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専門医の未病をテーマとしたエッセイ

掲載6

7.8%のエニグマ

7.8%。これは菅内閣が考えている消費税の率ではない。消費税率としたら高い。年金未納者の%としたら、低い。消えた百歳老人の%数としたら、?。小沢さんの支持率なのか。実はいずれでもない。

種を明かそう。これは2008年より始まった特定健診・特定保健指導制度において実際に保健指導を受け終了された方のパーセントである。いわゆるメタボリック・シンドロームで引っかかった人に栄養・運動指導を行い、なんとか指導期間を終えた人の%である。

高いのだろうか、低いのだろうか。そこがエニグマである。

図を見ていただきたい。40歳から74歳までの特定健診受診の対象者は5190万人いた。そして特定健診を受けた人は1990万人、このうちメタボリックシンドロームと診断された人は約20%の394万人であり、この人達が保健指導の対象となった。そして6ヶ月間の指導を受けなんとか終了した人は31万人(7.8%)であった。つい最近の8月26日の発表である。

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このメタボ健診・保健指導に掛かった経費はこれまでに3兆円は下らないとされる。毎年1兆5000億円ほどの経費が掛かり、今後2年半は続く。

早急に効果が現れる事は期待しないが、それにしても費用対効果の問題はどうなのだろうか。エニグマである。そもそもこの制度の誕生自体がどうもエニグマチックな臭いがするのである。

高齢社会の双子のエニグマ

その前にエニグマについて少し触れておこう。エニグマとはれっきとしたギリシャ系英語であり、「謎」、「謎を解く」と言う意味なのだ。発音はenigmaのniに強調がある。

有名にしたのは第二次世界大戦で使われた解読難解な暗号機の名前であり、ロバート・ハリスにより小説になった。これがベストセラーとなりケイト・ウインスレットも出演した映画「エニグマ」の題名にもなっている。エルガーによる変奏曲もある。そういえばウイスキーや香水にもこの名前が使われ出した。最近は少年ジャンプの漫画にも登場しているという。

さて、特定健診・特定保健制度にもどろう。どこがエニグマティックなのか見て頂きたい。この制度が施行されたのは2008年である。この年に同時に産まれた制度がある。それが「後期高齢者医療制度」なのである。

この二つの制度が同時に発足したという所がミソで、実は表裏一体の双子の制度と言えるところである。すなわち臍の緒でつながっていたのである。臍の緒とは両制度を往き来するパイプのことで、そのパイプとは特定健診・保健制度に付加されたペナルティー制度(罰金)である。

ペナルティーとはアメとムチ的な所がある。メタボ健診の受診率を高めさせ、保健指導も多く受けさせ、2015年までに生活習慣病を25%減少させれば、後期高齢者医療制度への拠出金を減額し、一方、目標が達成されないと保険者に10%内外のペナルティーすなわち罰金が科せられると言うモノである。

この罰金は後期高齢者医療制度への拠出金として回されると言う仕組みであった。畢竟、医療費の節約につながり、一見、合理的な制度に見えるのである。

しかし、このペアーの受け皿の制度である後期高齢者医療制度はあっけなく2年後の今年、2010年にはつぶれてしまった。それでこれからの特定健診・保健指導はどうなって行くであろうか。そこに7.8%の結果である。この点もエニグマなのである。

三方一両損は死語なのか

そもそも、少子高齢時代の到来と共に医療費は上がる。現在33兆円、あと5年先の2015年には40兆円を越えるとされる。このうち高齢者の医療費は三分の一を占める。そこで75歳という年齢を敷き、それ以上の高齢者を別枠で独立させた後期高齢者医療制度を創設することで国民皆保険制度を何とか続かせようとするモノであった。

高齢者にも多少の制限を余儀なくしてもらうが、40歳から74歳の者もメタボを抑制する努力をしてくれ、と言うシステムである。どちらも我慢を余儀なくしてもらう仕組みである。

それは近い将来への「備え」という考えのもとから出ている。ここで思い出されるのが、「三方一両損」という数年前に出されたキャッチフレーズである。「みんなで我慢をして次の時代の艱難を乗り切ろう」とするまさしく、小泉イズムである。

今回2年半の前半期間で特定健診・保健制度が履行できたのは7.8%という結果であった。出したのは国民である。どうみても「痛さに耐えて頑張った。感動した」とは言えない。「三方一両損」はもう死語になってしまったのであろうか。

どちらが良いのか、悪いのか。ではなく国民はどちらを受け入れたのかということが問題である。痛くも痒くも無い状態の人が自主的にセルフケアーをして備えるというシステムは現在ではまだ早熟だったという結果であろう。

今回の中間報告での7.8%は果たしてアメを舐められるのかムチを受けるのか、そこがエニグマなのである。

あと二年半

その結果は後二年半待たねばならない。最近、コレステロール値は高いほど長生きする、という疫学調査の結果を出してきた学会もある。腹回り85cmもどこまで信憑性があり牽引力があるのか、ぐらついてきた状況でもある。

自民党政権下で出来たこの制度、ペナルティーがいざ掛けられるとなるとすったもんだが噴出してくるのは目に見えている。民主党政権下ではそろそろ「仕分け」の声が聞こえてくるのは時間の問題である。このままでは7.8%は仕分けのいい材料となって来る。 「政争の具じゃないかな」として高みの見物をしている場合ではもうない。もはや政府にはしぼる知恵はないと見た方がよいであろう。

菅総理が危惧した「ギリシャ化」は経済問題だけでなく医療制度にも既に始まっているのではないであろうか。「自分の身体は自分で守る」と言う気構えがなくては、だれも手を差しのばしてはくれない時代に近づいているのはエニグマではないであろう。

プロフィール
福生 吉裕(ふくお よしひろ)氏

(財)博慈会老人病研究所 所長

福生 吉裕(ふくお よしひろ)

(財)博慈会老人病研究所所長 医学博士

1972年 日本医科大学医学部卒業後、第二内科学教室入局
1978年 微生物免疫学にて医学博士号取得
1990年 日本医科大学 第二内科助教授
1995年 中国 長春中医学院客員教授
2001年 財)博慈会老人病研究所所長、兼日本医科大学客員教授

日本未病システム学会常任理事、日本老年医学会指導医・評議員、日本内科学会認定医、動脈硬化学会評議員、専門領域は動脈硬化、高脂血症の臨床および細胞生物学を中心に免疫と動脈硬化との関係の基礎研究を行う。膠原病、老人病の臨床も行い、現在は主に未病と抗老化を研究。

[学術論文]
主な著書に「病気の秘密は血液にあった」、「免疫から見た動脈硬化」他多数。

バックナンバー

専門医の未病をテーマとしたエッセイ

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