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病理専門医からみた健康戦略シリーズ[1]

掲載5

からだの防御システム(5)

前回のお話で、炎症反応をひき起こすものがからだを形づくっているすべての細胞の細胞膜に組み込まれているアラキドン酸だという事実にびっくりされたのではないでしょうか。

実は私もはじめてそれに気づいた時は大変な驚きでした。ですから、免疫システムは外からの影響の有無にかかわらず体内の幅の広い生理学的なしくみにほかなりません。炎症反応はピンからキリまでの病態生理学的なしくみであるという結論になる訳です。

そして両者による生体防御反応のおかげで、私達は曲がりなりにも健全に生活できるわけです。つまり「免疫論と炎症論はコインのウラオモテ関係の学問」という簡単なことにほかなりません。

両者を支えているしくみはこれからお話しするさまざまな血液細胞たちのことであり、つまり「森にある各々の木々」のことであります。よりわかりやすいイメージにしますと、「おみこしワッショイ」です。

「おみこし」はあなた自身であり、担ぎ手は血液細胞たちです。担ぎ手が多くても意思統一されていますと、「おみこし」は素敵にねり歩けるでしょう。意思がバラバラだったら…。担ぎ手が急に減ったら…。担ぎ手の中でけんかが起こったら…。突然一人が怒りだしたら…。

こうした事態が免疫バランスの異常にほかなりません。「抵抗力」が高まるのならば自身にとって感染を防いでくれますから、うれしいはずです。しかし、別 のシステムが勝手に元気になって花粉症や喘息をひき起こしてしまうと、アレルギーだといって自分のからだをののしることになりましょう。

しかし、これも究極の生体防御反応に他ならないのです。これらのしくみについてすこし込み入った内容ですが、説明する必要があります。「免疫力」の誤解を解くためにも。

免疫細胞たちとは

免疫反応を支えている細胞たちは血液細胞たちでとくに白血球のファミリーです。これらの細胞たちは「おみこし」を担ぐ人々に相当します。これらの血液細胞たちは大変原始的な細胞たちで、血液の液体成分である血漿という「海水」の中に住んでいる単細胞系といわれています。

血漿はちょうど海水と同じように塩分が主成分です。ですからからだの中の血液をはじめとする体液は海水とほぼ同じであり、「原始の海」をからだに溜め込んでいるともいえましょう。

これらの細胞たちは個々バラバラにはたらいていますが、いくつかのグループにわかれています。赤血球を含めて、骨髄内でひとつの幹細胞から分かれて各々のはたらきをするように成熟していきます。

細胞質に細かい顆粒を持っている顆粒球(分葉核白血球)と単球-マクロファージ系というグループが数も最も多くて代表的な白血球のグループです。もう一 つのグループは、ほぼ球形のひとつの細胞核をもった単核球とよばれているリンパ球系で、リンパ球や形質細胞と呼ばれている細胞たちです。

ところでこれらの細胞たちはあなた方を守ろうという意思を持っているとお考えでしょうか。こんなバカな質問はありえませんが、あえてしました。「一見バ カみたいな質問」ですが、どうお考えですか。私が教えている医療系の多くの学生諸君は、「なんとなくそうだ」と考えているようです。「細胞たちは自分のた めにはたらいている」という観念に取り付かれているほうが当たり前だろうとおもいます。

けがをしてもこれらの細胞たちが治してくれるではないか。細菌感染が起こり化膿しても、これらの細胞たちが細菌をやっつけてくれるではないか。などなど は当たり前のイメージですよね。ところがこれらはまさに妄念といえるものです。細胞たちはあなたのために働いているのではなく、単なる化学反応的にはたら いているに過ぎないのです。

医学生物学の進歩の中でも画期的な果実は、細胞培養法の確立です。血液細胞たちは個々バラバラですから、血液から容易に分けて取ることが出来ます。しか し試験管内でしばらく生かすための培養液の内容を確立することは大変むずかしいことでした。成分の基本は食卓で見慣れた「オシオ」です。皆さんもご存知の 「生理的食塩水」はまさに0.9%のうすい「塩水」にほかなりません。

血液細胞たちは血管の中を循環しながらからだの中をパトロールしています。血管の最も細い部分は網の目のようにからだの隅々までひろがっている毛細血管と呼ばれており、この部分から白血球系細胞は血管のまわりにも出ていってパトロールします。

毛細血管とそのまわりは免疫反応や炎症反応の起こる場所は「内部環境」と呼ばれており、細胞同士が話し合っているからだで最も重要な場所です。生理的に、白血球はしばしば毛細血管から出て行ってはたらきます。とくに好中球はそこで寿命が尽きてしまいます。

ほかの顆粒球は後述するように生きつづけておのおののグループにあったはたらきをします。リンパ球は、ここではたらいた後にリンパ管に入って最終的には 血管の中にもどります。医学研究史的にいいますと、リンパ管の中から見つかった細胞なのでリンパ球と呼ばれるようになりました。

こうしてこれらの細胞たちが全身を循環しているおかげでからだのすみずみまで守ってくれています。

ところで、血液細胞たちは赤い赤血球以外は透明人間のようにノッペラポウです。衣服やキモノのように、いろいろな色素で染めてみないと細胞の特徴は見えてきません。血液細胞の大きさや形、細胞質の中にある微小な粒々(顆粒)を染め出すことによって分類ができます。

