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病理専門医からみた健康戦略シリーズ[2]

掲載10

自己とは?非自己とは?(10)

自己免疫疾患とは

今回のテーマでは、まさに自己免疫疾患という病態についてまともに議論することになります。ことばとしてはなじみがなく難しいようですが、問題の「幹」をつかんでしまえば簡単です。実のところ、この問題は筆者が学生時代からの悩みの種だったのです。

そしてまた、当時の1960年代は昭和30年から40年代に向かう「ALWAYS三丁目の夕日」の時代でもありました。理論血清学から免疫学への移行期でもあり、バーネットならびにイェルネという免疫学の巨人が「クローン選択説」を唱えたいわゆる理論の先行した免疫学揺籃期でもありました。のちに両者ともノーベル賞を受賞するという共通点を持っています。

それはさておき、自己免疫疾患発症のしくみは、すでに詳しく述べてきました自己と非自己の関係について起こるべき個体誕生直後の胸腺内でのアポトーシスにかかわります。これがうまくいかずに自己反応性Tリンパ球クローンが、わずかに残存してしまった病態あるいはバランス異常と理解してください。

つまり、そのようなヒトでは、常にごく一部の自己物質が細菌感染のように体内で謀反を起こして、炎症がくすぶるという状況に似ています。細菌感染のように非自己が侵入した場合は、免疫系が作動して排除するか致命的かの急性炎症でおわってしまいます。自己免疫疾患では自己物質が非自己化しているのですから常に体内から抗原刺激をうけているわけで、免疫系としては慢性炎症という反応を起こさざるを得ません。

これが自己免疫疾患発症の実体です。それでは炎症の起こる場所はどこかというと血管壁なのです。動脈の各部位から毛細血管までの部位で炎症が起こってしまうのです。とくに毛細血管での炎症のくすぶりは臓器の機能不全を起こします。その代表的な標的は腎臓の糸球体なのです。これがどのようにして起こるのかは後ほど説明します。

この場合の免疫反応は、自己抗原物質のちがいにより液性免疫機構が働くのか、細胞性免疫機構が働くのかが決まります。19世紀半ばの現代医学の揺籃期では、経験的に理解できた自己物質に反応しないしくみについて“horror autotoxicus”「自己麻痺ホラー」ということばで表現し、大いなる「不思議」と「畏れ」を抱いていたと推察されます。

一方、20世紀前半に活躍された米国の病理学者クレンペラーはニューヨークにあるユダヤ系のマウントサイナイ病院の病理医として活躍され、全身に広がる奇妙な疾患群を「膠原病」としてまとめた概念を提唱しました。それまでの疾病観では病気は特定の臓器に起こるというものでした。

リウマチはじめ全身性エリテマトーデス、さまざまな血管炎などの疾患群は全身を維持している血管、結合組織とその構成タンパク質の膠原線維の場で病変が起こるというものです。いろいろいかめしい病名が挙げられますが、基本的には自己免疫疾患としてまとめられているといえます。

III型アレルギー=免疫複合物病とは

免疫複合物とは一言でいうと、抗原―抗体-補体というナノメーターレベルの分子結合物質のことです。このような結合物はマクロファージの貪食対象であり、抗原提示物質の断片でもあります。したがって、一過性に増加している免疫複合物はマクロファージによって処理されてしまい脅威ではないでしょう。

自己免疫疾患を把握する難しい点は、自分自身が自爆テロのように反応する免疫反応のしくみを持っているからです。非自己の侵入であれば、それを排除するしくみが生体防御だというのは至極当たり前のことです。しかし内なる物質に対して常に反応せざるを得ない状態で、防衛反応が自虐的に自己を破壊するという状態なのです。

自己免疫疾患では、全身の血管壁を場とするという炎症であることが重篤なのであり、とくに腎臓の糸球体で炎症が起こり、確実に糸球体を破壊して腎不全に至らしめることです。それも自分自ら生体防御している反応で起こるという悲劇性なのです。

免疫複合物の危険性の理解には100年以上かかっています。フランスのArthus(アルチュス)の系統的な研究にはじまり、「血清病」として知られています。千葉大学で研究された馬杉教授の動物モデル「馬杉腎炎」は世界的に有名です。その後、米国西海岸サンデイエゴのラホヤにある有名なスクリップス研究所におけるデイクソンらの研究チームは一連の実験糸球体腎炎研究を行い、一時期世界をリードし続けました。

彼らの研究は、抗原と抗体結合物の化学的分析そして補体という自然免疫系の重要な組織と細胞の破壊機能システムの分析を基盤としています。個体には自己破壊システムが存在するということを証明したことになります。攻撃は最大の防御といわれますが、生体防御には自己破壊的防御機構も存在しているということです。

