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糖質制限食のすすめ

掲載3

人類は糖質で太る体質を持っている

インスリンのターゲット組織は骨格筋と脂肪組織と肝臓 

糖質摂取が肥満を引き起こすメカニズムを理解するためには「インスリンの働き」と「インスリン抵抗性」について知る必要があります。人類が氷河期に狩猟採集で食糧を得ていたときにインスリン抵抗性という体質が進化した理由を理解すれば、人類が近年の糖質摂取の増加に適応できていない理由が納得できるからです。

食後に血糖が上昇すると膵臓のランゲルハンス島のβ 細胞からインスリンが分泌されます。インスリンは様々な作用を持っていますが、最も重要な作用は血糖を下げることです。この血糖降下作用においてインスリンの標的になる組織が骨格筋と脂肪組織と肝臓です。 グルコース(ブドウ糖)は細胞膜にあるグルコース・トランスポーター(グルコース輸送担体)を使って細胞膜を通過します。グルコース・トランスポーターには幾つかの種類があり、組織の違いなどによって種類の異なるトランスポーターが使われます。脂肪細胞と筋肉細胞(骨格筋と心筋)ではインスリン感受性のグルコース・トランスポーター4 (GLUT4)が使われます。 GLUT4は細胞内に貯蔵されていて、インスリンが細胞に作用するとGLUT4が細胞膜上へと浮上してグルコースを取り込みます。つまり、インスリン依存性のグルコース・トランスポーターで、血糖が高くなると膵臓からインスリンが分泌され、骨格筋と脂肪組織のGLUT4が細胞膜に輸送されてグルコースの取込みが増えるという仕組みです。

肝臓ではアミノ酸やグリセオール(脂肪酸が分解してできる)や乳酸などからグルコースを合成でき、これを糖新生と言います。インスリンはこの糖新生を抑制する作用があります。 つまりインスリンは骨格筋と脂肪組織でのグルコースの取込みを増やし、肝臓での糖新生を抑制することによって血糖を下げる作用を示すのです。したがって、筋肉細胞と脂肪細胞でのインスリンの働きが低下するとグルコースの取込みが減少し、肝臓でのインスリンの働きが弱まるとグルコースの合成(糖新生)が増え、その結果、血糖が高く維持されます。

低糖質食ではインスリンの働きを弱めるように進化する 

脳はエネルギー消費量が多く、安静時で全身が消費するエネルギーの20%以上が脳で消費されます。脳組織でのグルコースの取込みはインスリンの作用が不要なGLUT3で行われます。糖質摂取が少ない状況でインスリンが作用して血糖が骨格筋と脂肪細胞に多く取込まれると脳へ行くグルコースの量が減ります。 脳へのグルコースを確保するため、骨格筋と脂肪細胞でのグルコースの取込みを制限するインスリン抵抗性の高い方が、糖質摂取が少ない状況では生存に有利になります。インスリン抵抗性とはインスリンの効き目を弱くする状態です。肝臓でのインスリン抵抗性は糖新生を増やしてグルコースの供給を高めることになります。

また、胎児は大きく生まれる方が出生後の生存に有利です。したがって、妊娠時はより多くのグルコースを胎児に送るためにも、骨格筋や脂肪組織でのグルコースの取込み低下は生存に有利になります。 インスリンは食事から吸収されたグルコースを血中から早く消失させる作用がありますが、食事からの糖質摂取量が少ない状況では、血中からグルコースが早く無くなると脳の働きや胎児の発育に支障をきたすのです。少ない血糖を脳や胎児に多く確保するために、インスリンの標的組織である筋肉や脂肪組織や肝臓でのインスリンの働きを弱める体質、すなわちインスリン抵抗性の体質を持つ方が生存に有利になるというわけです。

このように、約250万年前から人類の食事から糖質が減少し、この低糖質食に適応するため人類はインスリン抵抗性を高めるように進化したと考えられています。

人類は太りやすい体質をもっている

氷河期に糖質を多く含む植物性食物の入手が困難になったために人類はインスリン抵抗性を獲得したという仮説は「肉食関連仮説(Carnivor Connection Hypothesis)」と呼ばれ、オーストラリアのブランド・ミラー(Jennie Brand-Miller)博士らが1994年に提唱した仮説です。この他にも人間が肥満や2型糖尿病になりやすい理由を説明する仮説が幾つもあります。 その一つに「倹約遺伝子仮説(Thrifty Gene Hypothesis)」があります。狩猟採集では食物が規則的に獲得できるという保証はありません。季節的に食糧が入手できない太古の環境では、食物を摂取できるときに体内にエネルギーを溜め込むために必要ないわゆる「倹約遺伝子」と呼ばれる遺伝子が進化の過程で人類の遺伝子プールの中に広がったという考えです。 基礎代謝量を少なくしたり、脂肪の蓄積を促進するような遺伝子が倹約遺伝子の候補になっています。食物が足りないときには、少ないエネルギー消費量で生き残れる倹約遺伝子型を持っている人が有利です。しかし食物が豊富になると倹約遺伝子型を持っている人は肥満や糖尿病になりやすいと考えられます。この仮説は1962年に米国のニール(James V Neel)博士によって提唱されています。

