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病理専門医からみた健康戦略シリーズ[2]

掲載11

自己とは?非自己とは?(11)

輸血と移植

輸血は現代医療に欠かせない治療手段であることは申すまでもありません。国際赤十字や血液銀行の名で知られており、最も普及した現代医療の一つであることに異論はないでしょう。我々の身近にあって日々恩恵を与えてくれているといっても過言ではありません。

たとえばストレスによる消化性潰瘍の典型的な十二指腸潰瘍からの出血性ショック、その際緊急輸血で一命を取り留めることもあるでしょう。それでも普段は輸血というとまるで空気のように当たり前で無視しがちな存在でもあります。しかし一方では、輸血血液や血液製剤による汚染事故という側面で怖い存在でもありましょう。

輸血とは正確にいいますとレッキとした赤血球細胞移植であるのに、改まってこのようにいうとなぜ奇妙に聞こえるのでしょうか。これは「自己とは?非自己とは?」の秘密に根ざしています。

そこで、今回は輸血を移植という観点からもう一度おさらいしてみたいと思います。すなわち、「炎症と免疫」という観点で見ますと、既に述べたとおり血液型不適合によるII型アレルギー、いいかえますと致命的な全身的な細胞障害性アレルギーとしてとらえることができるということです。

輸血事故とは

ABO式血液型はどうして存在するのでしょうか。そして不適合輸血とは一体どうして起こるのでしょうか。どうして拒絶反応とは呼ばないのでしょうか。いずれにしても現代では、これは起こってはならないことです。

ここではまず当たり前のような輸血医療が一触即発の医療過誤と背中合わせであり、それに向き合いながら努力を惜しまない医療チームの仲間たちのたゆまぬ努力についてなにがしか感じ取っていただきたいのです。

輸血治療は問題がなくて当たり前であり、「今時の”はやり病い”のようになったテレビでの”頭下げ会見”」は通用しません。輸血現場での失敗は「腹カッサバキ」、つまり切腹と同等の罪なのです。

以前の病院におりましたとき、隣人の輸血部長から常に発せられる激しい口調を今も想い出します。別の言い方をしますと、輸血医療は日頃の大変な熟練さと細心の注意が最も要求される現場でもあります。

輸血された患者さんは入院していただいて、約一日中医療チームによってモニターされることになります。何か少しでも変化のある時は、医療チームが駆けつけることになります。

輸血と免疫現象

輸血は長い人類史における努力と悲惨な失敗の積み重ねの上に成り立っているという深い意味があります。

19世紀から20世紀にかけて血液学がまさに医学の本流であり、血液型抗原と抗体発見の進歩は血液血清学を展開させ、その後さまざまな分野へと発展したといっても過言ではありません。

その抗原抗体反応という研究成果のひとつとしてジフテリア毒素に対する抗毒素血清療法であり、さまざまなワクチン治療は免疫学の臨床応用の典型です。

かなり前の章で触れましたABO式血液型の発見であるウィーン大学のランドシュタイナーらの発表以降、輸血治療という大変な医療の進歩をもたらしました。その過程の中で、Rh式血液型の存在も発見されてきました。

そしていわゆるヒト白血球抗原(human leukocyte antigen=HLA)という臓器移植と密接にかかわる「自己と非自己」=主要組織適合抗原複合体(MHC)の理解へと深まっていくわけです。

このような医学の展開の中で、二度の世界大戦はその発展を強力に推進させたといっても過言ではありません。特に輸血治療は戦傷には特効的だったことはいうまでもありません。一方で、中国戦線での731部隊の忌まわしい事件とも関連しましょう。

血液型抗原と自己/非自己の関係

赤血球についてのいくつかの問題点あるいは疑問点からお話しましょう。その一つは、赤血球を除いた白血球をはじめとするすべての細胞表面には自己にかかわる物質(MHC=ヒトではHLA)が存在しているのはなぜかという点です。

逆にいいますと、赤血球はどうして随分おかしな細胞なのかとなります。つまり赤血球細胞表面には自己物質が消滅しており、あたかもHLAという毛髪がはげ頭のように抜け落ちたかのようであります。一方で、赤血球にはABO式、Rh式など約400種類以上もの多くのまれな血液型物質が発見されています。

第二の疑問点は、ABO式血液型物質に対して、どうして「裏の抗体」が存在するのかという点です。この存在によってランドシュタイナーたちの実験結果としてABO式血液型の発見となったともいえます。

この抗体は生まれつきそのヒトに存在する抗体なので自然抗体と呼ばれて、重要な研究課題でもあります。1950年代から1960年代に大活躍された免疫学者のバーネット教授の著書「免疫理論」による説明をしましょう。

A型のヒトにはB型の抗体が生まれつき備わっていてB型のヒトにはA型の抗体が生まれつき備わっているというのです。各々の血液型である赤血球抗原と自然抗体の一致しない個体のみが胎児期を生き延びて生まれてきているからだというのです。

