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病理専門医からみた健康戦略シリーズ[2]

掲載9

自己とは?非自己とは?(9)

II型アレルギー(細胞障害型=局所免疫複合物形成型) 非自己物質拒絶現象

これの代表的な病態は皆様におなじみのABO式血液型不適合であり、Rh血液型不一致も挙げられます。
今説明しているアレルギーの臨床病態のクームス分類を提唱したクームス博士らの発見した自己免疫性溶血性貧血もこのグループです。いずれの共通する点は、免疫学的に合わない、つまり非自己とみなされる赤血球を排除、拒絶するという現象です。

赤血球表面にはさまざまな抗原物質が存在しています。赤血球を動物に投与した際、動物の免疫系がこれらを非自己と認識すれば、各々の抗原物質に対して各々の抗体を産生させることが出来ます。試験管レベルで、赤血球抗原と特異的な抗体を反応させると細かい沈殿物が出来ます。これが「赤血球凝集反応」といいます。

もしこの中に赤血球と同じ動物の新鮮な血清を加えると、赤血球の凝集物は溶けて、赤ワインのようになるでしょう。加える血清をあらかじめ摂氏56度で30分加熱して加えますと、この溶血反応は起こりません。この熱に弱い物質を補体(タンパク)といい、生まれながらに備わった自然免疫系の防御タンパク系です。

このような試験管レベルでの溶血反応は「補体結合反応」といわれ、「免疫学」が一時代前の「血清学」といわれた時代には主要な武器だったのです。ちなみに野口英世博士は梅毒血清反応の研究の際にこの反応に没頭されました。梅毒反応として有名なワッセルマン反応はこれを基本としています。

前述した溶血現象がヒトのからだの中でおこると、炎症反応がナダレのように連鎖反応となって取り返しのつかないことになるでしょう。この現象はいわゆる赤血球に対する拒絶反応なのです。

輸血という医療行為は厳密に言えば「臓器移植」といってもよいのですが、赤血球という細胞の特性から「赤血球細胞移植」とは呼んでいません。このことについては別項「骨髄移植」で詳しく説明しましょう。

溶血現象と黄疸

上記の溶血現象を、もう少し詳しく説明します。一個の赤血球についてみてみましょう。赤血球表面にある抗原物質とそれに特異的な抗体タンパク(この場合、抗体はIgG免疫グロブリンタイプ)が結合した場合、これは抗原抗体複合物が形成されたといいます。これに補体タンパクが結合すると、これら三者は免疫複合物形成といいます。

補体は細胞膜に穴を開けるはたらきがあり、赤血球を破壊することになります。これを細菌細胞に置き換えますと、細菌に特異的な抵抗力の抗体(IgG免疫グロブリン)が細菌を破壊したということになります。これは試験管レベルの話であり、体内ではさらに複雑な現象がおこっていきます。

免疫複合物となってこわれた赤血球の抜け殻は、マクロファージによって貪食されます。この現象を「オプソニン化=効果」とよばれ、いわば「お掃除」ということです。マクロファージは赤血球を食べるだけでなく、消化したあとに赤血球膜にある抗原断片をリンパ球たちに情報伝達します。この赤血球の抗原断片が「自己」であれば、免疫反応はストップしておさまるはずです。

しかし非自己であると大変な連鎖反応が起こって最終的には拒絶反応へと展開することになります。この場合、非自己の赤血球を「細菌」に置き換えますと、異物である細菌は「お掃除」されて炎症反応の後に「細菌感染を拒絶するという現象」なのです。これが細菌感染を排除したということにほかなりません。

溶血という現象は、これだけにとどまらず体内の細胞たちに多大な害毒を及ぼすことになります。赤血球の中には呼吸にかかわる重要な「赤色の鉄タンパク質」ヘモグロビンがつまっています。溶血すると、ヘモグロビンが血液中に溶け出してヘモグロビン血症となります。これは腎毒性があり、急性腎不全そして尿毒症につながります。ヘモグロビンは色素ヘムとグロビンタンパクに分解します。