顆粒球は酸性色素の好きな顆粒を持った好酸球、塩基(アルカリ)性色素の好きな好塩基球、中性色素の好きな好中球の三種類です。

これらの三つの細胞集団は集団ごとにおのおの異なった役割を受け持っています。一つのグループの細胞たちは数が多くてもほとんど同じような働きをしま す。この特徴は、次章の「その2」でお話しするリンパ球や単球-マクロファージ細胞たちが個々の細胞でほとんど異なった働きをするという点で大きく異なり ます。三つの集団のうち最も数の多い好中球から説明します。

好中球

このグループの顆粒球は一辺の長さ1mmという目でようやく見える程度の小さな立方体の体積の血液中に約5000個もいます。ちなみに赤血球はこれのな んと1000倍もいます。これらの白血球は毛細血管の壁の隙間をすり抜けてまわりに出ていけます。通常は少数の好中球が内部環境のお掃除をしています。

この細胞集団は、後述するマクロファージの分子の指令を受けると、一挙に毛細血管外に出動することになります。これらの細胞たちは「ベテランの自爆テロ」ともいえるような物騒な細胞たちです。「ひとはたらき」すると死んでしまいます。

これらが集まった死骸が「膿み」ということであり、ニキビの黄白色のツブはそのイメージといえます。これは病理学的には「化膿性炎」という非特異性炎で す。これは読んで字の如く、まさに「膿みに化ける」ということば通りの炎症です。ひどくなったニキビのあとにアナボコができますが、これは自爆テロの爆発 痕のように治りきらずにしこりとなったものです。

つまり好中球は細胞質にある中性の色素に反応する顆粒の中に強力なタンパク分解酵素を常にもっていて、これを分泌することでからだの中を壊しながら自分の細胞であれゴミ(異物)であれ、お掃除をしている細胞といえましょう。

外から入ってきた異物(つまり常に接触している)細菌やカビに対して溶かしてしまえば、第一線の感染防御ということになります。たくさんの細菌が押し寄せてくると、後述のマクロファージの指令で好中球が先頭切って飛び込んできます。

病理学的には好中球が呼び寄せられて起こる炎症を急性化膿性炎といい、非特異性炎と呼んでいます。また、みなさんが「盲腸」炎と呼んでいるものは正確に は虫様突起炎(あるいは虫垂炎)で、典型的な急性化膿性炎という非特異性炎です。ちなみに日焼けや「たんこぶ」も急性炎症ですが、好中球はほとんどかかわ らない別の非特異性炎です。

一方、結核菌などで起こる「炎症」は「その2」で説明するマクロファージとリンパ球による特別な炎症で、「特異性炎」と呼んでいます。つまり、原因によって免疫細胞たちは役割分担して働いているというわけです。

好酸球

この顆粒球は酸性の色素(一般的に赤い色素)に染まる顆粒を持っており、いわゆる「赤い細胞」と呼べます。この細胞たちは1立方ミリメートルにせいぜい 数百個しかいません。この細胞たちが血液の中に増えてくる疾患の代表例の一つは喘息などのアレルギー(正確にはI型アレルギー)疾患です。アトピー、花粉 症、アレルギー性鼻炎などなど。

I型アレルギーについては、別章で説明いたしましょう。もう一つの代表例は寄生虫感染です。寄生虫の特殊な成分にこれらの顆粒球が好んで反応するしくみ がわかってきています。このグループの顆粒球がどのようにこのような疾患とかかわるのかについても、別章で説明いたしましょう。

好酸球は血管の外にも出て、からだのあちこちに潜んでいます。また消化管のように食べ物と接触するような場所にも潜んでいます。潰瘍性大腸炎ではしばしばこれらの細胞が反応しています。

好塩基球

この顆粒球は塩基性(アルカリ性)の色素(一般的に青い色素)に染まる顆粒を持っており、「青い細胞」と呼べます。この細胞たちも1立方ミリメートルに せいぜい数百個程度です。この細胞たちが増える代表的な疾患はいわゆるアレルギー(I型アレルギー)です。とくに花粉症の症状をひき起こす元凶はこの細胞 です。

この細胞グループは血管外に出て大人になり、肥満細胞(マスト細胞)と呼ばれる細胞になります。これらの細胞たちが鼻の粘膜やまぶたの粘膜に潜んでいて、花粉が飛んでくるとある抗体の作用によってヒスタミンという強力な物質が青い顆粒から分泌されます。

このことについても後に説明する予定です。それでは、次章の「その2」では、ほかの白血球とそのはたらきについて説明いたしましょう。

プロフィール
遠藤 雄三(えんどう ゆうぞう)氏

浜松医科大学(第一病理)

遠藤 雄三(えんどう ゆうぞう)

昭和44年(1969年)東京大学医学部卒。虎の門病院免疫部長、病理、細菌検査部長兼任後退職。カナダ・マクマスター大学健康科学部病理・分子医学部門客員教授となる。現在、浜松医科大学第一病理非常勤講師、宮崎県都城市医療法人八日会病理顧問、看護学校顧問。免疫学・病理学・分子医学の立場からがん・炎症の研究を進め、現在に至る。

<主な研究課題> 生活習慣病予防にかかわる食物、サプリメント、生活習慣病と公衆衛生、IgA腎症と粘膜免疫とのかかわり、人体病理学、臨床免疫学、実験病理学

バックナンバー

病理専門医からみた健康戦略シリーズ[2]

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・掲載18 自己とは?非自己とは?(18) 粘膜免疫系リンパ装置と病気②

・掲載17 自己とは?非自己とは?(17) 粘膜免疫系リンパ装置と病気①

・掲載16 自己とは?非自己とは?(16)

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病理専門医からみた健康戦略シリーズ[1]

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