翻って考えて見ますと、免疫応答には自殺行為としか受け取れない反応があります。たとえば、上記のようなことのほかにもあります。I型アレルギーのアナフィラキシーショックはサイトカインストームとも言うべき状態です。アナフィラキシーとは自らこの世から逃避するという究極の生体防御反応としての自殺行為なのです。

これにかかわる主要な免疫細胞は好塩基球と肥満細胞で、分泌するヒスタミンをはじめとするサイトカインは嵐のように個体をあの世に送ることになります。事実、動物にはこのような自爆装置が備わっています。これは、3年過ごしたカナダのマクマスター大学でのストレス研究でのネズミの行動で目の当たりにしました。

免疫複合物の沈着場所

免疫複合物によるIII型アレルギーとは、抗原-抗体-補体結合物(=免疫複合物)が血液中を循環している状態です。外部からの非自己たとえば細菌の侵入の時には一過性の抗原侵入に対して抗体反応が結合して、補体の結合の後にマクロファージによって貪食されて排除されるということになります。この現象がマクロファージによるオプソニン化です。

たとえば、子供に起こる溶血性連鎖球菌感染による扁桃炎があります。長引いた後に約2週間して治ったかなという時期にコカコーラのような尿が出て急性糸球体腎炎と診断されることがあります。

この細菌感染ですべての子供が糸球体腎炎になるわけではありません。この発症には、体内の単球-マクロファージ系の貪食機能(クリアランス能)にかかわります。クリアランス処理能力を超えてしまうと、免疫複合物は血管内のどこかに沈着することになるわけです。では、どうして糸球体なのかという疑問です。

III型アレルギーと糸球体腎炎

このことを論ずるには、糸球体の機能を知る必要があります。血管は単なる血液を循環させる管ではありません。機能する血管の場所は毛細血管です。つまり物質の出し入れをする場所が毛細血管です。

毛細血管はからだのいたるところにありますが、糸球体内の毛細血管は特別仕立てです。なにが特別かというと、血圧がほかの多くの場所よりも二倍以上も高いのです。つまり、糸球体では通常の場所よりも多くの血漿成分が濾過されていることになります。

成人の個体では全血液量は5リットルとしますと、血漿成分は約半分強の3リットルとしましょう。糸球体では一日に血漿は50回以上濾過されているのです。血漿の中に免疫複合物があるとすると、かならず糸球体の濾過膜に沈着するはずです。他の毛細血管レベルでも濾過されているはずですが、濾過圧は1/2なのです。

また、腎臓への血液量は心臓からの全血液量の25%といわれているのです。このイメージを身近なものにたとえますと、パチンコ台になります。一番下にある穴にスカ玉は落ちていきます。上や途中の穴には玉はめったに入らないでしょう。もちろん玉は時々は途中に入るはずです。

このように、免疫複合物は一番下の穴の糸球体に沈着しやすいのです。自己免疫疾患として代表的な全身性エリテマトーデスでは、ほぼ100%に糸球体腎炎がおこり、とくにループス腎炎といわれるくらい重要です。

糸球体が免疫複合物沈着によって目詰まりして、徐々に糸球体炎による破壊が進んでいきます。左右の腎臓に存在する約200万個の糸球体のうち90%以上が機能障害となりますと、腎不全状態となりましょう。あとは透析療法あるいは腎移植ということになってしまいます。普段から炎症を抑える方法を探し出して、進行を遅くさせることが重要となります。

最後の部分は、慢性炎症がいかに怖いかということを顕微鏡で観察しているものの一人である筆者がくれぐれも強調したいところです。

さて、慢性炎症のお話がこれで終わりとなります。このあとは自己と非自己の問題として輸血、臓器移植、骨髄移植、エイズを例にとってウィルス感染と感受性の問題、免疫系の老化、最後にがん免疫療法と予定しています。

プロフィール
遠藤 雄三(えんどう ゆうぞう)氏

浜松医科大学(第一病理)

遠藤 雄三(えんどう ゆうぞう)

昭和44年(1969年)東京大学医学部卒。虎の門病院免疫部長、病理、細菌検査部長兼任後退職。カナダ・マクマスター大学健康科学部病理・分子医学部門客員教授となる。現在、浜松医科大学第一病理非常勤講師、宮崎県都城市医療法人八日会病理顧問、看護学校顧問。免疫学・病理学・分子医学の立場からがん・炎症の研究を進め、現在に至る。

<主な研究課題> 生活習慣病予防にかかわる食物、サプリメント、生活習慣病と公衆衛生、IgA腎症と粘膜免疫とのかかわり、人体病理学、臨床免疫学、実験病理学

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