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病理専門医からみた健康戦略シリーズ[2]

掲載20

自己とは?非自己とは?(20) 粘膜免疫系リンパ装置と病気④

パイエル板とBリンパ球

リンパ球は大きく分けるとBリンパ球とTリンパ球があるということはすでに説明いたしました。Tリンパ球のTはthymus(胸腺)の頭文字です。Bリンパ球のBはトリの肛門部にあるリンパ装置で発見者であるファブリキウスの名前のついたファブリキウス嚢(袋)Bursa of Fabriciusの頭文字Bに由来します。パイエル板、これがヒトのファブリキウス嚢に対応するのではないかといわれた時期があります。しかしヒトを含む哺乳類では、骨髄(Bone marrow)のBということで落ち着きそうです。

扁桃(腺)、パイエル板あるいはファブリキウス嚢も免疫系が活発なときには、マクロファージとTリンパ球の支えの上にBリンパ球集団は元気になり、抗原刺激に対応してリンパ濾胞集団をつくっていきます。この集団構造は肉眼的に認めることができます。濾胞ということばは、大きさといいイメージといい「タラコのようなツブ状構造」に極めて類似しています。健康なヒトのリンパ節、扁桃腺、脾臓の断面には濾胞構造が認められます。リンパ組織での濾胞は抗原刺激によるBリンパ球の成長、増殖する場所ということができます。

「リンパ濾胞」に関連して思い出されるのは、手術例の脾臓のリンパ濾胞と病理解剖例の脾臓です。多くの場合、後者にはリンパ濾胞は強く萎縮して確認できません。比較的急死の形でお亡くなりになった患者さんでは脾臓のリンパ濾胞はよく保たれています。このことは何を意味しているかといいますと、死亡直前に「死戦期」という「ことば」がありますように、死んで行く過程でリンパ濾胞が消耗して行く事を意味しているのではないかと考えます。

 免疫グロブリンのIgA 

パイエル板のリンパ濾胞形成は抗原刺激に対する免疫系の発達を意味しています。自然免疫系のIgM抗体産生からクラススイッチした抗原特異的なIgA免疫グロブリン抗体産生を促します。これが粘膜免疫系の液性免疫防御体制となります。しかし抗原刺激と抗原特異的IgA抗体の過剰産生が持続していきますとIII型アレルギーをひき起こす可能性が増してきます。いわゆる抗原と抗原特異的IgAそして補体第二経路からなる免疫複合物は体内のゴミ処理施設である細網内皮系(単球-マクロファージ系)のクリアランス機構の処理能をこえますと血管壁への免疫複合物沈着=血管炎、あるいはIgA腎症、アナフィラクトイド紫斑病(紫斑病性腎炎)をひき起こすことになります。これらは波状的な消化管内抗原刺激が慢性的な炎症をひき起こすことであり、IgA腎症は日本人の慢性腎不全原因の代表的な慢性炎症性腎疾患です。

 抗原刺激とIgA腎症 

虎の門病院時代の研究テーマのひとつがIgA腎症の病因究明でした。グラム陰性細菌菌体膜成分の抗原物質の同定を試みました。細菌に由来する原始的な脂質担体タンパク複合体がIgA腎症の病因抗原の可能性を指摘できました。

扁桃(腺)炎あるいは粘膜免疫系の抗原侵入門戸からの抗原刺激で起こりやすい腎疾患には急性糸球体腎炎と上記のIgA腎症が挙げられます。これらのちがいは抗原刺激に対して抗原特異的なIgMとIgG抗体産生なのか抗原特異的なIgA型抗体産生なのか、そしてさらにこれらの抗原抗体複合物による補体活性化のちがいによって急性糸球体腎炎になるのか慢性糸球体腎炎になるのか、病像が異なるのではないでしょうか。

急性糸球体腎炎は子どもの扁桃腺炎後に数%の割合で起こりやすく、多くの場合β型溶血性連鎖球菌感染が原因菌とされています。これは抗原刺激後の約10日から二週間後にコカコーラ様の血尿が出ることから気づくことになります。この間に体内では前述しましたIgG型の免疫複合物の処理が行われているわけですが、免疫複合物の処理が間に合わなくなると、糸球体のフィルター効果部分に目詰まりが起こって毛細血管が壊れて血尿として発症することになります。抗生物質で細菌が排除されると、抗原刺激がなくなり、免疫複合物も減少して、病気が治って行くことになります。

IgA腎症の場合も、1/3の患者さんは扁桃の炎症を自覚しているようです。しかし、隠れ扁桃腺炎もあるようで、じわりじわりとした粘膜免疫系からの抗原刺激が持続あるいは反復しているようです。IgA型の免疫複合物形成にいたる事になるでしょう。

プロフィール
遠藤 雄三(えんどう ゆうぞう)氏

浜松医科大学(第一病理)

遠藤 雄三(えんどう ゆうぞう)

昭和44年(1969年)東京大学医学部卒。虎の門病院免疫部長、病理、細菌検査部長兼任後退職。カナダ・マクマスター大学健康科学部病理・分子医学部門客員教授となる。現在、浜松医科大学第一病理非常勤講師、宮崎県都城市医療法人八日会病理顧問、看護学校顧問。免疫学・病理学・分子医学の立場からがん・炎症の研究を進め、現在に至る。

<主な研究課題> 生活習慣病予防にかかわる食物、サプリメント、生活習慣病と公衆衛生、IgA腎症と粘膜免疫とのかかわり、人体病理学、臨床免疫学、実験病理学

バックナンバー

病理専門医からみた健康戦略シリーズ[2]

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