その他、英国の生物学者スピークマン(John Speakman)博士の提唱している「捕食者解放仮説(Predation Release Hypothesis)」という理論もあります。 動物はより大きい肉食動物からの捕食を避けるために肥満になりやすい形質は進化の過程で淘汰されるという考えがあります。肥満した動物は逃げるのも遅く、かつ捕食者にとっては太っているほど獲物として魅力があります。つまり肥満は動物にとって生存しにくい形質であるため、肥満になりやすい遺伝子型は進化の過程で淘汰されていきます。

しかし人類は火や道具を使うようになり、知能が発達して捕食者に対する防御も容易になりました。100万年くらい前に人類は捕食者からの脅威を逃れることができるようになり、捕食者からの危険が無くなり体重を制限するという進化上の選択圧が無くなったので、肥満になることを許す遺伝子が人類の遺伝子プールの中に広がったという仮説です。肥満者は捕食者の餌食になりやすいので肥満になりやすい遺伝形質は進化上淘汰されますが、人類の知能が進化して捕食者の脅威がなくなればそのような選択圧は不要になるということです。

このように、現代社会で肥満や2型糖尿病が増えている理由を説明するためにいろんな仮説が提唱されていますが、恐らくこれらの理由が複合的に作用して人類は太りやすい体質を持っていると考えられます。食糧が豊富になり、体を動かさない生活が増えた現代において、このような太りやすい体質が肥満や2型糖尿病を増やす原因になっていると考えられます。

プロフィール
福田 一典(ふくだ かずのり)氏

銀座東京クリニック 院長

福田 一典(ふくだ かずのり)

昭和28年福岡県生まれ。昭和53年熊本大学医学部卒業。熊本大学医学部第一外科、鹿児島県出水市立病院外科勤務を経て、昭和56年から平成4年まで久留米大学医学部第一病理学教室助手。その間、北海道大学医学部第一生化学教室と米国Vermont大学医学部生化学教室に留学し、がんの分子生物学的研究を行う。
平成4年、株式会社ツムラ中央研究所部長として漢方薬理の研究に従事。平成7年、国立がんセンター研究所がん予防研究部第一次予防研究室室長として、がん予防のメカニズム、および漢方薬を用いたがん予防の研究を行う。平成10年から平成14年まで岐阜大学医学部東洋医学講座の助教授として東洋医学の教育や臨床および基礎研究に従事した。現在、銀座東京クリニック院長。

<主な著書等>
「がん予防のパラダイムシフト--現代西洋医学と東洋医学の接点--」(医薬ジャーナル社,1999年)、「からだにやさしい漢方がん治療」(主婦の友社,2001年)「見直される漢方治療~漢方で予防する肝硬変・肝臓がん」(碧天舎,2003年)など。

バックナンバー

糖質制限食のすすめ

・掲載12 糖質制限のための食事

・掲載11 糖質は必須栄養素ではない

・掲載10 糖質を減らすと寿命が延びる

・掲載9 糖質や甘味を減らすと食事摂取量が減る

・掲載8 糖質と甘味は中毒になる

・掲載7 糖質摂取を減らすと太りにくくなる

・掲載6 糖質を減らせば老化しにくくなる

・掲載5 糖質が増えると欧米人は肥満になり日本人は糖尿病になる

・掲載4 農耕が始まり糖質摂取量が増えた

・掲載3 人類は糖質で太る体質を持っている

・掲載2 人類は肉食で進化した

・掲載1 なぜ糖質制限が議論されるのか

自然治癒力を高める東洋医学の考え方[2](インタビュー)

・掲載5 癌治療におけるサプリメントと役割

・掲載4 ホリスティック医療の重要性

・掲載3 自然治癒力はどこまで期待できるか自然治癒力を上げる方法

・掲載2 癌治療における西洋医学と東洋医学の理想的な関係

・掲載1 東洋医学との出会い、なぜ、癌代替医療に取り組むのか

自然治癒力を高める東洋医学の考え方[1]

・掲載6 天寿がん:体にがんがあっても天寿を全うできる

・掲載5 プラシーボ効果と心身一如:心が治癒力を左右する

・掲載4 医食同源とサプリメント:食養生に生かす機能性食品

・掲載3 病気は正気と病邪のせめぎ合い

・掲載2 「未病を治す」は全ての病気の予防の原則

・掲載1 「虚を補う」視点の大切さ~老化とは「虚」に傾く過程

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