性がこうした腸の重要性に気づき、腸の働きや腸内環境を良くする食品を積極的に摂り始めています。まさに、時代が「腸」という器官に注目し始めたといえそうです。

腸の状態が脳に影響

最近は、腸と自律神経の関係にも注目が集まっています。実は、腸神経も自律神経で、脳のコントロールを受けることなく自ら働き、交感神経と副交感神経の両方の機能を合わせ持っていると上野川氏はいいます。

つまり、腸には状況を認識し、考え、判断する機能があるということです。確かに、このことを日本人は昔から感覚的に理解していたようで、「腹が据わる」「腹が立つ」「腹が黒い」といった腹にまつわる表現がよく使われてきました。

ちなみに、英語で「第六感、勘、直感」のことを「gut feeling(s)」といいます。「gut」は「腸」です。直感的なものは腹から来るといったことなのでしょうか。

ところで、疲労やストレスが重なると、腸の働きが鈍くなります。脳が腸に影響を及ぼしているわけですが、逆に、腸が脳に影響を与えることもあると上野川氏はいいます。それは腸内細菌のバランスが崩れた時です。このことから、腸内細菌は人間の器官の一部と考えるのも、あながち間違いではないといいます。

幼少期の脳の発達、腸内細菌が関与

ともあれ、腸内細菌は免疫の活性、神経系や内分泌系の活性、病原菌の増殖抑制などで、腸の恒常性を維持し、全身の健康を保つことに役立っています。

アレルギー、感染症、がん、肥満、動脈硬化、自閉症、便秘などが腸内細菌と深く関係することも研究で明らかになっています。近年、幼少期の脳の発達についても腸内細菌が関与しているのではないかというデータが出てきています。

これまで、腸についての研究は他の臓器の研究に比べ遅れをとってきました。しかし近年、その重要性が注目されるようになり、腸の研究者もずいぶん増えているといいます。

腸内細菌をいかに育て、活性すべきか、さまざまな疾病予防や治療にどのような効果があるのか、今後、新たな研究が次々に発表され、まさに「腸の時代」がやってくるのではないかと上野川氏は期待を寄せています。