色素ヘムから鉄原子がとれて、緑色の色素物質ビリルビンに変化し、肝細胞によって胆汁として消化管に分泌されるのです。しかし血管内で大量に溶血すると、胆汁になる前のビリルビンが津波のように増えて、大変危険な黄疸をひきおこすことになります。この色素物質は神経細胞毒であり、からだ中のさまざまな細胞に害毒を及ぼすことになります。皮膚組織や眼球結膜(白目)を黄染させます。

ABO式血液型

ウィントローブ著「血液学の源流」下巻19章によると血液の科学的分析は19世紀になってようやく始まり、ウィルヒョウ先生のご活躍したころの光学顕微鏡の普及と一致しています。現代科学では血液の実態は全て解明されたかというと未だに十分には解明されていないといっても過言ではありません。それだけ奥の深い存在であります。

輸血という医療行為は血管の中に血液を注入するということで、「注射器」という医療器具が当たり前の現代人にとっては技術的にいかにも簡単なことのように思うかもしれません。

しかし注射器の発明はそれほど簡単なことではありません。輸血は他の章で触れたことのあるような「足の移植絵画」ほどありふれた試みではなかったのです。凝固しやすい血液の血管外での取り扱いは大変やっかいなことだったのです。

ABO式血液型は20世紀の世紀変換時期にランドスタイナーらの体系的かつ精力的な研究により発見されます。当時ウィーン大学の病理解剖学教室の若い助手であったカール・ランドスタイナーは、22人の研究仲間と実験助手の赤血球と血清間の反応を調べました。彼はある血清が他人の赤血球を凝集させる事を発見し、この試みで当初A型、B型、”C”型に分けたとあります。

このいわゆる「同種血球凝集反応」の発見はヒトの血液型分類の基礎になりました。当初から彼は自分の発見がヒトの輸血療法にとってきわめて重要であると認識していたようです。

しかし驚いたことに、前章で触れましたフレミングの発見と同様に、当時の医療界はことの重要性について10年以上評価できなかったのです。更に、彼はRh型の血液型などを発見しました。その後、これらの血液型はメンデルの法則にしたがって遺伝することも分かっていきます。

さて、ここで重要な点はABO式血液型には一人のヒトには赤血球抗原(表抗原)と自然抗体(裏抗体:ここでは免疫グロブリンIgMタイプ)である赤血球抗体の存在することです。もっとも不思議なことはA型のヒトには生まれつきB型抗体(β)を持っているということです。B型のヒトはA型抗体(α)を持って生まれてくるということです。AB型のヒトには自然抗体はありません。O型のヒトにはα抗体とβ抗体を持って生まれてきます。

O型の血液はいわゆる輸血万能型血液ということで、他の血液型のヒトに輸血することが出来るとお考えの方々がいるようですが、緊急の場合あるいは一回限りという条件付きであることがこれで十分理解できることでしょう。要は他人の血液成分は可及的に自分の血液の中へは不要であるというのが大原則です。

ABO式血液型の各型の頻度は人種によって異なります。日本人ではA型が最も多く、O型、B型そしてAB型の順序で頻度差があります。自分自身の血液型は是非知っておくべきでしょう。そのような情報はあっても、医療機関は輸血直前に輸血血液と患者さん自身の血液の「交差適合試験」を行う義務があります。

この場合の「交差適合」とは、輸血血液と患者さんそれぞれの血球成分と血漿成分を分離し、たがいに反応させなければなりません。これは絶対条件です。

もし輸血業務によるミスを起した場合、その医療機関ならびに医療行為をした当事者は取り返しのつかない医療過誤というレッテルが貼られてしまいます。つまり、間違いがなくて当たり前の厳粛なる世界です。輸血部長さんや検査技師さんの責任はいのちよりも大変重いのです。

輸血前の放射線照射の意味

輸血直前に行うことで更に重要なことは、輸血パックあるいは輸血血液は放射線照射を受けなければならないということです。凝固を止めた血液には赤血球が約450万個/μl、つまり1立方ミリメートルに450万個という途方もない数の赤血球とそれの約1000分の1の白血球が含まれているものです。さらに約25万個の血小板が含まれています。血球成分と血漿成分は約半々とイメージして頂いてよいでしょう。

放射線照射せずに輸血すると、混じり合っている白血球のうちリンパ球とマクロファージになる単球が患者さんのからだに入って、患者さんを免疫学的に「非自己と感じて」攻撃してしまうのです。