つまり、A型のヒトにA型の抗体が存在していたら、抗原抗体反応を起して死んでしまうでしょう。B型のヒトにB型の抗体が存在したら、同様に死んでしまうでしょう。両方の抗体を産生出来る免疫系が発達していく過程で、A型のヒトではA型抗体産生細胞は消滅したことで寛容状態となり、B型抗体産生細胞だけが残ったわけです。

一方、B型のヒトではB型抗体産生細胞は消滅して寛容状態となり、A型抗体産生細胞が残ったわけです。AB型のヒトは両者の抗体がないこと(寛容)で生まれて来れるわけです。O型のヒトはA型とB型の血液型抗原のないヒトですから、両者の抗体を造れる個体として生まれて来るというのです。

実際の現象とこの解釈は、バーネット教授のヒトにおける生まれた後の(後天的な)免疫反応(獲得免疫系)をとらえるクローン選択説としてまとめられました。このクローン選択説はノーベル賞に価しました。この仮説はその後の免疫学の方向性を決定したという点で、大変優れて包括的です。

ちなみに、その延長線上にある現在では、生まれつきの免疫系(自然免疫系)の解明が進んできている現状であります。下等動物からヒトまで存在する生体防御系として自然免疫系が存在しています。

そのカギになる重要な細胞がマクロファージ=樹状細胞系であります。昨年度のノーベル賞はこの問題に関する3人の研究者だったことは記憶に新しいです。とくにロックフェラー大学の故ラルフ・スタインマン教授は研究内容と受賞時死亡していたという点で記憶されます。

自然免疫系におけるある一定の抗原物質に対する受容体toll-like-receptor(TLR)による情報伝達と免疫系の活動の全貌が近い将来に解明されることでしょう。

白血球とHLAの関係

さて、最も重要な点についてお話しなければなりません。輸血の際に行う二つの重要なことです。一つは既に述べました血液型に関するもので、交差適合試験を行って不適合ではないことを確認します。クロスマッチ試験ともいいます。

これは赤血球型抗原と血漿中の抗体との反応です。輸血を受ける患者さんの血液を固まらないようにして血球分画と血漿分画に分離します。ドナーの血液もそのように分けます。そして「表と裏」の「タスキ掛け」のように凝集反応させます。通常では赤血球は赤い細かい点状物として浮遊しております。

抗原であるA型赤血球抗原とA型抗体が一致しますと、点状の液体状態にぶつぶつの凝集物が生じて目で見てもはっきり沈殿します。もし一致しなければ、凝集反応が起こりません。A型の患者さんの血液とA型のドナー血では凝集反応は起こりませんので、輸血OKとなります。

もう一つは、輸血前に血液の入ったパックを放射線照射しなければなりません。輸血血液は全血ですので、赤血球の数の約1/1000の割合で白血球が混入しています。その中でもリンパ球とマクロファージになる単球が重要です。

これらの細胞が生きていて混入しますと、輸血した後で患者の体内で患者の細胞たちを攻撃することになります。これにかかわる重要な抗原がまさに「自己と非自己」の関係なのです。前述しました白血球抗原HLAです。

これはあくまでも「赤血球以外の細胞表面の自己抗原」というわけです。この患者さんの体内でおこっている出来事は、「移植片対宿主反応」(GVHR)というむずかしい表現になります。つまりは、輸血した血液を「移植片」であり、患者さんは「宿主」というわけです。

いいかえますと、借主が大家さんを攻撃してしまうというものです。細胞分裂できる細胞はすべて殺傷しておかないとGVHRの病気(D)がおきてしまいます。また長くなってしまいました。ABO型血液型のほかにRh式血液型は不妊ならびに新生児溶血性黄疸大変重要ですので、次回にお話しましょう。

<文献>
・ウィントローブ著 柴田 昭監訳:血液学の源流. I,II. 西村書店 1982
・Robinson J, et al: HLA-DR, HLA-ABC and glycophorin in erythroid differentiation. Nature, 1981, 289(5793):68-71.
・Menier C, et al: Blood, 2004, 104(10):3153-60.

プロフィール
遠藤 雄三(えんどう ゆうぞう)氏

浜松医科大学(第一病理)

遠藤 雄三(えんどう ゆうぞう)

昭和44年(1969年)東京大学医学部卒。虎の門病院免疫部長、病理、細菌検査部長兼任後退職。カナダ・マクマスター大学健康科学部病理・分子医学部門客員教授となる。現在、浜松医科大学第一病理非常勤講師、宮崎県都城市医療法人八日会病理顧問、看護学校顧問。免疫学・病理学・分子医学の立場からがん・炎症の研究を進め、現在に至る。

<主な研究課題> 生活習慣病予防にかかわる食物、サプリメント、生活習慣病と公衆衛生、IgA腎症と粘膜免疫とのかかわり、人体病理学、臨床免疫学、実験病理学

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