これは「移植片対宿主反応」graft versus host reaction (GVHR)という大変危険なことになってしまい、その病態をGVHDとよばれます。最後のDはまさにdiseaseのDです。この現象は主題のII型アレルギーとは異なるいわばIV型アレルギーといえる病態です。

なぜそうなるかといいますと、生後数ヵ月後から末梢血液中の赤血球は細胞核がなくなっていきます。おとなの赤血球にならないと「故郷の骨髄」から出ることができなくなります。これは「脱核現象」と呼ばれています。細胞は核がないと増えることは出来ません。

ですから輸血血液の中の赤血球は増えない細胞といえます。一方、白血球のうちで上の二種類以外の細胞たちは増える力が弱く、あるいは「お年寄り細胞」たちです。

更に血小板は、骨髄中のなかで「カゴの鳥状態」の大型細胞の細胞質の破片がちぎれて分泌されたものですから、自力では増えることは出来ません。増殖力のある白血球たちが患者さんを攻撃しないように殺してからでないと輸血することは出来ません。

Rh型不一致

この血液型は(+)と(-)で表示されています。Rhとはrhesusの略字であり、類人猿というラテン語です。Rh(+)とはお猿さんたちと共通する血液型といえます。日本人ではほとんどのヒトが陽性です。1%以下ともいわれる頻度の陰性者の女性が陽性者の男性と結婚して赤ちゃんが出来ますと、この遺伝形質はメンデルの法則の優性形質であるために赤ちゃんの赤血球はRh(+)になってしまいます。

つまり赤ちゃんは母体Rh(-)にとって非自己になってしまうのです。妊娠中に母体は赤ちゃんのRh非自己抗原の赤血球によって胎盤という防波堤を隔てて攻撃を受け続けることになります。

ついに母体はRh抗原に対するIgG型のクラススイッチ抗体を産生することになってしまいます。IgG型抗体は胎盤の小さい孔を通過することが出来ます。一度目の出産は何とか可能ですが、二度目以降になりますとIgG抗体は膨大な量を産生することになりましょう。これらの経緯はいままでの私の説明をお読みいただければ、容易に理解できるでしょう。

母体の「Rhに対するIgG抗体」は胎盤を通過できるために、胎児に侵入してしまいます。どんどん侵入した抗体は赤血球と抗原抗体反応し、さらに赤ちゃんの補体が結合して免疫複合物になってしまうわけです。その後は、以上述べてきたストーリーがくり返されて、赤ちゃんは重症新生児黄疸で救命不可という事態となるでしょう。

ここまで読まれて、賢明な読者は自問されるでしょう。ではABO式血液型の遺伝形質では、母体と赤ちゃんの不適合はおこらないのかという疑問です。父親と母親のABO式血液型の不一致は当たり前でしょう。A型とB型遺伝形質はO型に対して優性です。上述したα抗体あるいはβ抗体という自然抗体はIgM型の免疫グロブリンクラスであり、これはIgGの5倍ある巨大な糖タンパク質です。

このため胎盤にある小さな孔を通過できにくいのです。しかし多少通過するために、生まれたての赤ちゃんは必ずというくらい新生児黄疸が起こります。ひどい黄疸であると、光線療法などで対応することになるでしょう。

このようなわけで、II型アレルギーの内容は更に深まっていくのですが、先を急ぎましょう。次回は、III型アレルギーについてです。

参考文献:ウィントローブ著「血液学の源流」II 柴田 昭 監訳 1982 西村書店

プロフィール
遠藤 雄三(えんどう ゆうぞう)氏

浜松医科大学(第一病理)

遠藤 雄三(えんどう ゆうぞう)

昭和44年(1969年)東京大学医学部卒。虎の門病院免疫部長、病理、細菌検査部長兼任後退職。カナダ・マクマスター大学健康科学部病理・分子医学部門客員教授となる。現在、浜松医科大学第一病理非常勤講師、宮崎県都城市医療法人八日会病理顧問、看護学校顧問。免疫学・病理学・分子医学の立場からがん・炎症の研究を進め、現在に至る。

<主な研究課題> 生活習慣病予防にかかわる食物、サプリメント、生活習慣病と公衆衛生、IgA腎症と粘膜免疫とのかかわり、人体病理学、臨床免疫学、実験病理学

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